4-6月期のGDPが年率マイナス27.8%という結果に終わったと今週政府から発表がありました。衝撃の数字です。エコノミストたちのコンセンサス予想が▲23%でしたから、それをさらに5%近く下回りましたが、株価はあまり反応しませんでした。理由はたぶん、次の期のコンセンサス見通しがプラス13%程度だからだと思われます。しかしこれは取らぬ狸の皮算用の可能性があります。
同時期のGDPの数字を国際的に比較してみますと、アメリカは▲33%、EUが▲40%、イギリスが▲20%という、やはりとんでもない結果です。しかし日本の場合、昨年10月の消費増税により、19年10-12月期▲7.1%、翌1-3月期▲2.2%とマイナスが続いていたところでの▲28%ですから、他国とはだいぶ意味合いが違うのです。不況入りの定義は2期連続のマイナスですので、日本はすでに不況入りしていた上での▲28%です。それが大きく悪影響を及ぼすのが悪化の一途をたどっている日本財政です。
3月に終わった19年度の財政の当初の歳出規模は103兆円で、税収見込みは63兆円でしたが、実際には歳入は58兆円に終わっています。コロナ前でも消費増税が税収増に結び付かず、むしろマイナスになっていたのです。ということは、今年度は経済規模が大きく縮小するため、税収はさらに減少し悲惨なことになりそうです。4-6月期のマイナス成長の最大要因は消費の低迷ですが、今後コロナの状況が劇的に好転することなど見込めないため消費の低迷は続き、それは消費税収をさらに落ち込ませます。企業も先行きの見通しが立たず、4-6月期の上場企業の純利益は▲15%とかなりのマイナスになっていて、それが今後法人税収入を落ち込ませます。一方の政府の支出もコロナ対策への支出がどこで終わるかも知れず、財政収支の見通しは立たない状態です。
ではコロナ対策の全体規模を見ておきましょう。第2次補正予算成立後5月28日の第一生命研究所のレポートから引用します。
引用
政府は5月 27 日に 2020 年度の第二次補正予算案を閣議決定。事業規模は 233.9 兆円と打ち出されて いるが、この数字には過去のコロナ対策予算や昨年 12 月の経済対策の一部、直接支出の伴わない 融資が計上されている点には注意が必要。今回の補正予算において、特別会計や地方歳出分も勘案した真水額は約 33.1 兆円。過去3度のコロナ対策と合わせた真水は計 61.6 兆円程度になる。
引用終わり
いつもながら、謳い文句の事業規模234兆円に対し真水はわずか62兆円、何たる大本営発表でしょう。まあこうしたことは政府の常とう手段ですから、責めても意味はありません。しかしこの62兆円は当然赤字を積み上げることになります。19年の日本の名目GDPは557兆円ですから、今回の真水対策費だけでGDPの11%に相当します。
財務省の発表している累積債務のGDP比率は昨年12月末で238%ですから、それに11%が加わると249%に達します。ちなみに同じ資料で同時点のアメリカの累積債務のGDP比は108%で、優等生のドイツはわずか56%でした。
現状がこれだけ厳しく、財政の累積赤字がどれだけ積もっても、「日本財政はいままでが大丈夫だったので、これからも大丈夫」という論者が多いことは事実です。国内の議論はそうした根拠のない神学論争が通じても、世界はそうはいきません。あまりニュースにはならなかったのでみなさんにお知らせしますが、債券市場を見ているプロはもう一つ大事な観点を持っています。それは日本のソブリン格付けです。
7月28日、格付け会社フィッチ・レーティングスは日本国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に変更しました。フィッチ・レーティングスを知る人は多くないかもしれませんが、ムーディーズ、S&Pと並んで世界の3大格付け会社の一つとして投資家が信頼を置いている会社です。ネガティブへの見通し変更はダウングレードではありませんが、先行きは怪しくダウングレードの可能性ありというウォーニングです。
では現在の日本国債の格付けを他国と比較してみましょう。3大格付け機関の格付けを並べてみます。
ムーディーズ S&P フィッチ 対GDP累積債務、財務省資料
日本 A2 A+ A(ネガティブ) 237%
アメリカ Aaa AA+ AAA(ネガティブ) 108%
イギリス Aa2 AA AA-(ネガティブ) 85%
ドイツ Aaa AAA AAA 56%
フランス Aa2 AA AA 99%
中国 A1 A+ A+ N.A.
フィッチによる発表に果たして債券相場が反応し、金利が上昇したかと申しますと、ほとんど無風でした。以前から申し上げているように、金利という日本経済のバロメータの一つである体温計は7年前日銀総裁に就任したクロちゃんにより破壊されてしまったので、意味をなさなくなりました。
一方血圧計である株式相場は大きな上下動を繰り返しているのですが、これも日銀の介入によりメーターが下がり過ぎないようクロちゃんが相場操縦しているため、本来の役割を果たせていません。
ウソにウソを積み重ねる安倍政権の体質は黒塗りの資料に現れるだけでなく、こうしたところにも表れているのを忘れないようにしましょう。
ひと月前に私は「コロナ感染の抑制と経済の両立は無理」という記事を書きました。それ以来コロナは実に順調に感染者数を増やしています(笑)。中国はコロナの封じ込めにあっという間に成功していますが、その裏には圧倒的力を持ってした経済封鎖にありました。短時間で封じ込めることは大変な痛みを伴いますが、長期的には大きなプラスとして経済にはねかえるのです。
政府はヤメロの大合唱にもめげずGo To キャンペーンを実行に移し、東京を除外したのですが地方における感染者の拡大にしっかりと貢献しています。感染者数が拡大する中では、みんなが安心できないのでキャンペーンの効果は限定的です。我々国民はみんながみんな政府に踊らされるほどバカじゃないことをしっかり証明しています。まずは感染者の抑え込みをする。それ以外に経済再生の道はないと思います。
では政府は無策でよいのか?そんなことはありません。経済支援はやらざるをえず、財政赤字は増やさざるを得ない。矛盾するようですが、私が今回の投稿で言いたいのは、これまで、
『大きな累積債務という既往症をそのままに放置し続けた日本は、コロナで死期を早めようとしている』
ということです。