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ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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大丈夫か日本財政17年版 その8 日銀保有の国債はどうなる 4

2017年06月28日 | 大丈夫か日本財政

  藤井聡太君の快挙、試合のたびに興奮します。日本中の誰もが次の試合を楽しみにしているので、是非続けてほしいです。でも負けた棋士はちょっとかわいそうです。明らかにハンディを背負っているように思えるからです。藤井君は対局に臨むたびに大勢の報道陣に囲まれフラッシュをたかれることに慣れていますが、対局者のほとんどは初めての経験のはず。

  次回は7月2日の日曜日に佐々木勇気棋士との対決ですが、佐々木棋士は藤井君の今回の対局の開始時に報道陣とともに対局室にいて、彼の入室から初手までしっかり見ている様子をカメラがとらえていました。雰囲気にのまれないための予行演習でしょうか。いい心がけですね。二人の勝負、楽しみにしましょう。ちなみに、私が最後に将棋を指したのは、小学生でした(笑)。


  本日6月28日の日経新聞朝刊に、「銀行の国債保有 最低に」という見出しで、金融機関の窮状が書かれていました。簡単に要約しますと、

「銀行や農協などの保有国債額は202兆円で、前年比マイナス17%。全体に占める保有割合は18%と5年前の半分になった。それに対して日銀は17%増の427兆円、占める割合は39%に達した。銀行は国債売却による収益に頼っているが、やがて限界が来る。」

  一方、私が同じニュースでもう一つ注目したのは、海外投資家の保有比率です。異次元緩和前に8%だったものが、11%になっているというのです。金額的にも3月末で116兆円に達しています。10%を超えてくると、さすがにいっせいに売られるとかなりの激震になり、要注意です。

  さて、前回からは異次元緩和の出口戦略の問題に入りました。日銀にはたして出口はあるのか。まず、いよいよ出口を出ようとしているアメリカのケースを見てみましょう。出口を出るには、当座預金に溜まった超過準備の解消が最大の難関になります。

  アメリカの場合、超過準備の解消とは全額の解消ではなく、とりあえずは半分程度の解消だという目標を設定しています。そしてそこまでには少なくとも5年はかかるだろうと計算されています。その間に同時並行的に必要となるであろう利上げは、FRBが超過準備に対して付けている金利水準を段階的に引き上げることで行います。

  実際にFRBは出口の準備として利上げをすでに3回行っていますが、それは付利の水準の引き上げで行いました。そして今後も行われると予想されています。この秋、あるいは年末には利上げとともに資産圧縮の開始を目指しています。圧縮のやり方は、債券を単純に売ると金利を跳ね上げる恐れがあるので、売却はしません。債券が満期を迎えた時、償還金をもらっても再投資しないという方法を取り、インパクトをやわらげるのです。これまでは償還金を受けるとその分を再投資して、緩和の量的規模を維持してきました。それを今後は再投資せず、満期になった分資産規模を縮小するというやり方を採ります。それを「満期落ち」とも呼びます。

  その5年ほどの間に生じる可能性のある問題があります。それは、付利のレベルが保有債券の金利を上回る、つまり「逆ザヤが生じる」ことです。アメリカの場合、FBRの保有債券の金利は3%台と言われますが、それを支えるファイナンスのコスト、つまり当座預金への付利のレベルがそれを超えると、収入より支出が大きくなるため損失が生じる、ということです。1回につき0.25%とすると、まだ7・8回は大丈夫。利上げ回数がさほど多くなければ、大きな影響は出ないでしょう。

  FRBはこうした検討をしていることを議事録などですでに何年にもわたり開示してきました。そのため実際の満期落ちが始まっても、市場に与える影響は大きなものにはならず、織り込み済みという形になると思われます。

  それだけ前広に開示する理由は、例のバーナンキショックです。13年の5月に起きたもので、その当時のFRB議長のバーナンキが、「緩和策の終了にむけて徐々に資産買い入れ額を圧縮するぞ」と言っただけですが、日本を含め世界中の株式などが大暴落しました。それがいわゆるテーパリングの開始宣言で、バーナンキショックと呼ばれました。

  テーパリングはそれまでの緩和策を逆転して引き締めるというものではありません。緩和のペースを落とす、つまり債券買い入れ額を徐々に減らすだけなのです。しかし緩和慣れして弛緩しきった市場には大ショックが走りました。

  その経験を踏まえ、イエレンのFRBは資産縮小に向けた議論の開始段階からどんどん開示して、市場にショックが起こらないよう工夫を重ねているのです。このところもイエレンはじめ各理事は、講演会のたびに資産縮小の話をし、市場に牽制球を投げ続けています。

  方や日銀は「出口を議論するのは時期尚早」と繰り返し、市場関係者の多くが「説明責任を果たしていない」と指摘し続けています。日銀の考え方は、出口議論は緩和策が成功したあかつきに開始するものだという、いかにも大本営らしい考え方です。南方の戦線では玉砕につぐ玉砕なのに、原爆を落とされるまで絶対に負けを認めずにいたあの大本営を思い起こさせます。

  何故FRBのように途中で出口の議論をしないか。はっきり言ってしまえば、それ自体異次元緩和策の失敗を認めたことになると日銀は思っているからです。私の言う日銀の失敗とは、物価2%の約束の達成ができないばかりでなく、日銀財務状況の悪化が信用の崩壊に進み始めることを指します。

  国の財政状態が最悪のレベルにあるため、政府は日銀を支援できません。これまで日銀が国債の爆買いで政府を一貫して支援してきたのですから、反対に政府が財務状況の悪化した日銀を支援することなど絶対にできないのは明らかです。

  それでも無理して政府が日銀を支援するため救済国債を発行して日銀に引き受けさせ、そのカネで日銀を救うなんていうおバカなことが起こらないことを祈ります(笑)。どこぞの「日本国は破綻しない」論者が言いそうなことではありますが(爆)。

  私はこの閉塞状況を脱する唯一の道は、原爆が落ちる前に一刻も早く黒田総裁に責任を取らせてご退場いただき、負けを認めて出口議論をすることだと思っています。もちろん今の政府にできっこありません。政府も一緒に負けを認めなくてはならないからです。

  本来、中央銀行は政府から独立し、政府の赤字をファイナンスするなどもってのほかという立場を取るべきです。しかし今の政府日銀は全く一体となって、敗戦に向けまっしぐらに進んでいます。それでも黒田総裁は国債の4割を買っておきながら今の状態は「日銀による財政ファイナンスではない」という大本営発表を繰り返しています。

  ついでに言うなら、安倍政権の本質的ヤバさは、三権分立を無視しているところにあると私は見ています。一つ一つの政策がうんぬんなどではありません。そんなものは枝葉末節です。安保法制の議論の中で、正々堂々と内閣が憲法の解釈を勝手に変更しました。三権分立を真っ向から無視したのです。高い支持率を背景にした、とても近代国家とは思えない暴挙です。

  日銀は本来であれば四権分立というべき独立性が保証されている主体であるにもかかわらず、今は政府と一心同体になっています。「戦時非常体制」という名のもとに憲法や法律を無視した大本営のやり口と同じです。

  そのうち本当に財政問題がヤバくなったあかつきには、「初めから何故もっと真剣に日銀の独立性を確保しておかなかったのか」、とみんなが言い出すにちがいありません。みなさん、ここんとこ、よーく覚えておいてください。

  政府はここに至っても財政赤字問題を棚上げにし、2020年でバランスさせるという目標を実質的に放棄し、日銀は出口論議を避けています。

  次回はさらに深刻な償却損問題です。国債を償還価格の100を超える価格で買い入れ続けたので、償還時には必ず損が出ます。それによって将来見込まれるのが、償却損問題です。

  何故より深刻なのか。

  それは「確定している損失」だからです。

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大丈夫か日本財政17年版 その7 日銀保有の国債はどうなる 3

2017年06月25日 | 大丈夫か日本財政

  日本の債券取引の指標である10年債の金利が、先週末まで7営業日全く動かなかったというニュースが流れました。取引量が極端に細っているために起きている現象です。日銀が浮動玉をほとんど吸い上げ、金融機関が長期保有を決め込んでいたはずの国債まで吸い上げ尽してしまったからです。

  株式相場で言えば日経平均株価が7日間動いていないのと同じくらいの重大事です。それは流動性の枯渇そのものです。日本の投資家が一番欠如しているのが、この流動性に対する重要性の認識です。

  私は著書でもこのブログでも、『資産運用にとって一番大切なことは、一に流動性、二に流動性、三にも流動性だ』と申し上げてきました。それがソロモンブラザーズに入社した最初に受けた教育で、当時の会長が言った言葉です。

  一般的に日本では債券のことはニュースとしてほとんど扱われませんので、こうした価格変動がないという事実を知らない方も多いと思います。扱わない理由は、マスコミ側が資本主義の基本がわかっていないためです。投資=株式=資本としか見ていない。わかっていないというもう一つの証拠は「自己資本比率が高いことはよいことだ」という間違った認識からきています。債券=借金。借金は少ない方がよい。このことが間違った認識だという説明はまた別途差し上げます。

  もう一つ日経新聞が取り上げた最近の日本市場の異常な点は、日銀の株買いです。6月24日土曜日の日経夕刊トップは「日銀、株、買い一辺倒」というタイトルで、異常さを指摘しています。簡単にサマリーします。

「異次元緩和の一環で上場投信ETFの買い入れ金額を、16年7月から年6兆円に拡大してから1年近くがたち、推定残高17兆円。上場している企業のうち833社で、日銀は上位10位以内の安定大株主になった。保有割合は多いものから、アドバンテスト16.6%、ファーストリテーリング15.0%、太陽誘電14.1%・・・。」

  株式は価格さえ上がればだれも文句を言わないため、こうした異常事態を強く非難する人はあまりいません。記事では一応、「株価が上昇しているうちはよいが、下落に転じたらどうするのか。そして債券は償還期限が来るが株には償還がなく、出口は見えない」という指摘はしています。

  売れないものを抱えるというリスクを、リスクを取ってはいけないはずの日銀が最大限抱え込む。その異常さをみなさんはしっかりと頭に入れておいてください。物価に対して効果がないにも関わらずそれを継続する日銀に、いずれはトガメが来ます。

  普段我々が多く目にする金融に関するコメントは、株屋さんちのストラテジストやエコノミストのコメントが多いため、真っ向からの批判はあまり目にしません。彼らはひたすら株価が上向くニュースを流し続けるため、目が曇っています。

  

  さて、今回は日銀の出口戦略です。なるべく簡単に説明しますが、どうしてもわかりづらい付利問題に触れざるをえません。

  大規模な資産買い入れの対価として短期金融市場には巨額の余剰資金が供給されています。日銀がたとえ長期債を買っても、売り手の銀行は日銀の当座預金に預けるので、それは短期資金になります。しかも実際にはその大部分が「超過準備金」として預けられたままになっています。そのことはアメリカでも同じだということを前回説明しました。

  この巨額の超過準備がある程度解消しないと、市場には資金不足は生じません。資金不足が生じないということは、市場で短期金融取引は成立しづらいので、市場金利が付かないというような状況になってしまいます。それが長期金利でも起きていて、先ほどニュースになったと書いた、長期の指標銘柄まで値が動かない、というところに至っています。

  短期市場は銀行が資金調達をする市場。長期市場は銀行にとって資金運用をする、つまり例えば国債に投資をする市場という違いがあります。銀行の基本行動は短期調達・長期運用で利ザヤを稼ぐことです。

  理論的には、買い入れた国債を市場で売却できれば、あり余る資金を市場から吸収できます。すると超過準備も自然に解消できることになります。ところが日本の場合、長期金利が上昇してしまうのは自殺行為ですから、絶対にできません。

  では、出口戦略論議をすでに終えて、いつ実際に開始するかという段階に達しているアメリカの場合はどうか。もしFRBが景気回復による金利上昇局面で債券を売却すれば、安値での売却となり、巨額の売却損を計上しなければならなくなります。評価損ではなく、実現損になってしまいます。そこでFRBが編み出したのは債券の満期到来を待って、保有債券を徐々に減らしていく方策です。

つづく

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大丈夫か日本財政17年版 その6 日銀保有の国債はどうなる 2

2017年06月21日 | 大丈夫か日本財政

 「総理大臣の私が先頭になり、ドリルの刃となってあらゆる岩盤規制を打ち破る決意であります」

  

  えっ、まるで他人が作ってきた規制を打ち破るようなことを言っている。それが一昨日の安倍首相の記者会見を聞いた私の率直な印象です。

   戦後一貫して自らの既得権を守ろうとして規制を作れと言ってきたのは業界団体で、それに乗って規制を作ったのが自民党政権。しかも農業を含め、ありとあらゆる業界団体から選挙のたびに票とカネをもらい、業界出身議員まで数多く誕生させてきたのは自民党です。今回あたかも官僚組織が規制を作って守っているように言うのは間違っています。法律を作ったのは国会であり自民党で、官僚はしょせんそのルールのもとで運用しているにすぎな。

   このところ首相になった人は、判で押したように「岩盤規制をぶち壊す」と言っていますが、それこそ自分がマッチで火をつけたのに、それをオレ様が消してやると、えらそうに言っている自作自演のマッチポンプです。

   前回の記事で私は安倍政権に関して、「果たしてこれで本当に逃げ切れたか否かは、支持率の変化と都知事選の結果次第となりそうです。」と申し上げました。週明けに発表された報道各社の内閣支持率調査は、アベチャンの支持率急落を示しています。ちょっと並べてみましょう。

 

       支持率%   下落幅、ポイント

 読売      49%      ▲12

朝日       41%      ▲ 6

サンケイ・共同  45%      ▲ 7

日経       49%      ▲ 7

 

   支持率は並み5割を割り込み、もっとも急落した読売の調査では12ポイント。「私の改憲案は読売を読め」と言ったのにね(笑)。不支持率は各社とも上昇し、支持率に接近しています。さすがに慌てたアベチャン、一昨日の会見では珍しく自分のおごりと尊大さを認め、謝罪をしました。

  昨年の集団的自衛権という違憲立法を強引に成立させたときも同様に急落していましたが、その後は回復しています。今回もこの結果をもって内閣の崩壊が一気に始まるとは思えません。あのとんでもない法務大臣を切って捨てるくらいでも、ある程度の歯止めにはなるでしょう。しかし安倍政権の本質が次第に明らかになるにつけ、回復スピードはあがらないと思われます。一方でこの急落を見てほくそ笑んでいるのは小池都知事です。都議会選挙がアベチャンに対する次のパンチになりそうです。

   我々が首相の会見で最も注目すべき点は、言ったことではなく、言わなかったことにあります。つまり、日本の最大の問題である財政再建について、一言も言及しなかったことこそ、注目点です。

   会見は反省から始まり日本再生議論におよび、今後の政策運営方針を示しました。しかしそこで財政再建問題には全く触れず、私が知る限りマスコミも私のような指摘を一社もしていないと思われます。

   このブログは、いつも日本のアキレス腱は財政問題であると認識しています。多くの読者の方の不安・関心はその点にあるため、今後もしっかりとフォローしていきたいと思っています。

  

  さて本題に戻ります。財政問題に直結する日銀問題です。日銀の資金供給の方法に関してみなさんからの多くの疑問・質問、そして違和感を持ったとの感想をいただき、それに回答をしてきました。

   今回の議論を通じて私が改めて認識したことは、日銀は簡単におカネを刷って世の中にばら撒くことができるという誤解をされている方が多いということでした。コメント欄での質疑応答を通じて、それが簡単にはいかないことだけは、かなりの方に理解していただけたのではないかと思っています。

   日銀の総資産が500兆円を超えたというニュースが流れています。このままではいずれ日銀の異次元の緩和策は立ち行かなくなり、日本国の信用が崩壊する時が来ます。その経路に関して以前は、

 ①   財政の垂れ流しによって長期金利が上昇し、日本国債の価値が毀損。国債を大量保有する金融機関が信用を無くし資金逃避が起こる

②   それと連動するか、あるいは競争力の減退や原油価格の高騰など別の要因で円安になり、海外への資金逃避が起こり、財政がたちゆかなる

③   日本人の高齢化とともに家計の金融資産が減少を始め、財政に資金を供給できなくなる

  こうした可能性があると説明してきました。

 

  ところが日銀の異次元の緩和が2年では奏功せず4年も継続し、国債のありかが金融機関から日銀に移動してしまったため、金利上昇のリスクをひとえに日銀がしょってしまう事態に至っています。①の可能性は日銀のリスクとなりました。すると今一つ、別のリスクが生じます。それは保有国債をファンナンスするための当座預金にかかわる問題で、当座預金への付利の問題です。ちょっと面倒ですが、説明を試みます。めんどうだと思われる方は、ここから先しばらくは読み飛ばしてください。

   日銀の当座預金にカネを預けている金融機関は、当座預金にもかかわらず金利を得ています。金融機関は預金の引き出しに備え、強制的に日銀に預金を積まされますが、それが法定準備金で金額的には10兆円あまり。これには金利はつきません。従来資金不足気味であった金融機関は、金利のつかない当座預金に法定準備金以上の預金は置きませんでした。そして不足分は日銀から融資を受けるのですが、それがそもそも「信用創造」の大元なのです。ところが現在は企業の資金需要が少ないため、銀行は日銀から借りるどころか国債を売ったおカネが余っているため、当座預金にそのままブタ積みしています。ブタ積み理由は、金利が稼げるからです。

   異次元の緩和以降、持って行きようのないおカネを金利の付く当座預金に預けているのはむしろ当然の行動です。法定準備金を超える当座預金に現在は日銀から0.1%の金利を付けています。この金利は08年の11月から導入され、当初はすぐにやめるはずが、今日にいたるまでそのまま維持されています。当座預金が3百数十兆円にも達していると、利払いもばかにできません。300兆円としても、0.1%は3千億円にもなります。一方日銀は保有する国債から得られる金利でカバーしています。

 

  またちょっと難しい話になりましたが、出口では大事なポイントになります。このところ専門家の話題の中心は日銀の出口戦略です。出口では日銀が当座預金に付ける金利、「付利」とよばれますが、それが大きな問題となります。それを次回はなるべく簡単に説明します。そのことが信用崩壊のもう一つの理由になりかねません。

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大丈夫か日本財政17年版 その5 国債を現金で買えるか

2017年06月10日 | 大丈夫か日本財政

  前回の記事のタイトルの番号が間違っていましたので、今回の番号から正します。すみません。

  前回は冒頭で、日銀のバランスシートの私の説明に違和感を持たれる方がいらっしゃるとお伝えしました。そういう方は、国債購入の仕方を工夫すれば、もっと世の中におカネが回るのではないか、というご意見をお持ちのようです。コメント欄にあった提言は、市中銀行の当座預金などあてにせず、現金でそのまま買えばおカネは世の中に出回るはずだ、というものでした。今回はそうは簡単にいかないということを、じっくりと説明します。

 

  違和感その1.当座預金をもって国債を買う

  私の説明には、「日銀は国債を買うのに当座預金によるファイナンスに頼っている」、と書かれています。違和感ありとのことでそれを避けて、他に言葉がないかといろいろと考えたのですが、うまい表現がみあたりません。

  日銀のバランスシートはすでに示しました。資産には国債がいっぱいあり、負債には当座預金がいっぱいあってバランスしていました。では日本同様国債などをしこたま買って大量保有しているアメリカのFRBはなにをもって国債に投資しているのでしょうか、それを見てみましょう。

  日本総研に河村小百合という金融政策や中央銀行の研究をされている方がいます。なかなか鋭い分析をされる方ですが、その方が16年に書いた論文の数字を借用します。論文名は「米連邦準備制度の正常化戦略と今後の金融政策運営の考え方」という長たらしいですが、興味あるタイトルです。日本総研のサイトに行くと見ることができます。

  その中にアメリカが大緩和策を導入する直前の07年12月末と、拡大を終えた15年12月末のバランスシートの比較がありますので、それを見てみます。細かい項目・数字は省略し、大きな項目だけを記載していますので、資産と負債の額は一致しません。

     07年12月末 (億ドル) 

資産         負債 

国債 7,546     銀行券7,918 

  緩和策導入前は実に単純で、銀行券で国債を買っていたという形です。国債はほとんどが短期物で、金融調節のオペレーション上必要なだけ買います。金融調節とは現金を含む市場の資金ニーズに応えたり、短期金利を操作したりすることを指します。

  それが超緩和策の終了時の15年末には国債とモーゲージ債を合わせて4.2兆ドルも積み挙げています。その資金どこから出ているかと申しますと、負債側の銀行券の若干の増加と、これまではほとんどなかった市中銀行の預金などでまかなっています。

        15年12月末     億ドル

  資産               負債

      国債     2兆4,616        銀行券1兆3,808

      モーゲージ債 1兆7,475            預金   2兆2,087

                                                レポ等  4,985

      上記資産計 4兆2,081                上記負債計  4兆870    

   要はどこの国も中央銀行が国債を買うには現金払いだけでなく、預金の受け入れが必要だと言うことです。                        

  07年末の平常状態のバランスシートの説明は、こうも説明できます。それは、

「世の中が必要とするドル通貨を供給するため、FRBは国債を買っている」。

  この説明のほうがみなさんの実感に合うのかもしれません。世の中の資金調節をするのが中央銀行の役目で、実際のやり方は信用に問題のない国債の売買などで行います。金融を緩めようと思うと国債を買って資金供給をし、金利を下げます。引き締めはその逆で、国債を売却して資金を吸収し、金利を上げます。

「日銀も国債を買うのに現金で買えばいい」、という方の主張と同じ方向を向いています。

  しかしリーマンショックの後始末が必要となると、FRBは国債とモーゲージ債を大量に買い進みました。07年、国債のみ7,546億ドルだった資産が、15年末には6倍の4.2兆ドルに達しました。

  その間、銀行券も0.6兆ドル増えましたが、それはさほど大きな増加ではなく、大半は金融機関からの預金2.2兆ドルでまかなっています。 ドル現金通貨の増加は、経済の拡大に伴い必要となるドル紙幣を供給しているという意味合いが強いのです。

  それでも、国債購入の一定量は、現金による支払いでまかなえるということですから、もっともっと現金払いにすればよいのでは、という議論がでてきそうです。それが次の違和感その2.です。


  違和感その2.現金をもって国債を買えばいいのに

   一見可能なように見えるこの方策も、実は物理的には不可能です。その理由を示します。

1兆円を1万円札で積み上げると高さはいったいどれくらいになるでしょう?

10kmだそうです。100万円を1cmで計算しています。

10kmは想像がつかない高さなので、3個に分けて富士山3個分弱としましょう。

400兆円では、富士山の高さに小分けして  3 X 400 = 1,200 個分となります。

こう示しても、まだ実際には見当がつきませんよね。

  では、1兆円をトラックで運ぶと、何台分か。正解は10トントラック10台分だそうです。国債のトレーディングでは、1兆円のトレードはごく普通にありうる取引量です。もちろん普通はトラックによる現金輸送ではなく、単に口座間の振替えで決済します。

毎年80兆円の国債バカ食いをトラック何十台もの現金輸送で処理するのは、まったくもって非現実的です。まず売り手の市中銀行が拒否します。

  みなさん、毎月の給料やボーナスを、今月からは現金払いのみにすると言われたらどうしますか。拒否する人がいるかもしれませんが、しかたないからもらいますよね。そしてすぐ銀行に預けますよね。でないととても危ないし、公共料金やクレジットカードの口座引き落としなどができません。よほどおカネがなくて困っている人以外、キャッシュをポケットに入れて現金払いはしないでしょう。

  国債を売った銀行も同じで、物理的に輸送は困難だし保管も困難。それに札束を誰が数えるのでしょう。札勘は昔は新入行員の役目でしたが、今は機械が行います。しかしこれとて兆円単位で国債を売却するメガバンクは、やってられません。

  では、百歩、いや千歩譲って銀行が現金払いを受けたとしましょう。銀行はたとえ現金で受けたとしても、その後は扱いの容易な電子的決済ができるよう、現金をすぐに日銀に持ち込みます。みなさんや企業が決済用資金を銀行に預けるのと同じです。

  銀行が日銀に現金を持ち込むと、日銀と銀行の勘定はどうなるでしょう。当然銀行の預金、つまり日銀にある銀行の当座預金が増加します。これで元の木阿弥になります。いくらキャッシュをもって支払っても、すぐに日銀に還流しておしまい。世の中には出回らないのです。

  「緩和なんて札を刷って国債を買えばいい」という単純な考えはまず物理的に無理ですし、それをたとえ無理強いしても、現金はすぐに日銀に還流し当座預金が増えるだけなので、意味はないのです。企業やみなさん自身が現金の処理に困り、銀行に持ち込んで預金が増えるのと同じなのです。

  だから日銀もFRBも、ECBも現金での購入などやらないし、それに対してしろうと以外から文句は出ません。日本で文句を言っているのは、わけのわからないことを言い張るリフレ派と、実務を理解しないわからず屋くらいなのです。

  まとめます。

  たとえ日銀が銀行から国債を現金で買っても、銀行は現金をすぐ日銀の口座、つまり当座預金に預けてしまうので、世の中に出回ることはない。つまり当座預金に還流してしまう。企業も我々家計も、現金に対するニーズは小さいので、銀行は行内に大量の現金を保有する必要がない。

  以上が国債を現金で買っても意味はないことの説明です。ここまではご理解いただけますでしょうか。みなさんからのお返事をお待ちします。

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大丈夫か日本財政17年版 その3 バーナンキの懺悔

2017年06月07日 | 大丈夫か日本財政

  日銀のバランスシートをめぐり横道に逸れていましたが、徐々に元に戻ることにします。そもそもSYさんやマッピンランドさんなどをはじめ多くの方が、私の「日銀保有国債はどうなる」の記事に漠然とした違和感を感じているのは確かなようです。

  私なりに分析すると、その原因は2つあるようです。

まず違和感その1ですが、それは私が次のように書いているからでしょう。

引用

国債を資産として貸借対照表上に保有し続けることができるのは、それに見合う資金調達ができているからです。

引用終わり

  この文章でみなさんが持たれる違和感のポイントは、日銀はそもそも緩和目的の資金供給をするために国債を買ったのであって、市中銀行からファイナンスをしてもらって買ったのではないはずだ。たまたま結果として今はバランスシート上で市中銀行の当座預金と国債がバランスしているのだろう、ということが一つ。

  そしてマッピンランドさんは「国債は日銀券を印刷して買えばいい」。それで市中に資金供給はできるはずだ、という解決策を示しています。これが違和感その2です。

  これらについての私からのコメントは次回に譲ります。政府・日銀を巡って、もっと大事なことが起こっているからです。


  それは「日銀の超緩和策ではデフレから脱却できない」という突然の『バーナンキの懺悔』があったからです。

  このことは、私の尊敬するエコノミストの一人である東短リサーチの社長兼エコノミストの加藤出氏が先週のTVのモーニングサテライトに出演中に述べ、さらに今週号のダイヤモンド誌の彼のコラムにも投稿しています。

ダイヤモンド誌のコラムを私なりに要約します。

タイトル;教祖様に懺悔された日銀 

サブタイトル;バーナンキ前FRB議長の反省

内容;5月24日、日銀内で開催された講演会で氏はアベノミクスの当初を振り返り、「私はよく理解できていなかった。特に初期の論文では楽観的過ぎた。中央銀行がデフレを克服できると決意して金融緩和策おこなうことに、私は確信を持ちすぎた」と語った。

そして彼はかつて日本のインフレ率が低いのは金融政策が誤っているせいだと日銀を激しく罵倒していた。ここに来て反省の弁を述べている。

この4年間、日銀はバーナンキ氏が推奨した政策をすべて取り込み、さらにそれを大胆に実施してきた。にもかかわらず、コアの消費者物価指数は現在マイナス圏に戻ってしまっている。

また、今後の追加緩和策に関しては、「過去数年用いてきた手段は限界にぶつかっている。特に金利は全般的に下限に近づいてしまっている」と指摘した。

これを聞いた日銀関係者の胸中は複雑だったに違いない。黒田総裁による政策は、バーナンキを教祖の一人とするリフレ派の考えに沿って実施されたものだったからだ。教祖様に懺悔されてしまうと、日銀はどうしたらいいのか。

今後日銀が取るべき方針についてバーナンキ氏は、「インフレ目標の達成を目指す姿勢を堅持しつつ、必要な場合は財政出動を金融緩和と協調させながら拡大させるべきだ」と述べた。

それに対して加藤氏は、海外の著名な学者などによる政策提言がまた間違ったとしても、彼らは事後的に「楽観的過ぎた」と懺悔すれば済んでしまう。デフレの継続は人口減少、社会保障制度、国際競争力低下などにより日本国民が将来に抱く強い不安が原因だから、構造的課題に向き合っていく必要がある、と結んでいます。以上がコラムの内容です。

  みなさんはこのバーナンキ氏の反省の弁を聞き、どう感じますでしょうか。

  加藤氏は私などと同様、当初から異次元の緩和には疑問を感じていて、特に黒田氏の約束だった2年を過ぎてからは、明確に反対の立場を取ってきました。彼は出口があるのにそこから出ていくことのできないことをイーグルスの歌になぞらえ、「ホテルカリフォルニア状態」と呼んでいました。つまり出口とは異次元緩和の巻き戻しであることは明確なのに、それを政策として採用し出口からでることは決してできない、という意味です。

  株価さえ上がればいいという立場を取る無責任な証券エコノミストや、政府に絶対服従の官庁エコノミストなどと違い、加藤氏は短資会社という比較的自由にものが言える立場にいます。日々の金融調節の仲介だけをする会社のため、ポジショントークもありえません。

  気になるのは政府・日銀がこれからどうするかです。この4年をすべて反省し元に戻そうとするのか、あるいはアベノミクス・異次元緩和を開始する時に都合よく使ったバーナンキを使い捨て、あるいは忘れたととぼけるのでしょうか。

  さすがに動かぬ証拠ぞろいのため「バーナンキって誰だっけ」というようなおとぼけはできません(笑)。そしてバーナンキとともにアベノミクスをヨイショするのに都合よく使ったノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大教授はどうするのでしょう。彼は最近はだんまりを決め込んでいて、正々堂々ゴメンナサイしたバーナンキとは違うようです。一方、浜田宏一氏はぼけ老人を装い、間違ったかも、とぼけてみせています。

  日本経済を実験材料にした研究者、そして彼らにものを言わせて日本経済でバクチを打ってしまった政府・日銀。落とし前はどうつけるのでしょう。

  気の毒なのはわれわれ一般の日本人です。特に一度もいい目を見てこなかったのに、ツケだけを負わされている団塊ジュニア以降の若い方々、本当にお気の毒です。

 

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