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ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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日本国の格下げ注意報発令

2020年08月22日 | 大丈夫か日本財政

  4-6月期のGDPが年率マイナス27.8%という結果に終わったと今週政府から発表がありました。衝撃の数字です。エコノミストたちのコンセンサス予想が▲23%でしたから、それをさらに5%近く下回りましたが、株価はあまり反応しませんでした。理由はたぶん、次の期のコンセンサス見通しがプラス13%程度だからだと思われます。しかしこれは取らぬ狸の皮算用の可能性があります。

  同時期のGDPの数字を国際的に比較してみますと、アメリカは▲33%、EUが▲40%、イギリスが▲20%という、やはりとんでもない結果です。しかし日本の場合、昨年10月の消費増税により、19年10-12月期▲7.1%、翌1-3月期▲2.2%とマイナスが続いていたところでの▲28%ですから、他国とはだいぶ意味合いが違うのです。不況入りの定義は2期連続のマイナスですので、日本はすでに不況入りしていた上での▲28%です。それが大きく悪影響を及ぼすのが悪化の一途をたどっている日本財政です。

 

  3月に終わった19年度の財政の当初の歳出規模は103兆円で、税収見込みは63兆円でしたが、実際には歳入は58兆円に終わっています。コロナ前でも消費増税が税収増に結び付かず、むしろマイナスになっていたのです。ということは、今年度は経済規模が大きく縮小するため、税収はさらに減少し悲惨なことになりそうです。4-6月期のマイナス成長の最大要因は消費の低迷ですが、今後コロナの状況が劇的に好転することなど見込めないため消費の低迷は続き、それは消費税収をさらに落ち込ませます。企業も先行きの見通しが立たず、4-6月期の上場企業の純利益は▲15%とかなりのマイナスになっていて、それが今後法人税収入を落ち込ませます。一方の政府の支出もコロナ対策への支出がどこで終わるかも知れず、財政収支の見通しは立たない状態です。

  ではコロナ対策の全体規模を見ておきましょう。第2次補正予算成立後5月28日の第一生命研究所のレポートから引用します。

引用

  政府は5月 27 日に 2020 年度の第二次補正予算案を閣議決定。事業規模は 233.9 兆円と打ち出されて いるが、この数字には過去のコロナ対策予算や昨年 12 月の経済対策の一部、直接支出の伴わない 融資が計上されている点には注意が必要。今回の補正予算において、特別会計や地方歳出分も勘案した真水額は約 33.1 兆円。過去3度のコロナ対策と合わせた真水は計 61.6 兆円程度になる。

引用終わり

  いつもながら、謳い文句の事業規模234兆円に対し真水はわずか62兆円、何たる大本営発表でしょう。まあこうしたことは政府の常とう手段ですから、責めても意味はありません。しかしこの62兆円は当然赤字を積み上げることになります。19年の日本の名目GDPは557兆円ですから、今回の真水対策費だけでGDPの11%に相当します。

  財務省の発表している累積債務のGDP比率は昨年12月末で238%ですから、それに11%が加わると249%に達します。ちなみに同じ資料で同時点のアメリカの累積債務のGDP比は108%で、優等生のドイツはわずか56%でした。

  現状がこれだけ厳しく、財政の累積赤字がどれだけ積もっても、「日本財政はいままでが大丈夫だったので、これからも大丈夫」という論者が多いことは事実です。国内の議論はそうした根拠のない神学論争が通じても、世界はそうはいきません。あまりニュースにはならなかったのでみなさんにお知らせしますが、債券市場を見ているプロはもう一つ大事な観点を持っています。それは日本のソブリン格付けです。

 

  7月28日、格付け会社フィッチ・レーティングスは日本国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に変更しました。フィッチ・レーティングスを知る人は多くないかもしれませんが、ムーディーズ、S&Pと並んで世界の3大格付け会社の一つとして投資家が信頼を置いている会社です。ネガティブへの見通し変更はダウングレードではありませんが、先行きは怪しくダウングレードの可能性ありというウォーニングです。

  では現在の日本国債の格付けを他国と比較してみましょう。3大格付け機関の格付けを並べてみます。

                                                                                           

     ムーディーズ   S&P     フィッチ      対GDP累積債務、財務省資料

日本     A2     A+    A(ネガティブ)       237%

アメリカ  Aaa              AA+             AAA(ネガティブ)            108%

イギリス       Aa2               AA               AA-(ネガティブ)              85%

ドイツ           Aaa             AAA              AAA                           56%

フランス        Aa2              AA                  AA                            99%

中国      A1      A+      A+                            N.A.

 

  フィッチによる発表に果たして債券相場が反応し、金利が上昇したかと申しますと、ほとんど無風でした。以前から申し上げているように、金利という日本経済のバロメータの一つである体温計は7年前日銀総裁に就任したクロちゃんにより破壊されてしまったので、意味をなさなくなりました。

  一方血圧計である株式相場は大きな上下動を繰り返しているのですが、これも日銀の介入によりメーターが下がり過ぎないようクロちゃんが相場操縦しているため、本来の役割を果たせていません。

  ウソにウソを積み重ねる安倍政権の体質は黒塗りの資料に現れるだけでなく、こうしたところにも表れているのを忘れないようにしましょう。

  ひと月前に私は「コロナ感染の抑制と経済の両立は無理」という記事を書きました。それ以来コロナは実に順調に感染者数を増やしています(笑)。中国はコロナの封じ込めにあっという間に成功していますが、その裏には圧倒的力を持ってした経済封鎖にありました。短時間で封じ込めることは大変な痛みを伴いますが、長期的には大きなプラスとして経済にはねかえるのです。

  政府はヤメロの大合唱にもめげずGo To キャンペーンを実行に移し、東京を除外したのですが地方における感染者の拡大にしっかりと貢献しています。感染者数が拡大する中では、みんなが安心できないのでキャンペーンの効果は限定的です。我々国民はみんながみんな政府に踊らされるほどバカじゃないことをしっかり証明しています。まずは感染者の抑え込みをする。それ以外に経済再生の道はないと思います。

  では政府は無策でよいのか?そんなことはありません。経済支援はやらざるをえず、財政赤字は増やさざるを得ない。矛盾するようですが、私が今回の投稿で言いたいのは、これまで、

『大きな累積債務という既往症をそのままに放置し続けた日本は、コロナで死期を早めようとしている』

ということです。

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大丈夫か日本財政17年版 その21 日銀保有の国債はどうなる 17

2017年10月05日 | 大丈夫か日本財政

  希望の党が混乱を極めていますね。いくらなんでも選挙までの時間がなさすぎでしょう。判官びいきで枝野新党がある程度の支持を受けそうだという分析がされていました。いずれにしろこの1週間で自民党へのユリ戻しがあったようで、選挙民の投票行動の調査で、希望の党はかなり後戻りしています。選挙観戦者としては面白さが半減しています。

  一方、アメリカではラスベガスの銃乱射事件一色ですが、マスコミは犯人像探しとともにトランプの銃規制反対姿勢をこぞって非難しています。その中にありながら金融市場は株高一色で、社会的混乱と快調な市場のコントラストがとても目立っています。アメリカについては、また別途アップデートします。

   さて、ここまでの本題の議論をレビューします。2019年というのはカギを握る年になるのは間違いないのですが、そこで財政破綻が起きる確率は5分5分くらいだと申し上げました。その理由は、

 その1.国債の枯渇に対して日銀は買い入れ額の減少で延命をはかる

  ただし市場はこのミエミエの延命措置で満足するかは怪しい

 その2.経常黒字が継続している

  つまりファンダメンタルズは悪くない

   という2つの点です。

   では、その時点で破たんが起こらないとして、いったい何をきっかけ、いつ頃破綻が起こりえるのか? 当たるも八卦でそれを占ってみましょう。

   これまで指摘した最大のポイントは、日銀の信認喪失。それがトリガーになりうると言うことでした。今後さらに安倍政権が続いたとしても、いつまでも続くわけではありませんし、小池新党による揺さぶりも短期的なものではなさそうです。そして両者ともに財政再建は二の次にしているので、どちらが政権を取っても大きなかわりはありません。

   今回自民党が勝って政権を維持したとしても、安倍・黒田体制には必ず終わりが来ます。安倍首相が自民党総裁3期目を実現したとしても、任期は21年までの話です。そこまで日銀の黒田総裁がもつかわかりませんが、もったとしても安倍首相の任期切れとともに日銀を去ることになるでしょう。

   それまでに日本経済が目覚ましく回復し、財政問題が解決の方向に向かうとは思えません。本来であれば今後の日本を巡る問題では最大の懸案である財政再建が、選挙の論点に入っていません。消費税をどうするという議論は枝葉末節で、財政再建に向けた長期戦略こそ本命なのに、どの政党もそれを避けています。こんな選挙では、国民の漠然とした不安はぬぐい去ることはできないでしょう。

   安倍首相、黒田総裁の二人はいずれ財政の巨大な累積赤字と、それをファイナンスし続けた日銀に国債の山を残して去ることになります。安倍首相は今回の解散宣言の大義を無理やり作るため、消費税値上げで作る財源を財政赤字の穴埋めに回さず、教育無償化政策などの実施で大半を使うとしています。消費増税を先延ばしすると宣言している小池氏の政策も財政再建にはよりつながりません。

  そして、かねてから何度も申し上げていますが、異次元緩和の最大の欠陥は、失敗すればもちろん、成功してもインフレ率が上昇すると当然金利が上昇し、日銀の抱える国債の価格が暴落して事実上の破綻に追い込まれることです。成功しても失敗してもダメなものはダメ、それが国債爆食の異次元緩和なのです。理由は単純で、累積赤字が大きすぎるから。その大半を日銀が抱えると言う禁じ手を実行してしまったからです。

   一方、アメリカのFRBも欧州のECBもゆるゆるの緩和から引き締モードに転換しつつあります。世界的に物価は落ち着いたままなのですが、どこも不動産価格などの資産価格の上昇が起きていて、それが引き締めモードを加速させる恐れがあります。中央銀行は資産価格の上昇をいつまでも放ってはおけません。アメリカで言えばFRBは資産圧縮を始めるだけでなく、年末にはさらなる利上げに踏み切る可能性が高く、それが日米の金利差になって為替レートに跳ね返ります。

   為替相場は介入だけで阻止できるものではありません。円安に対処するには短期的には円買いドル売り介入を続け、長期的には金利差をつめるための利上げが必要となりますが、日本では超緩和策が金融経済構造に組み込まれてしまっているため、その巻き戻しが始まるというニュースだけで金融市場には激震が走ります。

   そして忘れてはいけないのが海外投資家の動向です。今回の選挙でどちらが勝とうが財政再建に踏み出さないため、今後ありうる格付けの引き下げに海外投資家は反応する可能性が大きいのです。安倍首相はすでに「20年プライマリーバランスの回復は国際公約ではない」と逃げを打ち始めました。もともと海外に対しそれを演説でコミットしているので国際公約そのものなに、前言を翻しています。

   しかも世界の3大格付け会社はいずれも日本はシングルAとしていて、あと2段階から3段階の格下げでどれもがトリプルBに陥落します。トリプルBとシングルAは投資家にとっては大違いです。たとえシングルでもA格である場合とそれ以下のトリプルBでは、投資家の投資態度は大きく違うため、従来買っていた投資家の手が引っ込むのです。もちろん実際にはその一歩手前ですでに日本国債の本格売却が開始されます。シングルAにはA+、A、A-と3段階がありますが、A-になったとたん、BBBに下落するリスクを感じて売りに回る可能性が強いのです。すると日本国債の価格は金利上昇分の価格下落以上に、海外投資家の売りによる価格下落に見舞われます。

   政府が為替で攻防戦を戦っているとき、日銀は国債暴落の防戦を強いられ、信用力に疑念が生じる。それを見ている国内機関投資家や一般の人々が、自分の資産価格の下落に何もせずにいられるか、はなはだ疑問です。

   一方、日本経済のファンダメンタルズは、団塊の世代全員が70歳代になると本格的に労働市場から退出しはじめますが、それまでに残された時間はあと5年程度です。

  ファンダメンタルズのよさを頼っていた「その2.経常黒字が継続している」という切り札に赤信号が灯ります。

   当初述べた19年から20年に破綻の起きる確率が5割程度で、結果として起こらなかったとしても、それにさらにファンダメンタルズがじわりとダメージを受ける人手不足が積み重なるのがおよそ5年後、つまり2022年前後ということになります。それに続けてさらに2・3年後、つまり2025年前後には団塊の世代がいわゆる後期高齢者の段階に入り、その後要介護段階に至る人たちが激増する可能性が高い。それにより医療・介護費用が爆発し、財政は立ち行かなくなります。

   日本の場合、団塊の世代は常に社会的大変動の火種なのです。ちなみに団塊の世代真ん中の私は現在67歳で、8年後の2025年には後期高齢者の仲間に入ります。あいすみません(笑)

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大丈夫か日本財政17年版 その20 日銀保有の国債はどうなる 16

2017年09月21日 | 大丈夫か日本財政

  「解散」

   何という自分勝手なやり口でしょう。自己保身を日本政治の意思決定の中心に据えるとは。

   今一度、「奢れるもの久しからず」という言葉を彼に送ります。こうした国民をバカにする行為で、若干持ち直した支持率は下がるに違いありません。

  加計・森友隠しを追及するため、6月に国会議員の4分の1をもって臨時国会の召集要求がなされているにもかかわらず、召集せずに解散するのは憲法に反する行為です。

 憲法53条;内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

   違憲行為はこれだけではなく、おととしの違憲立法もしかり。そうしたことを連発する安倍首相に憲法を語る資格なし。

 

  もう一人のお騒がせ男トランプは、予想通り国連を愚弄するスピーチをやってのけました。北朝鮮のあのオバサンもびっくりするような口調で、世界に向けて脅迫をしています。国際的な連帯により世界平和を希求する国連の場で、「国を全滅させる」と言ってのけました。

  本当にそうしたことが起これば、韓国や日本も巻き込まれる可能性が大きく、北朝鮮の全滅とは韓国・日本の壊滅もやむなしだということを、トランプが考慮しているとは思えません。サイコパスのやることは衝動的であることが多く、それを受ける側もサイコパスであれば、突発的な衝突が全面戦争に至ることはなきにしもあらずです。

   国連でもまたアメリカファーストを繰り返し、パリ協定からの離脱、TPP離脱に象徴される保護主義一色の対外政策は、世界からの孤立を宣言したようなものです。それらを再度国連の場でトランプ自身が宣言しました。それに対してフランス大統領マクロンをはじめ各国の首脳のほとんどが、トランプ演説の内容を表立って非難しています。ついでにハリケーンもパリ協定離脱宣言のトランプに鉄槌を連発しています。

  国連ではまともな首脳は、だれもがはっきりとトランプを非難する中、わが安倍首相のみ彼の演説内容に対し一言も反論しませんでした。それ自体が世界の嫌われ者トランプを完全に支持していると国際社会はとらえています。しかも安倍首相は北朝鮮問題について「対話による問題解決の試みは、一切が無に帰した。必要なのは対話ではない。圧力だ」。「すべての選択肢はテーブルの上にあるとする米国の立場を一貫して支持する」と語っています。きっと北朝鮮はこの安倍発言になんらかの反応を返すでしょう。

 

  うちのマンションでは来週、世田谷区の危機管理室・災害対策課の担当者にきてもらい、Jアラートの説明をうけることにしました。都会では自治体によるスピーカーからの放送はふだんほとんど聞くことがなく、いったいどういう音声がどこから流れるのかを知る人すらいませんので、そこから説明がスタートします。北朝鮮のミサイルが飛んできた場合、Jアラートはどう作動するのか。スマホなどとの連携は。その場合どこへ避難すべきかなど、具体的に教えてもらうことにしています。そうした説明会を本気で開催するほど、マンションの居住者のみなさんは北朝鮮問題を真剣にとらえています。

  

  とまあ、かなりまじめな話を書きましたが、実は今私が一番面白そうだと勝手に思っているのは、金正恩を国連に連れてきてトランプとディベートをさせることです。金正恩がダメなら、あの劇画チックなオバサンのスピーチでもかまいません。見世物としてはかなり面白いですよ(笑)。

   そうだ、トランプも金正恩も、どっちも恐い顔が得意なので、

 「ニラメッコしましょ、笑うと負けよ、アップップ!」の勝負でもいいかも(爆)

 

  では真面目な話題です。FOMCの結果についてコメントします。詳細の解説はフェッド・ウォッチャーと呼ばれる専門家におまかせすることにして、私なりに金融市場の将来について、見通しを簡単に述べることにします。理由はもちろん、それが今後の日本の金融財政問題に大いに影響すると思われるからです。

   昨日のFRBの決定内容は市場関係者の予想通りでしたが、為替市場は12月の再利上げ予想にしっかりと反応して円安に振れ、112円台をつけました。そして何よりも、遂に資産圧縮という出口に踏み出したことが特筆されます。そレに対して市場は実に冷静でした。為替が反応したくらいで株価は若干の上げで終わっています。バーナンキが緩和の停止についてコメントした際には、バーナンキ・ショックが世界を駆け巡り、日経平均すら千円以上暴落したのですが、今回は用意周到であったため、市場は冷静そのものでした。

  イエレンおばさんに、座布団1枚!

  資産圧縮といっても、買い込んだ国債を売りに出すのではなく、保有する国債が償還を迎えた時に何もしないということだけです。これまでは量的緩和を維持継続するため、保有国債が償還を迎えた額と同じだけ市場から国債を買い入れ、FRBの保有資産額を一定量キープしていました。今後はその買い入れを行わないのです。

   このいわゆる出口政策は、長期金利の上昇圧力になることが特徴です。すでに短期金利は政策金利、つまり翌日物金利の引き上げにより上昇していましたが、これからは長期金利の上昇も許し、正常化への道を歩もうというのです。この発表に対して債券市場はそれなりに反応し、指標である10年物金利が2.27%へ0.03%ですが上昇しています。

   資産の圧縮ペースはスロースタートをして、あとになるほど圧縮ペースが大きくなります。その理由は、買い入れのペースが途中から拡大していったためです。では日本に対する影響はどうか。

  私は日本に対する影響は長期的には為替レートに表れることになると思っています。理由は円債の長期金利がゼロもしくはマイナスであるのに対し、米国の長期金利が一方的に高くなれば、米国債は我々個人投資家だけでなく日本の機関投資家にとって大きな魅力を持つ投資対象になるからです。機関投資家は日本国債という投資対象を失い、百兆円単位の余裕資金を保有し、安全な投資先を探しています。

   しかも今後日本国の安全神話が様々な面から崩れていくと見込まれるため、いよいよ本格的資本逃避も現実味を帯びてきます。

 

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大丈夫か日本財政17年版 その19 日銀保有の国債はどうなる 15

2017年09月14日 | 大丈夫か日本財政

  トランプ対金正恩のチキンレース、今回は金正恩の勝ちでした。まあ、プーチンの勝ちと言ってもいいかもしれません。前に申し上げたとおり、プーチンは自分に対し制裁を課しているトランプに、「制裁に参加しろと言われる筋合いはない」、と言っていましたが、アメリカはロシアと中国に妥協し、たいした制裁にはなりませんでした。もっともトランプに言わせれば、それも計算通りだと強弁するのでしょう。

   国連の北朝鮮に対する制裁合意の内容はおおかたの予想通り、石油の全面禁輸はなく、金正恩の個人口座も凍結されず、北朝鮮船舶の臨検もなしでした。つまり金正恩が本気で反撃する口実になるような制裁は発動されず、いつものようにアリバイとしての制裁に終わる可能性が強いものばかりです。

   それでも今回は中国が本気でやる気を表明していることなど、ある程度効果を上げるだろうと評価している向きが多いのですが、私はそうは単純に事は運ばないだろうと思っています。金正恩は核やミサイルの開発をやめるはずもなく、石油製品のある程度の輸出制限も、誰が実効ある見張りをするかといえば、当事者としての中国です。とても本気でやるとは思えないのです。

   ドル円相場は国連の合意をもって思い切りリバウンドしましたね。アメリカ株は最高値を更新し、市場参加者はめでたしめでたし。ではこれでおしまいかというと、そうとは言えないのがトランプと金正恩というサイコパス同士の争いです。今後もミサイルは打ち続けるし、核実験も行うでしょう。それに対しトランプはとんでもない反応をしかねませんので、まだまだ目が離せません。

 

  では本題です。前回は日本の今後を概観してみました。要点はオリンピックを迎える前、19年あたりに景気も株価もピークを付ける可能性が強い。日銀による国債の爆買いも、国債自体の枯渇から限界を迎えるのが19年あたりと見込まれる、というものでした。

   しかしコメント欄で、

2019年ですかー、すぐですね。

というコメントに対し私は、

「うーん、19年という示唆をしていますが、結論はちょっと早いと思います。」

 と返しました。

  実は19年の秋にはもう一つ大きなマイナスの要素、消費税値上げまであります。従って確かに19年から20年にかけては大きなヤマ場を迎えると思うのですが、それでもそのまま大幅な円安・金利上昇からインフレが昂進し、実質財政破綻に進む可能性は5分5分くらいだと私は考えています。

  その理由を示します。

 理由その1.国債の枯渇に対して日銀は買い入れ額の減少で延命をはかる

   日銀はもちろんこうした国債の枯渇シミュレーションをしていないはずはありません。単純な計算ですから。その証拠が16年9月の「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」と「オーバーシュート型コミットメント」、あるいは「長短金利操作付き量的・質的緩和策」の導入です。

   長たらしくわかりづらい名前なのは、苦しい言い訳をしているからです(笑)。エコノミスト達はこれを物知り顔で様々に解説していますが、私がクロちゃんの代わりに平たく言いなおしますと、

 「異次元緩和策の旗を降ろしたわけじゃないんだが、限界が見えてきし、162月に導入したマイナス金利の評判悪いので、ちょっと煙に巻いたのさ」

   これで毎年80兆円の爆買いが細って60兆円になろうが40兆円になろうが、「それはあらかじめわかっていたさ。だから長短金利・・・を導入したのさ」と言い訳をするのです。

   問題はこうしたミエミエの言い訳を市場がどう評価するかです。「ない袖は振れない、しかたないな」としてしまうか、「黒田を降ろせ」になるか、はたまた日銀の信頼性喪失までいくかです。

   一昨日日経新聞が安倍首相にインタビューしました。大きなニュースとなっていませんが非常に大切なことに言及しているので記事を引用します。

来春任期が切れる日銀の黒田東彦総裁については『実体経済で非常に成果を出しているし、デフレではないという状況を作り出してくれた。手腕を全面的に信頼している』と評価した。」

  たしかに日本経済は雇用をみれば非常に好調ですし、企業業績も好調で株価も上昇しています。それをもってデフレではない状況と言っているのでしょう。安倍首相は少しでも失敗のレッテルを貼りたくないので、自分をプロテクトする意味でも黒田氏をはずせないのです。そのため2%の物価目標についても堅持する」と述べています。

   こうしたことから、安倍首相が政権を担当する限り黒田氏が総裁を続け、二人は苦しい言い訳をしながらも崩壊の芽を必死に摘み取ろうとするでしょう。


 理由その2.経常黒字が継続している

   日本の経常収支はひところよりかなり黒字幅が大きくなり改善しています。2010年以降を2年ごとに振り返りますと、いったんは毎年黒字が減少を続け、およそ6分の1まで激減しましたが、14年をボトムに回復しています。数字を並べます。

 10年;2,210億ドル 12年;597億ドル 14年;365億ドル 16年;1,910億ドル

  そして17年の推定値は2,025億ドルの黒字です。

   このことはドルに対する円のサポート要因になります。経常収支の中身を貿易収支とサービス収支、それに所得収支に分解すると、サービス収支は常に小さな赤字。所得収支はコンスタントに大きな黒字。それに対して貿易収支だけが赤字になったり黒字になったりで大きく振れ、それら3つの合計数値である経常収支を左右しています。

   貿易収支が大きく振れる最大の要因は石油価格とドル円レートです。このところの石油価格低下と円高傾向が、貿易収支の黒字化に寄与しています。しかしいわゆるモノもサービスも輸出競争力が長期低落傾向にあることは確かで、ひとたび石油価格などで逆風が吹くと経常収支の黒字も怪しくなります。

   そうした経済ファンダメンタルズに対してマイナスのインパクトを与える要素は、短期的には19年10月に予定されている消費税値上げ、長期的には高齢化に伴うモノとサービスに対する需要の鈍化です。

   このうち消費税値上げについては前回の3%に対して今回は2%ですが、所得の伸びが見込めない高齢者の比率が大きくなっているため3%の時と同じくらい、つまりGDPが大きくマイナスに落ち込むほどのインパクトがあると私は見ています。

  それに対して政府は刹那的な対策を打つでしょうから若干は緩和されますが、高齢者は年金額が上がらない限り合計5%のマイナスインパクトを長期に受け続けるのです。

   みなさんもご自分のこととして考えてみてください。1千円のものを買うと100円、1万円の物に対しては1千円、10万円には1万円もの税金が課されます。私のような年金生活者にはとても大きな負担になり、その分他の買い物を減らさざるを得ません。若い方で賃金上昇の恩恵を受けたとしても、買い物をちゅうちょすることが多くなると思います。このことは間違いなく日本経済のファンダメンタルズを弱める方向に作用します。

   ここまで日本に関して様々な要素を見てきましたが、財政状況と金融政策は限界に達してしまうのは間違いないのですが、経常収支に代表されるファンダメンタルズ、つまり経済力はそれを必死に食い止める可能性を残しているというのが私の見立てです。

つづく

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大丈夫か日本財政17年版 その18 日銀保有の国債はどうなる 14

2017年09月07日 | 大丈夫か日本財政

  恒例のアメリカ財政の綱渡りサーカスは、綱を渡り始める前に幕となりました。とりあえずハリケーンのこともあり、3か月の先延ばしで決着です。もちろん3か月後もサーカスは開催されますが、結果が見えているためさほど面白い見ものにはならないでしょう。


  先週から今週にかけては北朝鮮のミサイルと核実験のニュースに翻弄されましたね。株価も大きく反応しました。その中でトランプは様々なジャブを繰り出しています。ほとんどが北朝鮮に対する直接のジャブではなく、中国とロシアに向けてです。トランプは、

  「オマエらが甘やかすからだ。もっと協力しろ。」と他人事にしています。はたしてそれで事は解決の方向に向かうのでしょうか。私には疑問です。

  その理由は、中国もロシアも北朝鮮のリスクなど日・米・韓ほど感じていないと思うからです。北朝鮮のミサイルはすべてアメリカと同盟国に向いているからで、きっと習近平もプーチンも、「トランプよ、ざまみろ」くらいに思っているのでしょう。

  それが証拠にプーチンは一昨日アメリカに向けてこんなことを言っています。「北朝鮮の制裁にロシアも協力しろだと。ロシアに制裁を課しているのはおまえらだろ。制裁を科している相手に制裁しろとはなにごとだ、ふざけんな」。

  まことにもって、ごもっとも(笑)。

  日本にとって北の脅威は「今そこにある脅威」で、決して笑い事ではないのですが、トランプのやることなすことは、なぜか笑いを誘うのです。

  

  そんな中9月3日の日曜日はクラブチャンピオン決勝戦の1回戦でした。私の予選通過は16人中16番目のギリギリだったので、マッチプレーで行われるトーナメント1回戦の相手は予選トップ通過の選手です。お伝えしたとおり彼は本当に300ヤードの飛距離を持つアスリートゴルファーでした。

  あの人は300ヤード飛ぶよ、という話はときどき聞くのですが、彼はめったにいない本物です。礼儀正しいナイスガイですが、飛距離を聞いてみると「平均は300ヤードです。飛んだときは330くらいです」とのこと。もちろんフェアウェーが平らで無風状態を前提にしています。決して下りの追い風などではありません。

  私がメンバーになっているコースには300ヤード前半のホールがいくつかありますが、その多くで彼はドライバーでグリーンサイドまで飛ばしたことがあるそうです。キャディーさんもそう言っていました。

   もっともそこまで飛ばすと危険がつきまとうため、予選でも今回の決勝戦でも半分以上のホールでドライバーを封印し、ティーショットは3番アイアンで打っていました。その飛距離は230ヤード。私のドライバーのナイスショットと同じくらいなので、ときどきアイアンでオーバードライブされました。

  前半の9ホールは取ったり取られたりを繰り返し、私の1ダウンで意外と善戦していました。後半に入り10番は一番長いパー4で、このあたりからは勝てないだろうと思っていたのですが、意外にも私がパーで彼はボギーとしてマッチ・イーブンに。

   11番は分けでしたが、12番から私のセカンドショットが乱れ始め、3ホール連続で負け。15番ホールは勝たない限り、引き分けても負けが決まるドーミーホールとなりました。そしてそれを取ることができず、あと3ホールを残して私の負けとなりました。

   もっと早く負けるだろうと予想していたのですが、15番まで来ることができたのは大満足です。涼しくて良い天気の中、年に一度のマッチプレーを楽しむことができました。

  ゴルフの専門用語ばかりですみません。これでゴルフのお話は終えます。

 

  さて本題です。前回は日本の財政と金融の将来を占うのに必要な世界の主要国の動向を取り上げました。アメリカはすでに金利引き上げから次のステップである中央銀行FRBが資産圧縮の段階に入りそうだ。欧州はアメリカには遅れるものの、テーパリングの段階に向かう可能性が出てきた、という内容でした。

  では日本はどうか。この先を展望しておきましょう。

  現在雇用は絶好調と言ってもよいのですが、そのひっ迫が逆に将来の経済成長の足かせになっています。そのため足元の成長率は高くても、先の見通しは楽観的になれません。雇用のひっ迫が強まっているのに、何故賃金が上昇しないのか。その理由についてはまた別途書くつもりです。

  日本国内のイベントでこの先注目する必要があるのは、もちろん20年のオリンピックです。以前私はオリンピック開催国の景気と株価の分析をみなさんに簡単にお示ししました。例にしたのは北京、ロンドン、そしてその時に進行中だったリオでした。「多くの投資家はオリンピックを頂点だと思っているが、実際にはその1年くらい前に景気や株価のピークが到来する」ということを数字で示しました。

  リオなどと違いすでにインフラ整備の進んでいる日本は、オリンピック景気に沸くようなことにはならないと私は思っています。64年のオリンピックは高度成長期にあったため、国全体でインフラを中心に整備が進められました。20年は東京都が主体ですし、大きなインフラ土木工事の必要性はありません。競技施設と選手の宿泊施設程度です。そのため直接的な経済効果はおおむね12兆円程度と試算されています。19年までにほぼすべてが整えられ、オリンピック特需もインフラ整備部分はピークアウトするでしょう。

  もちろんオリンピック開催中は外人旅行客が増え、東京のみならず日本中で宿泊客が増加し、買い物でおカネをおとしてくれるためある程度は潤うのですが、その分開催後には反動が来ます。

  すると世の中はオリンピック開催で沸き立っていても、先を見越す株価は19年くらいにはピークアウトし、その後実体経済もピークアウト。実際にオリンピックを迎える20年頃には、下降線をたどる可能性が強くなります。

  64年のオリンピックの時はインフラ整備の効果が大きく、すぐに不況にはならなかったのですが、その後2年目には「昭和40年不況」に陥りました。上場企業が何社か倒産し、山一証券に日銀特融が行われたため、証券不況とも呼ばれました。

  しかし60年代から70年代にかけてはなにせ高度成長期です。我々団塊の世代が巨大な塊として労働市場に参入し、大量消費を始めたのもその頃です。私はその世代の真ん中ですが、高校卒業が68年、昭和43年ですので多くの団塊の世代は73年には学校を卒業し終え、みな社会人になりました。日本経済が高度成長を続ける条件が整っていました。

  現在の人口デモグラフィ―はそうした後押しがないことを示しています。団塊の世代がすでにほぼ65歳以上となり労働市場から退出し、労働人口は確実に減少して潜在成長力を押し下げます。


  一方財政に目を向けると、来年度予算も概算要求では100兆を超え史上最高を更新するのは間違いなし。経済と税収が順調であれば、赤字を大幅に削り込んだ緊縮予算を組むのが当然のハズですが、そのような気配は全くありません。

  これまで20年以上にわたり効果のない「呼び水」と言われる財政出動を続けてきましたが、今年度も補正予算を組み、そして今後も「景気回復のため」と称する放漫財政が継続されます。

  税収以上の支出は、私はすべて景気対策のための財政出動とみなします。安倍首相はアベノミクスの成果を誇ってみせますが、誇れるほど成果が上がっているのだったらこれ以上の赤字垂れ流しはやめ、たまには黒字予算を組み、借金を減らしたらどうでしょう。もっともその提案に乗る政財官の人間は皆無でしょう。政治家という人種は、自分が貧乏くじを引くのがいやだから、タックスペイヤーのカネを使いまくります。

  19年末に策定される20年度政府予算では、「20年度財政赤字解消の国際公約」が果たせないことが見込まれるため、政府が言い訳をするハメに陥るでしょう。言い訳をすればするほど財政リスクの国際的注目度が高まります。

  そこにさらに、例の日銀の国債爆買いの限界が重なることになります。先日お伝えしたように、市場に出回る国債の枯渇です。その試算によると2019年が国債枯渇のヤマ場となります。

  つづく

コメント (3)
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