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ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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大丈夫か日本財政17年版 その17 日銀保有の国債はどうなる 13

2017年08月31日 | 大丈夫か日本財政

  今日の夜はサッカーのオーストラリア戦ですね。

  ガンバレ、サムライ・ジャパン!

  私は先週末、所属しているゴルフ場のクラブ選手権で予選を通過し、次の日曜日から決勝トーナメントです。シニアの通過は16人中4人でした。といっても通過はいつもギリギリ16人目あたりのため、一回戦では一番成績のよかったプレーヤーと当たり、オッズで言えば10対1程度(笑い)。しかも今回の相手は若手のアスリートゴルファーで、クラブで一番の飛ばし屋さんです。体格も180㎝を超え、飛距離は300ヤードくらいとプロ並み、いやプロ以上。体も飛距離も3まわりくらい違う私がどう戦うのでしょう。そんなことは考えず、マッチプレーを楽しんできまーす!


  この2日間は北朝鮮とハリケーン・ハービーで地政学上のリスクが満開です。有事の円買いについて揶揄する記事を書いたばかりでしたが、ミサイルが日本上空を通過するという危険な状況になったので、為替相場はセオリー通り(笑)円高に大きく振れました。28日までの109円台がミサイルを打ちあげた29日には108円そこそこまで一気に円高に飛びましたが、翌30日には109円台に戻し、その後今日は110円台へ。きっと「アメリカがハリケーンに見舞われリスクが高まったので、セオリーどおりドルが買われた」(笑)のでしょう。

 

  さて、本題に戻ります。まとめに入って私が指摘した日本の金融財政のリスクシナリオの要点は以下のとおりでした。

1.異次元緩和政策の不成功から日銀が信頼を喪失

2.出口のない異次元緩和の後始末問題がアベノミクス不信へも波及

3.国債先物市場で売りが優勢となり、悪い金利上昇が生じる

4.日銀の信頼喪失と財政再建赤信号により、日本からの資本逃避が起こり、円の暴落を招く可能性がある

 

  こうしたことが起こる確率が高いか低いかは、国内外の経済や金融市場の環境なども重要な役割を果たします。そこで大事な点をしっかりと見ておきましょう。

  まず世界の主要国の金融政策です。アメリカとEUにおいては、超緩和政策からの出口を模索する政策議論の段階を経て、具体的実行段階に移りつつあります。アメリカはいよいよFRBの資産圧縮がスケジュール化されそうです。将来それが進行し日米金利差がひらいていく段階では円安に振れやすくなり、為替の注目度が高まります。

  欧州でも量的緩和策のテーパリング、つまり欧州中銀ECBによる国債買い入れの減少が検討されています。今回のジャクソンホールでも、日本の周回遅れは嫌がおうにも目立ち、黒田総裁の強気一辺倒の立ち位置に陰りが見えています。欧米のメディアはイエレン氏とドラギ氏に注目していました。黒田総裁は講演者リストには入っていませんでしたが、議論には参加できたはずです。しかしメディアの注目度はほぼゼロで、3人並んだ写真が出た程度でした。

  今後アメリカと欧州が次のステップへと進んで行くと、出口の見えない日本の財政・金融リスクへの対応が国際金融関係者の間では議論の的になるでしょう。

  次に主要国の実体経済と金融相場を見てみます。アメリカの前期のGDP成長率は昨日上方修正され3%に乗りました。それでもこのところのアメリカの経済指標は一方的な好況局面の継続を示唆しているわけではなく、強弱が入り交じるようになっています。金融危機以来、ほとんど休むことなく好調さを維持してきましたので、そろそろ変調をきたす可能性があると思われます。FRBはそうしたことに神経を研ぎ澄まし、景気判断を慎重にした上で、資産縮小を進めるでしょう。しかし株価はそうした強弱入り交じる指標を無視するように堅調で、株価収益率PERはS&P500銘柄で18倍近辺と高止まりしており、景気の変調で下げに転じる可能性があります。アメリカ株の下げは、間違いなく世界の株価に伝播しますので、要注意です。

  一方アメリカの長期金利は、インフレの兆しがなく北朝鮮など地政学上のリスクにも影響を受け、すでに低下していますが、もしこの先アメリカ経済がスローダウンするようなことがあると一段の下げも予想されます。それに呼応してドル円レートもドル安傾向になる可能性はありますが、ドル円相場の変動はアメリカの事情だけでなく、あくまで日米の相対的問題が主な要因ですので、日本側の事情も見る必要があります。それはのちほど。

 

  欧州経済はけん引役であるドイツが堅調を維持していて、IMFがEU全体の来年の成長率見通しを若干上方修正しました。それはひとえに域内・域外の貿易の好調さが裏付けとなっています。そのためジャクソンホールではマリオ・ドラギECB総裁がトランプの保護主義への反対を講演の主題に据え、自由貿易の重要性を強調しました。しかし輸出が好調であるが故にこのところユーロ高となり、輸出に頼る国には逆風となりつつあります。

  海外の一番大きな不確定要素はもちろんトランプです。彼の法人減税をはじめとする経済政策への期待はとっくに剥げ落ちているため、リスクはむしろ支持率回復のため対外的強硬手段に出るリスクです。すでに前言をひるがえしてアフガニスタンへ軍隊を増強するし、北朝鮮の金正恩とのチキンレースも続くでしょう。自身の立場がさらに危うくなれば、北朝鮮に対してより強い姿勢を示し、ロシアや中国とも事を構えるポーズをとる可能性もあります。彼の周辺は強硬派がすっかりいなくなったのでハッタリに終わる可能性が大ですが、それでも破れかぶれの軍事行動に打って出ないよう、お祈りだけはしておきましょう。

 

  欧州ではイギリスのブレグジットの失敗が暗い影を落とすことになるでしょう。しかしイギリスの失敗はEU全体の勝利とも言えます。金融センターのイギリスから欧州へのシフトや製造業拠点のシフトなどは、EU全体に恩恵をもたらしそうです。今後もイギリスやトランプが唱える保護主義が勝利をつかむことなど、ありえません。メイ首相がこの時期にあえて日本を訪問したのは、自国と欧州での四面楚歌からちょっとだけ息をつける日本を選んでだのではないでしょうか。

  中国では秋の共産党大会に向けてすべての事が進行しています。発表される成長率は政治色が強く反映され、目標を上回るように数字が調整されている可能性があり、信頼性には欠けます。しかし実態経済はひところより改善され、元安の進行には歯止めがかかっています。共産党大会では習近平の続投のみならず、その次の大会で定年が来るはずの習近平の任期延長が決められる気配です。暗黙の定年ルールを変更し、3期にわたる長期政権を可能にしようとしています。私が独裁者認定条件の一つに挙げた「任期の延長」を、絵に描いたように実行しそうです。

  しかし大会後は習近平の絶対権力の強大さが、逆に国内の自由化運動を刺激するかもしれません。国民の平均所得が1万ドルを超えてくると、衣食足りて自由化運動に目覚める人たちが多くなるでしょう。そして今後日本を上回るほどの高齢化が進むのが中国です。日本ではバブル崩壊とともに労働力人口のピークを迎え変調をきたしました。まさに日本のような道を歩む可能性があり、その時には一党独裁に対する人民の不満が爆発しかねません。

  次回は日本です。

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大丈夫か日本財政17年版 その16 日銀保有の国債はどうなる 12

2017年08月21日 | 大丈夫か日本財政

  大丈夫か日本財政の17年シリーズがまとめに入りました。前回のまとめ2をおさらいします。ポイントは、何故日銀による国債の爆買いを許し、今日まで至ってしまったかの原因追求でした。それは、

1.欧米における金融危機への中央銀行の対応が、国債の爆買いを正当化した

2.日本は危機ではなかったのに「デフレ克服」を目標に日銀が国債を爆買いしたが、それを表立って非難する有力者がいなかった

3. 市中に国債が枯渇しはじめても日銀は爆買いをやめず、事実上政府が発行する国債を直接買い付けするまでに至っている

 

  日銀による国債の爆買いを私は自己増殖バブルと呼んでいます。バブルは自己増殖型のバブルが一番怖いのです。どういうことか。

  グリーンスパンの指摘したアメリカの「債券バブル」について異論を述べた中で、債券のバブルはアメリカなどではなく、日本にこそあると主張しました。

  だいぶ以前ですが、そもそも「バブルとは自己増殖作用を伴うものが一番危険だ」という説明をしたことがあります。その時に使った例はもちろん日本のバブル時代の例ですが、

1.バブルに踊った人たちは不動産を買いまくって価格を上げ、それを担保にしてもっと借り入れ、さらに不動産を買うということを繰り返し、巨大不動産バブルを形成した

2.企業は自己株式を「特金・ファントラ」を作って買い、価格を上昇させ新株発行をして資金を得、さらに「特金・ファントラ」を組んで自己株式を買い進むということを繰り返し、巨大株式バブルを形成した

 

  これを現在の日本の財政金融政策に当てはめれば、

  「累積赤字を積み上げる政府に対し、政府と一体の日銀が国債買いでファイナンスを付け、低金利にし、それをよいことに政府はさらに国債発行をし、巨大国債バブルを形成している」

  これも見事なまでの自己増殖メカニズムによるバブル形成です。こうした自己増殖のメカニズムは永久に続くことはなく、いずれはピークを迎えるし、危険を察知された瞬間から崩壊が始まります。

  では危険のシグナルはどこに出るのか。

  私は日銀の信用力低下に出ると思っています。では、それを察知するのは誰か。まずはヘッジファンドなどで虎視眈々と日本国債売りを狙っている連中です。内外のヘッジファンドでもイベントドリブン型のヘッジファンドのマネジャーは、崩壊のカギを握る可能性があります。イベントドリブンとは、財政破綻や戦争勃発などのイベントを相場変動の材料に使って儲ける人たちです。

  そして翼賛会に属さないエコノミストなどです。海外のエコノミストなども日本の株やさんちのエコノミストとは違い、客観的に判断できるため警鐘を鳴らしやすい。内外ともに株価崩壊を恐れる株屋さんたちは一番ダメです。大政翼賛会に最後まで留まるでしょう。そして今はアベノミクスを支持しているIMFなども、奏功しないとなれば警鐘を鳴らす側になる可能性があります。

  また格付け会社も早期警戒警報を発令するでしょう。すでにシングルA格になっている日本国債は、トリプルBに下がったとたん、非常に多くの投資家を失います。トリプルB格は名目上投資適格の範疇に入る格付けですが、投資家から買ってもらうためには、かなりの上乗せ金利が必要になります。

  今でも全税収の3分の1が、国民の福祉ではなく利払いなどの「国債費」に使われていますから、金利の上昇により国債費が増えると、本来の財政支出に使えるお金が不足します。するとますます多くの新規国債を発行しなくてはならなくなり、これぞ悪循環そのものになるのです。それがさらなる格下げにつながります。

  そのころには日本国債の破綻に保険を掛けるCDS=クレジット・デフォルト・スワップの保険料が跳ね上がり、保険を売っていた金融機関が破たんに追い込まれる可能性がでます。それを政府が救えるか?自分がすでに追い込まれている政府に救済は無理です。救えないと金融機関の連鎖破たんで、収拾がつかなくなる可能性も出ます。それもこれも、日銀による無理やりの救済となるでしょう。

  そうなると日銀は出口どころではなく、ますます国債を買いまくり、政府が新規発行する国債もすべて飲み込まざるをえません。円の信用は地に落ち、暴落します。

  ある方から「日銀の信用力の崩壊とは何か?」という根本的な質問を受けました。質問をもっと率直に言えば、「信用力崩壊なんて、本当にあるのか」という疑問です。

  あります。簡単な例で説明します。

  大赤字を垂れ流し債務超過に陥っている超巨大会社を、たった一つの地方銀行が支援していたら、銀行も当然おかしくなります。それが銀行の信用崩壊につながるのは理解できると思います。国とのサイズ比較から言えば、日銀は信用金庫くらいかもしれません。

  日本株式会社をまともに支援しているのは、いまや日本銀行だけです。都銀・地銀・ゆうちょ・生損保、いずれも国債を資産から降ろしてしまい、支える側ではなくなっています。

  破綻しない派の人たちはそれを見ても、「巨大な日本国は会社でないので大丈夫だ、日本銀行はおかしくなんかならない」と言っているのです。だったらいつも言うように、

  「税金なんか徴収しなきゃいい!」(笑)

  おカネがなくなると国は会社と同じで何もできなくなります。行政機能はストップし、役人に報酬を払えません。アメリカ政府はしょっちゅうそれで綱渡りをしています。

なお次のアメリカ・サーカスの綱渡りショーは、来月開催です(笑)。

 

  こうしたことは、実はまとめその1で指摘した以下の、⑤につながっていきます。それは、

   異次元緩和政策の信頼性喪失

   出口のない日銀政策の後始末問題がアベノミクス不信へも波及

①     国債先物市場で売りが優勢となり、悪い金利上昇が生じる

②     日銀の信頼喪失と財政再建赤信号から日本からの資本逃避が起こり、円の暴落を招く可能性が大きくなる

   それがいつごろに起こるかを的確に予想するのはとても難しいのですが、次回は当たるも八卦で、それに挑戦します。

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大丈夫か日本財政17年版 その15 日銀保有の国債はどうなる 11

2017年08月16日 | 大丈夫か日本財政

  チキンレースはトランプの勝ち!

  先にハンドルを切って正面衝突を回避したのは金正恩でした。

  本当に戦えば勝ち目がないことを、さすがの金正恩もわかっていますね。この動きに最も貢献したのはトランプを抑えに回っている国務長官のティラーソンと国防長官のマティスでした。彼らは対北朝鮮政策に関して、ウォールストリートに共同で寄稿文を寄せ、北朝鮮にトランプの言葉より穏やかな呼びかけをしています。それがかなり効いたに違いありません。

  一方、トランプ劇場で上演中の「そして誰もいなくなった」の劇はどんどん進行しています。白人至上主義者の集会で起きた暴力事件へのトランプのコメントが大きな波紋を呼びました。ホワイトハウスは直後に釈明をしたのですが、その後のトランプの余計な釈明が、現在さらなる批判を巻き起こしています。

  その結果、大統領への諮問機関として設けられた製造業委員会で企業トップなどのメンバーが辞任して去っていきました。メルク、インテル、アンダーアーマーという錚々たるトップ企業のCEOたちです。そして米国製造業連盟のスコット・ポール会長と、米国労働総同盟産別会議のリチャード・トラムカ会長も辞任。

  それ以前にパリ協定離脱ではテスラのイーロン・マスクやディズニーのアイガーら、恐いもの知らずは辞任していました。そうでないCEOはトランプに逆らうと逆襲されるリスクを感じ、おとなしくしていましたが、今後はトランプのインナーサークルに残ること自体が企業を危機に落とし入れるという危機感を抱いたのでしょう。

  「そして誰もいなくなった」劇は、議会内でも進行中です。私が以前から指摘しているように、来年選挙を迎える与党共和党の議員たちもトランプに危機感を感じているハズです。再選への心配からトランプ離反へと舵を切るに違いありません。アメリカの議員は下院議員全員が2年任期、上院は6年任期で3分の1ずつが2年ごとに選挙の洗礼を受けます。すでにトランプ支持からの離脱を密かに目指す議員たちが多くなっているにちがいありません。


   ではシリーズの「まとめ、その2」です。

  8月5日の「まとめ、その1」で説明したことを振り返りながら、さらに説明を加えて将来を予想します。

  私が従来述べていた家計貯蓄による財政ファイナンスの限界説は、団塊の世代がリタイアしても貯蓄志向が一向に衰えないため、論拠を失いつつあります。しかし家計の主体である日本人は、いとも簡単にパニックを起こすので、今後も要注意だとお伝えしました。

  一方、日銀の国債爆買いにより、市中金融機関が国債保有を通じて有していた財政リスクのほとんどが、日銀に転嫁されています。従来こうした日銀による国家財政ファイナンスは一国の経済・財政運営にとって踏み込んではいけない禁じ手でした。それがいつのまにか当たり前の世界になってしまっています。今は大多数のエコノミストも当たり前の政策として、いちいち非難する人はいません。まっとうなエコノミストは逆に肩身の狭い思いをしています。

  何故そんなことになってしまったのか。

  理由は08年に表面化したアメリカ発の金融危機です。日本ではリーマンショックと呼ばれますが、欧米ではその言葉は聞かれず、金融危機と呼ばれます。それが欧州にも波及し、欧米の巨大金融機関がことごとく危機に瀕しました。各国の政府と中央銀行は一体となって精一杯の危機対応を行いました。まずは金融機関に対し直接貸し出しで資金を供給し、預金者の取り付けを抑え込み、その後は各国ごとに国債購入を通じて市場に潤沢な資金を供給し続けました。

  その時、日本はどうだったか。日本の金融機関で危機に瀕したところなど一行たりともありませんでした。みなさんも預金を降ろしには行かなかったはずです。日銀は欧米ほどの危機対応は必要なかったのです。

  ところが08年からの金融危機が収まった後、日本では13年になってアベノミクスが本格導入され、遅まきながら大緩和策で欧米を追いかけました。その時までにアメリカのFRBも欧州の中央銀行であるECBも景気テコ入れのため巨額の国債買いをしていたので、中央銀行の大緩和策で景気にテコ入れをすることが当たり前になっていました。そのため金融危機のかけらもなかった日本でも、日銀が国債を爆買いすることが、当たり前ととらえられたのです。これが日本の間違いの始まりです。

  アベノミクス導入時は景気も株価も低迷していたため、ほとんどのエコノミスト達は3本の矢による2年限定のデフレ克服政策を絶賛し、政官財による大政翼賛会が形成されました。いったんこうなってしまうと、たとえ2年という目標をミスしても誰も非難せず、さらなる戦線拡大を擁護し続けました。兵站を考えずに戦線を拡大した日本軍の誤りを、まさに踏襲しています。

  私は後になれば必ずこうした反省が行われると思っています。

もう一度ここまでをまとめますと、

1.欧米における金融危機への中央銀行の対応が、国債の爆買いを正当化した

2.日本は危機ではなかったのに「デフレ克服」を目標に日銀が国債を爆買いしたが、それを表立って非難する有力者がいなかった

3. 市中に国債が枯渇しはじめても日銀は爆買いをやめず、事実上政府が発行する国債を直接買い付けするまでに至っている

  日銀はいまでも一応、政府発行の国債を直接買い付けしていません。形の上ではいったん銀行が引き受け、それを日銀がプレミアムを付けて買い取るという形態ですが、実質的には直接引き受けをしています。

  ではここに至っても、何故日銀は直接引き受けをしないのか。

  銀行に儲けを多少なりとも残すということもありますが、本当のところは日銀も「財政ファイナンスは禁じ手」であると、罪悪感を感じているからです。そうでなければ直接引き受ければいいのですが、そうはしません。そうしないのは、日銀による財政ファイナンスは無限の借金地獄への道だと、日銀自体がわかっているからです。

つづく

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債券バブルだって? なにをおっしゃるグリーンスパンじいさん

2017年08月09日 | 大丈夫か日本財政

  ぽんきちさんからのご質問、アメリカの債券バブルの話についての回答です。 

「債券はバブルだ」、という話は今回のグリーンスパン氏だけでなく、他にもこの数年よく出てくる話です。しかしバブルとの見立ては間違っていると思いますし、よしんば正しいとしても小さなバブルが破裂したところで、どうということはありません。

    6月30日の記事で定年退職さんからの同趣旨の質問に回答しました。それは「あるファンドマネージャが債券相場暴落の懸念を表明しているが、大丈夫か」という質問でした。私は、「われわれの米国債投資と債券暴落の話は全く関係がない。むしろ暴落したら「ヤッター、チャンスだ」と言って爆買いしましょう」と回答しました。そのことの懸念であれば、どうぞ6月30日の記事を参照してください。

  せっかくなので、もうすこしグリーンスパン氏の話を突っ込んで解説します。債券は果たしてバブルといえるほど問題なのか、また暴落したらどうなるのか、ということの解説です。今回の日銀シリーズにもかかわる部分がありますので、しっかりと解説します。今回は長いですよ。

  英語版のブルームバーグを見るとグリーンスパン氏の話がより詳しく出ていましたのでそれを参考にします。グリーンスパン氏の話は債券と株式の比較で、「どちらがバブルかと聞かれれば株式でなく債券だ」と言っています。

  91歳の彼は「こんな低金利が続くわけはない」とも言っています。そして「債券バブルが崩壊し長期金利が上昇すると、70年代のようなスタグフレーション状態に陥り、資産価格にとって悪い状況が起こる」、と続けています。特に株式は影響が大だと言っていました。

  スタグフレーションとは、インフレーション下にあるのに経済は活況でなく停滞している状態を指す言葉です。英語の停滞、スタグネーションとインフレーションを合成した造語です。つまりこのままだと、世界の中央銀行が待ちに待ったインフレが来ると言っているのです(笑)、ただし不況と一緒に。

  では70年代はどういう時代だったかというと、オイルショックの激震が2度も世界を揺るがした時代です。バレル当たり2ドルだったオイルが73年の第一次オイルショックで、夜が明けるとなんと5倍の10ドルになり、その後79年の第二次ショックでまた一晩でさらに4倍の40ドルまで駆け上りました。石油価格が10年弱で20倍にもなったのです。今で言えばバレル50ドル前後の価格がなんと1,000ドルになったという話ですから、天地がひっくり返りました。

  それによるコストプッシュインフレに世界経済が打ちのめされ大不況になり、アメリカの失業率は10%にもなりました。各国は2ケタインフレを抑えるため不況下にもかかわらず金利を上げインフレを抑えるしかありませんでした。FRBの大幅利上げで最優遇貸出金利・プライムレートは20%にもなりました。

  いまはどうか。世界はカネ余り状態が続き金利は低下したまま。オイルショックなど歴史のかなたの話でしかありません。あり余るカネは世界の株式、不動産、債券にまんべんなく投資され、石油をはじめ資源開発にも注ぎ込まれ、それでも投資案件不足でさまよっているカネがあふれています。一方どの国でも過剰気味な設備を抱えていて、どうやってもインフレなど起こりようのない状態にあります。

  インフレが見通せない中で安全な米国債などの債券が突然暴落し、金利が上昇することなどありえません。米国債に投資しそびれたみなさんが米国債金利の上昇を待っているように、日本の金融機関も日本国債なきあと利回りのよい安全資産に飢えています。それは世界中のマネーも同じこと。中国マネーしかり欧州マネーしかり。米国債金利が上昇したら、たちまち飛びつきます。アメリカ国内もカネがあふれ、そのうえ海外勢が常に待機しているから金利は上がらないのです。70年代に例を探したグリーンスパン氏の頭の中は、私に言わせれば、「じいちゃん、だいじょぶ?」。新しい世界が見えていないのでしょう。

  グリーンスパン氏は過去にも大きな間違いを犯しています。それも債券にかかわる大きな間違い、そうサブプライム問題を見逃したことです。サブプライムローンを証券化した債券市場の巨大バブルに、FRB議長たるものがこれっぽっちも気が付かなかった、という史上最悪の間違いです。

  ついでに言ってしまうと、彼は2006年までFRB議長を務めましたが、サブプライム問題の原因は彼が作ったと言われています。退任する頃にはサブプライム商品の販売はピークに達し、それに入れ込んだベアスターンズが破たんに瀕し、同じく入れ込みすぎたBNPパリバのファンドが解散しています。そのさなか07年に彼は自身の回顧録を出版しました。すでに問題が全世界に波及していたにもかかわらず、回顧録でサブプライム問題には一言も言及していませんでした。つまり原因を自分が作り出したという認識すらないどころか、問題だという認識もなかったのです。

  そして08年には世界的金融恐慌、いわゆるリーマンショックが起こりました。そこでさすがに反省したのか、彼は「回顧録の悔恨録」を小冊子として出し、反省しています(笑)。昔は彼の政策の采配ぶりを「マエストロ」という言葉で称賛したのですが、今はもう誰も言わなくなりました。

  そうした彼の不明は棚に上げてあげましょう。その上で、もしグリーンスパン氏の言うように金利が上昇したらどうなるか、冷静に見ることにします。彼自身は、株式を含む資産価格が暴落すると言っています。金利が暴騰したら株価は暴落する。もちろん大いにありえます。

  ここで私がもっともみなさんに強調したいのは、「今回の債券バブル崩壊という事態は、サブプライム証券バブルの崩壊や日本のバブルの崩壊とはわけが違う」ということです。何故なら「債券相場が暴落した?それでなにかまずいことでもあるの?」という程度なのです。

  サブプライム関連商品の破たんとは、元となる住宅ローンが払えない、つまり借りた人の多くが破産したので、債券の破たん処理では何パーセントかしが返済されませんでした。投資した人は大損です。日本の株式や不動産バブルも同じ。相場が回復しない限り、崩壊したら損切りしておしまいです。

  米国債の場合はどうか。100で発行された債券がたとえ120まで買われてその後暴落し80になっても、最後に償還される時はまた100になるだけです。ピークの120で投資しボトムの80で売るというドジな人だけが損します。そんな投資をするのは債券ファンドだけです。私がお薦めしている米国債投資は、最後の償還まで持ち切るので、途中の価格変動は全く影響をうけません。

  あえて懸念材料を取り上げれば、純粋に金利の上昇による景気への悪影響と、株式やリート、不動産価格の下落でしょう。しかしそれも金利上昇の程度がどれくらいなのかの問題です。現在10年物金利は2%台ですが、それが例えばブルームバーグの記事に書いてあったのですが、金融危機以前の2000年代の平均、4%になったところで、「それがなにか?」なのです。

  もし4%が単なる平均値への回帰であるなら、株価も現在の買われすぎが暴落したところで平均値へ回帰するのでしょう。

  このところNY株式は、企業収益から計算されるPERという理論的指標からすると、15%から20%くらい買われ過ぎています。それが理論値に回帰したら、よかったね、と言う程度だと思います。相場ですから一時の売られすぎもあるでしょうが、それは買いのチャンスが来たにすぎない。売られ過ぎはまた元に戻るに違いありません。

   では日本への影響はどうでしょう。日本は世界の中で極めて危険な債券大バブル状態にあります。アメリカではなく、危険なのは日本です。なにせ日銀の国債爆買いにより、金利はゼロからマイナスにならんとしているのですから。国債の全発行量の4割以上を日銀が買い上げ、日銀の資産規模が日本全体のGDPに匹敵するという巨大バブルを形成しています。FRBが買っているのは、全発行量のたった16%です。日本の債券バブル、それこそが私がシリーズの中身で指摘していることです。

  そうした危険な状況でアメリカの金利がもし4%程度に上昇すると、このブログの読者の方も買いに入るでしょうが、日本の機関投資家も同じで、円資産離れが加速し、為替が大きく円安に振れるかもしれません。

  日銀はそのおかげで物価が悪い上昇をして2%のインフレが達成できるかもしれません。ところがその時、日銀は出口がないという危険状態に陥ります。行き過ぎた円安とインフレに対する通貨防衛のためには金利を上げざるを得なくなりますが、利上げは資産の暴落を通じて自分の首を絞めることになりますので、簡単ではありません。

    以上、長くなりましたが、グリーンスパンじいさんのご託宣、「債券はバブルだ」への解説と、アメリカ金利上昇の日本への波及経路についてでした。

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大丈夫か日本財政17年版 その14 日銀保有の国債はどうなる 10

2017年08月05日 | 大丈夫か日本財政

  5月から始めた今回のシリーズも、3か月間で13回を数えました。ではまとめに入ります。

  私が日本の財政破綻についてこれまで述べてきたことや、今回のシリーズで述べた主な点をおさらいします。

 1.前FRB議長のバーナンキは最近、「中央銀行が緩和的政策を採用することでデフレを克服できると考えていたが、間違いだった」、といって懺悔した。日米欧を比較すると、なかでも日銀がもっともアグレッシブな異次元緩和を進めたが、デフレは克服できず、マネーは世の中に回らず日銀の当座預金にブタ積みされただけだった

  2. 日銀当座預金には金利を付ける必要があり、現在は年に1,870億円支払っているが、本格的に金利が上昇し、もし付利を1%にすると3.5兆円支払う必要が生じ、日銀は苦境に陥る

 3. 国債はすでに市場で枯渇しはじめ、取引はほとんどなくなった。三井住友信託による計算では、日銀の国債買い上げの限界は17年後半から18年前半にもきてしまう。そのときに限界が来なくとも、全部を買い上げ終わるのは19年後半

  4.  日銀の資産はすでに500兆円を超えていて、日本のGDP全体に匹敵する。その過程で国債を高値づかみしており、償還価格を超える額はすでに9.7兆円に達し、それは確定した損失である

    以上のような事実関係を勘案すると、懸念される将来の状況は

①   異次元緩和政策の信頼性喪失

②   出口のない日銀政策の後始末問題がアベノミクス不信へも波及

③   安倍政権の政治的信頼性喪失とアベノミクス失敗の同時進行

④   国債先物市場で売りが優勢となり、悪い金利上昇が生じる

 そして、

 ⑤   日銀の信頼喪失と財政再建赤信号から日本からの資本逃避が起こり、円の暴落を招く可能性が大きくなる

 

   そんなことはありっこない、という論者の言い分も聞いてみましょう。

  「破綻しない派」の論理は、素朴な「国は破たんなどしない」とか、「借金は日銀が札を刷れば返せる」というナイーブなものから、「政府と日銀が連結すれば借金はなくなる」というわけのわからないものまで、いずれもマユツバものです。

 

  これまで私はこうしたおかしな論者に次の質問をしています。

 「だったらどこの国もそうすれば破たんはしなかったはずなのに、なぜ破たんは起こったのか」

  そしてさらに、

「破綻しないなら、税金の徴収なんかしなければいい」

  というものです。この簡単な問に答えられた「破綻しない派」は一人もいません。

   最後にとどめを刺しておきます。破たんしない派のいまひとつの欠点は、日本人の行動様式をみくびっているところにあります。それが、日銀のバランスシートがどうなろうと人々は関心などなく、資本逃避など起こらない、という前提に立てる理由です。そして「これまで破綻しなかったから」というナイーブな考え方を持つに至ります。バブル時代によく聞かれた「これはバブルなんかではない。日本は世界に先駆け次のステージに駆け登ったのだ」という根拠のない楽観論と同根です。

   ですが、日本人はそれほどバカではありませんし、パニックも得意です。

   世論の一気加勢の大変動は、これまで政権交代の時によく見られました。自民党から民主党政権への交代。その逆に、民主党の崩壊と安倍政権の成立。7月の都議会選挙での自民党の崩壊など、いとも簡単に起こるようになっています。

   政治だけでなく、庶民による金融・経済の混乱もまたいつ生じるかわかりません。第一次オイルショックのトイレットペーパー騒ぎ、平成の米騒動、90年代後半の金融危機で見られた証券・銀行の取り付け騒ぎなどです。いずれも全国民総動員のパニックでした。

   こうした日本人の起こすパニックの恐ろしさは、政治・経済・社会学者の予見能力をはるかに超えたものだと思います。自由な市場経済では、我々がありとあらゆる可能性を議論したとしても、とうていカバーできるものではありません。

   一方フェアーを期すため、私の見通し違いも述べておきます。

   私が従来主張していた財政破綻に進む原因の一つは、「家計の貯蓄が財政の垂れ流しを支えられなくなる時点が来る」というものでした。団塊の世代のリタイアにより家計の金融資産増加がストップする。稼ぎが少なくなるのに、それまでの生活維持するため預貯金を取り崩す。

   一方、国の借金の拡大は続くため両者は2015年前後にはクロスすると計算し、その前後2年が財政破綻の危険な時期だという予測を立てていました。しかし15年に2年をプラスした17年も無事に通過しそうです。見通し違いの原因も追及しておきます。

 1. 団塊の世代を含め、老後になっても預貯金を取り崩す人はほとんどいない

死ぬまでに使い切るぞと言って実行しているのは私を始めごく少数(笑)

 2.  財政リスクを感じる人もごく少数

「米国債を買え」と言っても、本気にする人は私の著書とブログの読者のみなさんだけかも(笑)

   こうした理由から家計の貯蓄が円預金にとどまったままであることが、私の読み誤りの原因です。大多数の日本人にとって財政の累積赤字など懸念材料ではないということです。

   

  こうして予測は見事にはずれました。団塊の世代がリタイアし始め稼ぎが少なくなっても、実際には家計の金融資産は1,700兆円を超えてなお増え続けています。以前もブログに書いていますが、日本人の恐ろしいほどの貯蓄志向の強さを示すエピソードです。双子の姉妹、金さん銀さんの笑い話です。

  お二人が100歳を迎えてもらった自治体からのおこずかいをどうしますかと聞かれ、「老後のために貯金します」と答えたアレです。ほとんどの人が棺桶に入れるために貯蓄をし続けているのです(笑)。

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