サロメ WNO初来日3 1990-21
ウェルシュ・ナショナル・オペラ1989年初来日2演目のうち、昨日のブログではファルスタッフのことを書きました。
今日はサロメのこと。
1990年11月12日(月) 7:00pm オーチャード・ホール
シュトラウス 作曲 楽劇サロメ
アンドレ・エンゲル プロダクション
サロメ/キャサリン・マルフィターノ
ヘロデ/ナイジェル・ダグラス
ヨカナーン/フィリップ・ジョール
ナラボート/ピーター・ブロンダー
ヘロディアス/エリザベス・ボーン
リチャード・アームストロング 指揮 ウェルシュ・ナショナル・オペラ
ヘロデの前でサロメが極限の艶やかストリップ・ダンスを踊るのは、接吻が欲しいヨカナーンの前で脱ぐのなら比較的すんなり理解しやすいが、ストーリー展開としては違和感があるものの、オペラのように視覚にうったえるような舞台の場合、歌以外の動作もわかるのですんなりとはいってきて抵抗感はあまりないと思う。
オペラ自体はナマ臭いもので皿の上にのったヨカナーンの首に接吻するのは観る方も、2001年の世界貿易センタービルのクラッシュ後の戦争の展開などを見たあとだと、現実感がありすぎる。
でも、この上演のときは1990年。
前世紀末であり、あのときは、もう100年前の1890年あたりの世紀末芸術のことで盛り上がったりしていたのだ。
マルフィターノのいわゆるエロチックなジャケのDVDはコヴェントガーデン1997年収録のもの。
あれはクラシック音楽ファンはあまり慣れていないかもしれないが、オペラファンなら別にどうということもなく、ストリップ(またはそれに近い)ダンスは、プロダクションによっては普段からわりとある。
マルフィターノは1990年4月のベルリン・ドイツ・オペラでのヴィデオもあるはず。
WNOの今回の初来日公演は同年11月なので、このタイトルロールとしては盛んに踊り始めていたころなんだろうね。
踊りに脂がのっていたかどうか、ヘロデは正視したのだろうか、気の弱い河童はS席で、なにか、はじらいのもと斜め観していたのかもしれない。
たまにおじさん族で前から10列目ぐらいの席なのにオペラ・グラスを使っていたりするのを見かけることがある。あれはなにを観ているのだろうか。となりの奥さんにたしなめられながら。。
ところでメト座の河童は、これよりもずいぶん前にマルフィターノは拝見している。
サロメではない。カルメンのミカエラ役である。
当時のホセはドミンゴ、カルメンはユーイングが常連でした。
ユーイングというのは、(コ)悪魔であり、CDだけでは決してわからない魅力をそなえている。
ということで、マルフィターノの声はどうだったのでしょうか。
わからない。
ある程度太く、どちらかというと湿り気のある声であり、ホール全体に透き通りながら響き渡る、といった感じではなく、喉の声をそのままこちらの耳でじかに受け取るような感じ。やはり見た目にやられた。
サロメの音楽は全体が艶やかであり、劇的さも兼ね備えた素晴らしい音楽であるが、エレクトラには負けると思う。というかこころざしが違う。
サロメは全てのことがあまりにも計算しつくされており、聴衆に対してどのような音楽を書いて聴かせれば、思い通りエキサイト、感動してくれるか、といったことを計算しつくしている。そのための音楽がこの曲の作曲の第一義的目的になっているのではないのか。効果をねらい過ぎている。
それに比べれば、エレクトラの終始緊張をしいる音楽は、調を踏み外したその音楽的作為までなにもかも聴衆に迎合することなく、真摯に音楽そのものを構築している。
舞台、プロダクションは昨晩のファルスタッフ同様、現実感があり、全体が暗いけれども色彩感がある。怖い絵本をみているようだ。
WNOのこの2公演(ファルスタッフ、サロメ)は、今から17年ほど前のものであるが、両方ともかなり印象深く、細かい部分は忘れてしまったが、公演の全体感、雰囲気など今でもたまに思い出すことがある。
おわり