河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

PC版に一覧等リンクあり。
OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

2791- ダニエル・バレンボイム リサイタル 第2夜 2021.6.4

2021-06-04 23:05:07 | リサイタル
2021年6月4日(金) 7時 サントリー

オール・ベートーヴェン プログラム

ピアノ・ソナタ第30番ホ長調op.109  4+4-13
ピアノ・ソナタ第31番変イ長調op.110   8+2+11
Int
ピアノ・ソナタ第32番ハ短調op.111  8+19

バレンボイムピアノ、ダニエル・バレンボイム


前夜のエポックメイキングな勘違いリサイタルから24時間経ち、結局今日も同じ演目を聴く。

ピアノとチェンバロを足して2掛けたようなバレンボイムピアノの音色は今日も透明できれい。たっぷりと堪能しました。
昨日の粘りっ気をちょっと水洗いした感じで端正と極みが背中合わせになっている。ピアノ1台の音楽の凄さ、ベートーヴェンの偉大さが滲み出る。

昨晩よりやや速度をあげ、30番31番はそれぞれ1分ほど速めのパフォーム。32番は2分ほど速くなった。
昨日と異なり30番終えて袖にいかず歓声に応えてそのまま31番プレイ。
上に収録マイクあり。前日は1階の奥に録画用マシンありました。今日のキャメラは未確認。

第1楽章が無くていきなり第2楽章から宙に放られたように始まる31番。大変に好物です。終楽章の2回目の嘆きの歌の後、コラール風なフレーズが漂う、バレンボイムはそこをマックスでメゾフォルテまでしかもってこない。この、雄弁さ。過去のベトソナ全を一気に思い出す。走馬灯のように全フラッシュバック。抜群の効果ではありますね。
そしてこのあと、ベートーヴェンはどうやってこの曲をフィニッシュさせるのかと思う間もなく下降ライン、すぐに急上昇して鮮やかに放り出される。唖然呆然と聴くしかない。ベートーヴェンとバレンボイムの曲と演奏、惚れ惚れする。言葉もない。

鍵盤に被さることのない正座プレイ。この二晩かぶりつき席で拝聴して、叩きつけることが全く無い、淀みなきピュアで均質な響き、しっかり刻みました。
ここ日本、普段妙なニタニタ笑いのような指揮者・プレイヤーが多くて辟易している中、バレンボイムはそのような態度がまるで無い。それは彼の自然だ。演後、愛器一周しながら聴衆へのあいさつ、いいですね。音楽を愛する姿、思いがストレートにイコール音楽表現となっている。あの、2016年ブルックナー全曲10回公演の記憶が呼び出されました。あの時も思いは同じだったろうと、フツフツと。

昨年2020年のちょうど今頃にピエールブーレーズザールで収録された6回目のベトソナ全、しっかり聴いていたはずなんだが、この日の演奏で一瞬にしてワイプアウトされてしまった。細くてきれいで美しい響き、指を鍵盤に置けば音楽になる、この静謐な佇まい。ジャングルジム越しにあっちの清らかな世界が、この落とされたテンポであればさらによく透けて見えてくる。嘆きの歌の前、音が止まったように離れていく。

昨晩今日と両日かぶりつき席ということもあって、愛器一周ごあいさつで目が何度も合って、そのうち、アレッ、という感じで小首をかしげたように見えたのは、今から四半世紀前、シカゴ響とブルックナーの8番をやったあとホテルのエレベーターまで追っかけていってサインをねだったあの傍若無人さんだね、と覚えていたからだったかもしれない。

全作品、さえざえとした極みの技、堪能しました。さて、1番2番3番、そして4番、いつ弾きに来るのかな。テンポプリモさんには次回の来日に向けて尽力お願いしますね。

二夜にわたり、ありがとうございました。
おわり










2790- ダニエル・バレンボイム リサイタル 第1夜 2021.6.3

2021-06-03 23:55:25 | リサイタル
2021年6月3日(木) 7時 サントリー

オール・ベートーヴェン プログラム

ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調OP.2-1
ピアノ・ソナタ第2番イ長調OP.2-2
Int
ピアノ・ソナタ第3番ハ長調OP.2-3
ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調OP.7

のはずが、以下のプログラムが奏でられた。

ピアノ・ソナタ第30番ホ長調op.109  4+4-14
ピアノ・ソナタ第31番変イ長調op.110   8+2+12
Int
ピアノ・ソナタ第32番ハ短調op.111  10+19

バレンボイムピアノ、ダニエル・バレンボイム


昔読んだビリーバスゲイトのどこだったか、地下鉄の階段を駆け上がると明るい空が、みたいなちょっと物語とはあまりそぐわないけれども印象的な一文があって、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第1番の冒頭の駆け上がっていくオタマジャクシを聴くといつもそのビリーバスゲイトを思い出すし、今日も気持ちは準備万端、さてどうなるか。

念のため、始まる前に係の方に、休憩はどこで入りますかと訊ねたところ、2番の後です、と明快なお答え、で、みんなそのつもりのプロだった。

と気持ちを整えたその耳に聴こえてきたのは終楽章に素晴らしき変奏曲が展開されるその第1楽章のソフトでマイルドな響きが、なんと30番が、耳に聴こえてきたのであった。あれ、自分の耳壊れたか、と、プログラムをめくりなおす。はたまた、翌日に24時間瞬間移動したか。

この、演奏が奏でられている中で気持ちの切り替えを行うのは容易ではない。まあ、前代未聞、バレンボイム一世一代の勘違いプログラムは、結局30番31番32番とそのまま最後まで進んでいった。最後に勘違いアイムソーリーのスピーチ。

あとでSNSだったかなにかで次の文を見た。
「松田暁子さんは過去、バレンボイムのオペラ公演すべてのドイツ語通訳を務めた方で当日たまたま、聴きにいらしていたのです。休憩で事態を知り、スピーチを発案したマエストロは客席にもわかる人が多いとの理由で英語を主張しました。あまりに緊急な事態で松田さんに無理をお願い、お守り代わりでした。」

まあ、自分としては、ガチのソナタ4楽章構成の1番2番3番、それにガチガチの4番、この初期4つは大変に好み。で、録音だとバレンボイムが弾く4番のラルゴは29番ハンマークラヴィーアのアダージョを思わせ奮える、この期待感ではあったけれどもね。

二日続けて30-31-32聴くのも、いいか。なんせ、2016年驚天動地のブルックナー全集をやって来の日本にだしね。彼のピアノリサイタルは今や、接すること自体がひとつの僥倖といったところもあるし。


エポックメイキングな日となった歴史的6月3日、好物の31番終楽章入りの音の粒、ダニエルバレンボイムピアノで奏でられたその粒が、嘆きの歌を経て、一粒ずつがどんどん離れていって、何を弾いているのかどんどんわからなくなっていって、ふと浮かんだのは、これはブーレーズ作品の流れのプレイだな、と軽くよぎった。
ピアノとチェンバロを足して2掛けたような美しいピュアな響きのバレンボイムピアノ、効きましたね、タップリと堪能できました。

最初の曲30番は、ピアニッシモで繋いでいく終楽章の変奏曲が破格の美しさ。でしたが、最後まで気持ちを切り替えることがやや難しかった。好物31番で自分なりに救われた。32番は宇宙。

鮮やかに、さえざえとした宇宙の響きはバレンボイムの脳なのだろう。彼の隅々までさえざえとした脳の一端を垣間見るような32番の弱音美音に昇天、まあ、こちらはもんどりをうつのみですよ。
さて、明日は。


休憩時間に瞬間的に吐いたツイッターが、
「びっくり、ちょっと、鼻血でそ。30番から始まった」
「ヒャプニングかしらら」

おわり







2776- オール・ベートーヴェン・プロ、悲愴、月光、ワルトシュタイン、エリーゼのために、テンペスト、熱情、及川浩治ピアノリサイタル、2020.2.16

2020-02-16 22:24:11 | リサイタル
2020年2月16日(日) 1:30pm-3:50pm 川内萩ホール、東北大学百周年記念会館

オール・ベートーヴェン・プログラム

ピアノ・ソナタ第8番ハ短調Op.13悲愴 9-4-5
ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調Op.27-2月光 4-2-7 
ピアノ・ソナタ第21番ハ短調Op.53ワルトシュタイン 10-3-+13

Int

イ短調WoO.59エリーゼのために 3+
ピアノ・ソナタ第17番ニ短調Op.31-2テンペスト +7-7+5
ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調Op.57熱情 10-6+7

(encore)
ショパン ノクターン第20番 遺作  3
リスト(ブゾーニ編) ラ・カンパネラ  5


ピアノ、及川浩治


2時間半近くかけてネイミングのあるソナタ5曲とエリーゼ、それにアンコール2曲、満腹のリサイタル。

あいにくの雨模様の中、それでも盛況でしたね。
6作品、休憩は一回。前プロ、後プロ、それぞれ1曲ずつ出入りするような面倒は避けて、ひとつ終わると立って一礼しすぐ次に移る。濃度ある。エリーゼと次のテンペストは連続演奏、ナチュラルな進行でした。
初めて訪れたホール、ざっくり大雑把な雰囲気だったが響きはやや拡散系ながらそこそこふくよかな鳴り。ふやけないのでピアノの粒立ちがよくわかる。自席では左手のバスサウンドがとてもよく飛んでくる。

6作品、ひと作品ごとに丹念に光を当ててくれて聴くほうはあらためてじっくりと味わい尽くしました。大ごとではなくてすごく小さなところから始まって気が付いたらメラメラと萌え上がっている。気張りが無くて力の抜けたところからクライマックスのビンビンいうプレイは見事だ。
悲愴の中間楽章は淡々と進む。押しなべて他の作品も同様なスタイル。こういうことに気づきをしたほうがいいのかもしれない。シンプルな熱情中間楽章などもはや枯れて炎の核が音を形作っている。
シンフォニックなスタイルが好みのワルトシュタインも、彼の手にかかると、聴くほうもそんなに気張らなくていいよ、てなもん。月光はブルーな趣きで最後は萌える。テンペストはクジャクのような羽ばたきで変幻自在、絶品でしたね。最後の締め、熱情フィニッシュで及川さん、立ちあがりました。
お見事。

アンコールの前に一言あって、ちょっとシャイな雰囲気があって、雄弁なプレイとはだいぶ距離がある。これも、音楽家。良く聴こえなかったのですが、オール・ベートーヴェン・プロだったが、アンコールは別の作曲家のものを、みたいな感じだったと思います。

充実のアフタヌーン、トンペイまで足を運んだ甲斐がありました。
ありがとうございました。
おわり


















2771- THE DUET 中村恵理&藤木大地、園田隆一郎、2019.12.20

2019-12-20 23:41:24 | リサイタル
2019年12月20日(金) 7pm ヤマハホール

H.パーセル*B.ブリテン/トランペットを吹き鳴らせ (duet)

R.クィルター/5つのシェイクスピア歌曲 より“恋に落ちた若者とその彼女”Op.23-3 (duet)

J.S.バッハ/「クリスマス・オラトリオ」 BWV 248 より“シオンよ、備えよ”(藤木大地)

G.F.ヘンデル/歌劇「エジプトのジュリオ・チェーザレ」 HWV 17より “つれない女め、お前の頑なさが” (藤木大地)

G.F.ヘンデル/オラトリオ「メサイア」 HWV 56 より“その時、見えない人の目は開かれ”~“主は羊飼いのごとくその群れを養い” (藤木大地、中村恵理)

W.A.モーツァルト/モテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」 K.618 (duet)

F.メンデルスゾーン/6つのリートより“歌の翼に” Op.34-2 (中村恵理)

F.メンデルスゾーン/3つの二重唱曲より“実りの畑” Op.77-2 (duet)

R.シューマン/「愛の春」よりの12の詩 より“まさに太陽が輝くように” Op.37-12 (duet)

E.フンパーディンク/歌劇「ヘンゼルとグレーテル」 より“夜になって眠りにつくと” (夕べの祈り) (duet)

Int

G.プッチーニ/歌劇「つばめ」より“ドレッタの美しい夢” (中村恵理)

F.レハール/喜歌劇「ジュディッタ」 より“私の唇は熱いキスをする” (中村恵理)

F.レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」 より“唇は語らずとも”  (duet)

R.シュトラウス/「最後の花びら」よりの8つの歌 より “献呈” Op.10-1 (中村恵理)

G.フォーレ/「レクイエム」より“ピエ・イエズ”Op.48-4 (藤木大地)

E.チャールズ/私の歌であなたの心をいっぱいに (中村恵理)

H.マンシーニ/映画「ティファニーで朝食を」 より“ムーン・リバー” (藤木大地)

G.カッチーニ*V.ヴァヴィロフ/アヴェ・マリア (藤木大地)

A.ロイド=ウェバー/「レクイエム」より“ピエ・イエズ” (duet)

(encore)
Franz Xaver Gruber Silent Night

以上

ソプラノ、中村恵理
カウンターテナー、藤木大地
ピアノ、園田隆一郎

前半36′ 後半(アンコール含む) 44′


もはや、何も言う事は無い。あまりに美しすぎる歌の連続に天国にも上る気持ち。次から次とカウンターパンチの様に極美な歌が滔々と流れまくる。とってもとってもゴージャスなひととき。しびれて悶絶、昇天。極上すぎる。美酒の上澄みのようだ。いやいや、底も同じく美しく、舌鼓。極楽浄土ワールド堪能。

中村さんの芯極まるしなりのきいた美声、かぶりつき席にストレートに飛んでくる。素敵だ。
藤木さんは強弱、太細がおしなべて一様、裏も表もない全部表の様で余りの見事さに唖然茫然。ともに歌い口のうまさとフレーズエンドの終音の切り方が、なんというか、大家を見る思い。端の端まで行き届いた精緻な歌に惚れ惚れ。
デュエットでのハモりは絶妙なバランスで、まるで、一筋の線。しびれる。

オペラ棒オーソリティの園田さんがピアノ伴奏とはこれまた贅沢の極み。歌の呼吸を感じての入り、というよりも彼がオペラモードの入りの呼吸を作り込んでいっている。さすがとしか言いようがないのだ。歌うほうはナチュラルにスッと歌い始める。

プログラム後半、中村さんのプッチーニのつばめ、レハールのジュディッタ。藤木さんをいれたデュエットのメリーウィドウ。中村さんのシュトラウス献呈、藤木さんのフォーレのレクイエム。このシーケンス、一気の盛り上がり。夢の様な瞬間はあっと今に過ぎ去り。レハールには泣けたなあ。

贅沢悶絶ナイト。美しすぎて失神しました。ありがとうございました。
それと、トークが一切なかったのもよかったですね。歌と動きと仕草でステージを作っていく3人衆は本当に泣かせてくれるスペシャリストだなあ。
おわり

https://www.yamahaginza.com/hall/event/003831/










2765- ベートーヴェン、ピアノ・ソナタ・サイクル第2回、第5,6,7番、フランソワ=フレデリック・ギィ、2019.11.23

2019-11-23 23:28:07 | リサイタル
2019年11月23日(土) 7pm-8:30pm  小ホール、武蔵野市民文化会館

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第5番ハ短調Op.10-1  6-7-4

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第6番ヘ長調Op.10-2  8-3-5

Int

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第7番ニ長調Op.10-3  6-10-3-3

ピアノ、フランソワ=フレデリック・ギィ


ギィ、ベトソナ全曲リサイタル、お昼の1回目に続き夜の2回目。昼と同じく約1時間半、アンコールもなく、さっ、と終了。

お昼の1回目は作品2の束。夜は作品10の束。5番6番7番ですね。作品2は3つともに4楽章形式のシンフォニックなものでした。5番6番は3楽章形式となり7番でまた4楽章に膨らむ。

7番は特にシンフォニックな感じは無くて3品ともに3楽章モードの幻想曲風味に近づいているしまた、彼はこのようなスタイルの作品がより得意そうに見えますね。充実した内容で楽しめました。第7番の緩徐楽章は先々のものが見えているし、ギィもそういうところ意識したプレイのように見えましたね。

昼の1回目、夜の2回目、作品束でのリサイタルはよくわかるが、全体的にはちょっと短い。アンコールは求めるものではないけれども、少し熱に欠けたリサイタルではあった。
おわり









2764- ベートーヴェン、ピアノ・ソナタ・サイクル第1回、第1,2,3番、フランソワ=フレデリック・ギィ、2019.11.23

2019-11-23 22:25:13 | リサイタル
2019年11月23日(土) 2pm-3:30pm  小ホール、武蔵野市民文化会館

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調Op.2-1  5-4-3-5

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第2番イ長調Op.2-2  8-7-2-7

Int

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第3番ハ長調Op.2-3  10-9-3-5

ピアノ、フランソワ=フレデリック・ギィ


フレデリック・ギィによるベトソナ全曲リサイタル、今日はそのうちの第1回目と夜の2回目、両方聴きに来ました。
ギィさん、お初で聴きます。Wikiを見ると1969年の生まれとのことで50歳ですね。モジャモジャとしてるものの、近くで見るとなんだかもっと若く見える。
作品2の束、3曲のみの演奏でアンコールは無く、休憩入れて1時間半のリサイタル。とはいえオール4楽章作品でそれぞれの規模感は大きくて聴きごたえありました。

まずは駆け上がるような1番の素敵な出だし。ふくよかな響きでなかなかいい。シンフォニックな佇まいの3作品束の劈頭、いいスタート。3つ聴いての後付け印象としてこの1番冒頭ではむしろこなれたものを感じた。この振り返り感。

2番3番は更に規模が大きくなる。シンフォニックな作品が彼のプレイでは四角四面になることがなくて、常々オーケストラ編曲でもしたらと願望もちらりとよぎる作品ながら、今日はそんなことは感じなかったですね。柔軟。2番は艶がさらに出てきて曲に語らせるスタイル。一段踏み込んでいくといった話ではないですね。

リズミックで雄弁、豊饒な3番。濃い作品で、1楽章コーダ前の短いモヤッと霧がかかるあたりの表現の濃さ、絶妙。
第2楽章では、4番以降の先の作品に突き抜けたようなエクスプレッション。多様な表現がナチュラルに絞り出される。
味な演奏でした。
とりあえず、昼の部の3曲はこれでお仕舞。
おわり








2752- メシアン、幼子イエスに注ぐ20のまなざし、スティーヴン・オズボーン、2019.10.31

2019-10-31 23:13:52 | リサイタル
2019年10月31日(木) 7pm-9:20pm 小ホール、武蔵野市民文化会館

メシアン 幼子イエスに注ぐ20のまなざし 2時間12分

10-3-4-5-9- s31
11-3-4-3-9- s30
8-3-4-5-12- s32
3-6-6-11-13 s39


ピアノ、スティーヴン・オズボーン


約2年半経って同じピアノで同じ曲を聴けるとは思ってもいませんでした。僥倖です。
2345- メシアン、幼子イエスに注ぐ20のまなざし、スティーヴン・オズボーン、2017.5.18


この奇跡の様なまれなる作品。前回は一心不乱、テンション高めて集中するちからフル活動で根詰めて聴きました。今読み返すと感想も随分と長く書いてしまいました。そいうこともあってか、今日は楽な気持ちで聴くことが出来ました。良かったと思います。やっぱり一度熱く接していると2回目からはあちこちみる余裕が出てくる感じ。

前回は2時間5分。今回は2時間10分越え。この違いは細かなアゴーギクの多用といった事では無くて、各曲、ひとつのメローディーライン、そういったところの締めが大きくリタルダンドする。びっくりするぐらいですね。それから随所に響きを確かめるためのパウゼが大きく取られている。こういった事は演奏会場の違いなども作用しているのかもしれない。このホールは余韻まで楽しむには申し分ないホールなんだということだろう。

オズボーンの音の厚みは何階層もありそうだ。自由に響きの階層をコントロール。それに、打楽器的叩きの多用、これなど前回より明らかに強烈でしたね。叩くと、硬質で明るいメシアンサウンド・テクスチュアが、より一層浮き彫りになってくる。
暗い中とはいえ、手掛かりは各ピースについた副題だ。あらかじめ内容をかじっておけばこの副題をチラ見するだけでイメージがグッと湧いてくる。作品がグッと近寄ってくる。オズボーンの響きやプレイの方針など、悉くイメージに合致するもので、冴え冴えとした気持ちになってくる。手助けはあるに越した事は無い。
オズボーンの技巧は全て数値化できるのではないかと思えるほどの精緻の極み、そして、ピアノの音を長く保持するには静寂の取り込みと支配も要る。なんだか、二律背反的なことの両立可能性を示してくれているようでもある。人間の叡智を浴びる。オズボーンのメシアンへの共感はそのまま聴衆のものとなる。凄いもんだ。

20曲目終曲フィニッシュは、最も右側の鍵盤をタラッタタッと跳ね、一瞬の間を置き、最も左側の鍵盤をダダダッと押し込んで終わる。長い静寂と世界の包容。両翼まで包み込んだ幼子イエスを見るメシアン、世界の変容に和を成すこの音化力。メシアンの幾何学模様の思いの深度はオズボーンによって一つの解を得たように見えた。
今回も素晴らしい演奏でした。ありがとうございました。
おわり










2749- 阪田知樹ピアノリサイタル、横浜18区コンサート、2019.10.22

2019-10-22 22:36:05 | リサイタル
2019年10月22日(火) 2pm-3:15pm フィリアホール

ラフマニノフ 楽興の時 Op.16より第5番 変ニ長調  3
ラフマニノフ 楽興の時 Op.16より第2番 変ホ短調  4

リスト 3つの演奏会用練習曲S.144/R.5より 第2曲 「軽やかさ」  5

ショパン ノクターン 第16番 変ホ長調 Op.55-2  5
ショパン バラード 第1番 ト短調 Op.23      9


ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110  6-2-13

(encore)
シューマン/リスト 献呈  3

ピアノ、阪田知樹

トーク司会、岩崎里依


横浜音祭り2019 横浜18区コンサート

阪田さんのベトソナを聴きたくてうかがいました。阪田さんを聴くのはこれで3回目。
休憩の無い1時間余りのリサイタルでしたが、トーク共々、充実した内容でした。

好物の31番。1,2楽章は思いの外、軽めのタッチでまるでエチュードのような趣きでサッと過ぎる。ベートーヴェンもなんだか、それでいいと言っているようだ。線ですね。
終楽章、やや込めた形になったフーガ、そして2回目の嘆きの後のコラールから盛り上がりを魅せたプレイ、それまでの線が絡み合い、この曲、いったいどうやって締めくくるんだろうとエキサイトする中、ベートーヴェンの離れ業的解決をものの見事に示してくれた。見事だ。ため息が出る。素晴らしい作品、それに演奏。


初めにラフマニノフを2曲、そのあと10分ほどトーク、なかなか興味深かった。割と一心不乱にしゃべるんだが、内容は、要は、作曲家の事、作品の事、演奏の事、こういったことばかりをしゃべり尽す。余計なおひれはひれがまるで無い。自身のピアノの事に集中している日々なのだろうと強く感じた。今の彼の充実度をよく物語っていると思う。

さりげなくもうならせてくれるコンセントレーション高いリスト。それにショパン、わけてもバラ1、聴き惚れました。
それとアンコールの献呈、こう、なんだか、濃い空気が場に充満してくる。素晴らしく冴えたパフォーム、唸るばかりなり。

充実の1時間15分でした。ありがとうございました。
おわり





2740- ハイドン34、ブラームス3インテルメッツォ、ベートーヴェン、ディアベッリ、ポール・ルイス、2019.10.1

2019-10-01 23:09:04 | リサイタル
2019年10月1日(火) 7pm 王子ホール

ハイドン ピアノ・ソナタ第34番Op.42 HobⅩⅥ:34  5-6-4

ブラームス 3つのインテルメッツォOp.117  5-5-6

Int

ベートーヴェン ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲ハ長調Op.120  54

(encore)
ベートーヴェン  6つのバガテルOp.126より 第5曲  2


ピアノ、ポール・ルイス


ディアベッリは真のベートーヴェンという趣きで作品のあまりの広がりに終わる否や、ふ~とまずは一息。約1時間弱の連続演奏。あっという間に終わってしまいました。終盤のバッハモードで演奏は佳境に入る。結局、32番の先を行く様な流れやバッハまでの圧倒的なすそ野の広さ。全てを内包しているのではないかとさえ思わせるベートーヴェンの見事な作品、それに、ルイスの激静強弱色彩等々、変化が同質の美音で響き渡り、作品を押す。音楽の使徒のようなルイスの佇まい。まことにもって何も言う事は無い。
ルイスのピアノはどんな場面でも結構な強い弾きで決然としている。太くて明るく響き渡る。
ベートーヴェンは作品120までいっても変奏曲を追う。ディアベッリは徹底的、完膚なきまでの追及のあかし。あの一つのフレーズからこんなにたくさんのものが生み出されるとは、創作の意欲が止まらない。
自分のイメージとしてはベトソナ31番の冒頭、なにか人生、途中から始めたような、あの達観メロディー、あれを思い出すんですね、ディアベッリのフシ。
キリリとしていて幅広な演奏、なんだか人柄そのものの様な内容でしたね。圧巻のディアベッリ。



前半1曲目はハイドン。ベトソナ1番の駆け上がるような出だしを思い出させる。そして完璧なソナタ。提示部リピートではやや表情が変わる。
アダージョは隙が無い。スローでも全く弛緩しない。どこにも隙間が無い。明るくて太くてややウェットな響きが続いていく。そしてクルンとモードが変わり終楽章へ。音楽の表情という言葉がふさわしい。魅力的。ソナタの作品が見事に出来上がった。

次のブラームス。3曲ともに、アダージョ・~。となっているインテルメッツォ。2曲目はややテンポを上げ快活に。結局3つ合わせて一体化した姿が見えてくる。ハイドンとはやや違い、一音一音を伸ばし切るところがあって余韻に浸りながら味わう秋の味覚。それに込めた表情の変化、陰陽、光の指す場所が少しずつ変化していく。見事なブラームスでした。

いかにも生真面目そうなポール・ルイス、ストイックな感じは無くてなによりも音楽への使徒のように見える。表情は変わらず、割とあっさり弾き始める。コンセントレーションが始まる前から炎なのだろう。ひざの間に両手を持ってくるおじぎ。さあ、聴衆の皆さんも音楽への感謝を一緒に、そんな感じかな。
かぶりつき席で拝聴、たまに声も聞こえてきましたね。
充実の内容でした。ありがとうございました。
おわり














2735- ハイドン62番、ベートーヴェン32番、シューベルト21番、シュテファン・ヴラダー、ピアノリサイタル、2019.9.21

2019-09-21 23:03:28 | リサイタル

2019年9月21日(土) 7pm トリフォニー

ハイドン ピアノ・ソナタ第62番変ホ長調Hob.XVI52  8-7-5

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第32番ハ短調Op.111  9-16

Int

シューベルト ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調D960  24-9-3-7

(encore)
リスト コンソレーション第3番変ニ長調S.172-3  5


ピアノ、シュテファン・ヴラダー



それぞれの作曲家のピアノ曲のラスト作品を並べた。こういう聴きかたにはあまり慣れていない。余計な観念が入り込みそう、という無意識のこばみがあるのかもしれない。そういうことがいつの間にかワイプアウトされて極上作品と演奏に、最終的には、浸りつくしました。

ヴラダーの雰囲気はストイックというほどではないが、それと端正な趣きがブレンドした所作ですかね。人は何を考えているのかわからないものだ、というところもあるかな。


ハイドンの初楽章は運命終楽章冒頭のような音型で動く。肌触りの良いもので、ちょっとしたねじれも感じるのは、やっぱり、形式を越えてくるような世界を垣間見れるからか。新たな形への挑戦というよりも、それまでの蓄積物のインテグラルな感じ。
アダージョの中間楽章は聴いているうちに不思議とベトソナ30番のスケルツォが頭の中を駆け巡る。とっても濃い作品と知る。

ベトソナ。いわゆる、中間楽章が無い状態で冒頭のカオスから最後のクララティに至る道筋を追う。今は32番の最初の和音はあまり好みではない。それはそれとしてヴラダーの音を聴こう。
道筋、ナチュラルな位相の転換。極めて明快なタッチでベートーヴェンの線が描かれていき、32番が晴れていく。お仕舞はむしろリアリティな響き。消えゆく現世ではないのだね、ヴラダーさん。
そして、物凄く長い空白。この緊張感。なんだかいろんなものがあった。思考が音になって作曲家の頭の中が現実化した。


後半のシューベルト。毎度のセリフ、で、シューベルトの場合、頭の二つの楽章で言いたいことをほぼ言い尽くしている。今日は2,3,4楽章連続演奏。初楽章と第2楽章のムードがよく似ている。濃い、濃い。垂直タッチがきれいで浮遊していくようだ。このように美しい演奏を聴くと未完成シンフォニーの事もよくわかるものだ。
どこまでも長い第1楽章、澱みのない世界はリタルダンド的なものを排したプレイで、しなって崩れることがない。この張り詰めた音とフレーズ。神経の先々まで血が通っている。
いつまでも聴いていたいシューベルトでしたね。
素敵な内容、ありがとうございました。
おわり


 


2722- バッハ、パルティータ1番、ベートーヴェン、ピアノソナタ11番20番21番、今野尚美、2019.8.24

2019-08-24 23:22:39 | リサイタル
2019年8月24日(土) 2pm 汐留ベヒシュタイン サロン・ホール

J.S.バッハ パルティータ第1番変ロ長調BWV825  2-2-1-2-2-1

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第11番変ロ長調op.22  5-6-2-6

Int

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第20番ト長調op.49-2  3-4

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第21番ハ長調ワルトシュタインop.53  9-3-10

(encore)
2
4

ピアノ、今野尚美


今野さんのこの日のシリーズ名はベトソナ全曲第9回とバッハ鍵盤シリーズ第4回ということでシリーズが連立。バッハが1曲、ベトソナ3曲。まあ、ベトソナお目当てで。

ベトソナ11番は4楽章モードで、第2,3楽章あたりまではそのままシンフォニーにでもなりそう。シンフォニックな魅力に浸れる。後半は徐々にピアニスティック、終楽章はピアノの魅力全開。今野さんのピアノはすごく切れの良いもの、そして左手が温かい。終楽章はピアノ的なやつしがなくて、過度な主張は横に置きベートーヴェンに語らせる。これは気持ちの良いベートーヴェン。

後半20番はさっきの11番をさらに押しすすめたプレイ。ただそもそも最初期の作品で、息抜きの明るさ。

最後のワルトシュタインはドラマよりも進行にウェイト。くさびを打っていくような演奏とはちょいと違うもので、こういう横の流れのワルトシュタイン、気づきの多いものでした。
名曲は多様な解釈をすべて許す、というか、飲み込む。

冒頭に置かれたバッハ、パルティータ1番。ベトソナの間に置いたらどうなっていただろうかという思いが、あとになって湧いてきた。これは聴くほうのわがままで贅沢なものいいだろうねきっと。ちょっともっと真剣に聴くべきでした。バッハの流れに身をゆだねて油断大敵。

今野さんは座ってすぐ弾き始めます。

素敵なリサイタルでした。ありがとうございました。
おわり








2719- ベートーヴェン、ピアノソナタ31番、シューマン、謝肉祭、チャイコフスキー、18の小品、松田華音、2019.8.6

2019-08-06 23:28:46 | リサイタル

2019年8月6日(火) 7pm ヤマハホール、銀座

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110  8-2-10

シューマン 謝肉祭 「4つの音符による面白い情景」 Op.9  25

Int

チャイコフスキー 18の小品 Op.72 より  44
 1.即興曲
 2.子守唄
 4.性格的舞曲
 6.踊りのためのマズルカ
 7.演奏会用ポロネーズ
 8.対話
 12.いたずらっ子
 13.田舎のエコー
 14.悲しい歌
 16.5拍子のワルツ
 17.遠い昔
 18.踊りの情景、トレパークへの誘い

(encore)
チャイコフスキー 18の小品 Op.72 より 11.ヴァルス・ブルエッテ  2


ピアノ、松田華音


なんだか頼もしいというか心強いというか度胸がすわっているというか、実績凄そう。ツワモノな雰囲気濃厚ですね。惹きつけられる。
ベトソナでは31番が今のところお気に入りナンバーワンの曲。これまで聴いてきた31番とは随分と異次元のフレーバーテイスト。スタティックで不思議な静止衛星のようなユニークな演奏でした。何かディスカバリー。終楽章の2回にわたる嘆きの歌に殊更にフォーカスしているわけではなくて、それはこちらが思っているものと焦点が少し異なっているというだけの話で、全ての事に均等に配慮されたプレイ。等速の歩みということなのかもしれない。さてどうやってフィニッシュにもっていくのだベートーヴェン、エンディングのまとめ上げた歌い口がグワシと効いたお見事プレイ。印象深い演奏。32番も彼女のピアノで聴きたくなりました。

次のシューマンはもっと溌溂としていて意思が強靭、強さの中に表情がある。シューマンの情景、それよりも情がジワッと出たもので、ベートーヴェンとの対比が印象的。

今日の彼女のメインディッシュはチャイコフスキー、18個の小品のうち12個ピックアップ。この45分にわたる絵巻物、得意物件なのでしょうね。素晴らしい内容に舌鼓。満喫しました。
なによりも各ピースについている副題。これを眺めつつ聴くだけで表情がピッタリと重なってくる。伸縮自在なプレイと感じたのは、ひとつの小品の中での表情、それと全体を聴き終えた後の小品毎の異なる味付け、表情。それらが凄く副題に沿ったイメージで、聴かせてくれたなという、それでいて一つの大きなまとまりとなっていたな、という見事なコンクルージョン聴後感。大きな感動の圧力に襲われました。ビューティフル、お見事プレイ
ありがとうございました。
おわり

























2718- ジャン・チャクムル、ピアノ・リサイタル、2019.8.5

2019-08-05 23:00:56 | リサイタル

2019年8月5日(月) 7pm トリフォニー

ショパン ワルツ第1番 変ホ長調 作品18 華麗なる大円舞曲  5

メンデルスゾーン 幻想曲 嬰へ短調 作品28スコットランド・ソナタ  5-3-5

J.S.バッハ イギリス組曲第6番 ニ短調 BWV811  7-3-3-4-4-2

Int

シューベルト ピアノ・ソナタ第7番 変ホ長調 D568  7-4-5-6

ショパン 24の前奏曲 作品28より   2-2-5-1-2
   第6番 ロ短調、第7番 イ長調、第8番 嬰ヘ短調、
第15番 変ニ長調(雨だれ)、第23番 ヘ長調、第24番 ニ短調

バルトーク 野外にて Sz.81  2-3-2-5-2

(encore)
シューベルト(リスト編) 水車屋と小川   5
            (美しき水車小屋の娘 第19曲 D795-19)

ピアノ、ジャン・チャクムル



2018年浜コンチャンピオン。お初で聴きます。5作曲家6ピース並べたリサイタル。
休憩をはさむようにバッハとシューベルトが大きい。他のピースもそこそこ規模の大きなもの。レパートリーを楽しんだ。心地よい聴後感。

スコットランド・ソナタいいですね。いわゆる4楽章形式のソナタの初楽章が無くて第2楽章から始まっているかのような所作。その初めの楽章は雰囲気がリフォメーション第3楽章を思わせる。涙雨、しだれ柳の音楽。なかなかのいいモード。マーベラス・パフォーマンスでした。濡れて光る美演。

バッハは切り替えて、この規模感ですからね。見事な蛇腹のような絵巻物の音楽に惹かれます。息が続いていく。端正な表現でバッハを味わう。ライトレフトが明瞭分離で分かりやすく美しい。騒ぎ立て皆無で自在なバッハでした。

後半の最初の作品シューベルト、このあと同サイズのが2曲控えているとはいえ、一番しっくりとくるプレイだったかな。バッハからさらに一段踏み込んだ趣きがあり、ウェット・ドライの振幅が曲想によくマッチ。うねりがナチュラルな響きで申し分ない。

そういう流れでして、ショパンは華麗というよりも端麗な趣か。

最後に置いたバルトークはダイナミックなもので豊かな表情、これも得意物件なんだろうね。
いいリサイタルでした。ありがとうございました。
おわり








2682- オルフェウスの庭、瀬川裕美子ピアノリサイタル vol.7 2019.3.23

2019-03-23 21:29:11 | リサイタル

2019年3月23日(土) 4pm トッパンホール

瀬川裕美子 ピアノ リサイタル vol.7 オルフェウスの庭

バッハ オルガン・コラール 汝の玉座の前に今や歩み寄り BWV668  4

ブーレーズ ピアノ・ソナタ第2番(1948)  6-9-2-9

ピート=ヤン・ファン・ロッスム amour (2018) 世界初演  12

Int

ストラヴィンスキー ピアノ・ソナタ(1924)  3-5-3

近藤譲 三冬 委嘱新作(2019) 世界初演  7

バッハ パルティータ第6番ホ短調BWV830  22

(encore)
ブーレーズ 12のノタシオン 第2曲   0:30

バッハ コラール 我らの苦しみの極みにあるときBWV432 (弾き歌い)  1


以上

ピアノ、瀬川裕美子


瀬川さんを聴くのは2度目。今年のテーマはオルフェウスの庭。これはパウル・クレーの絵の事ですね。
充実のプログラム冊子はとてもその場で読み切れるものではなくて、じっくりとあとで読むことに。

プログラムは6作品。最初と最後にバッハ。前半と後半に世界初演がひとつずつ。練られたプログラム、充実の演奏、納得の冊子、申し分ないもの。お目当てはブーレーズかな、などと思いつつ6つの庭に足を踏み入れてみる。


最初にバッハの庭。オルガン・コラール。
バッハ最後期の作品で、彼女の解説文を待つまでもなくかなり考えぬかれたというか、言いたいことが沢山ありそうな内容。ブーレーズを絡めた解説は面白いし深みを感じますね。バッハの音は太くて、重い。


ブーレーズの庭。一曲目で暗示させたブーレーズが2曲目。
12音の解体、それなのになぜ楽章は4つのままなのだろうという思いは、それはやっぱり、中に入らないと解体できないということなんだろう。充実の作品で何度聴いても飽きることがない。作曲家のインスピレーションや閃きの持続を感じる。一瞬ではなくて連続する閃き。この時代のやっぱり天才技。
瀬川さんのプレイは速めで、どんどん先に進んでいく。響きはとってもまろやか風味。極度な峻烈さを前面に出さずとも分解能を味わえる。終楽章のアップテンポは迫力ありましたね。加速、そして、ひとつ呼吸を置いてゆっくりと終止。機械に油が注がれたような瞬間でした。お見事でした。
12個の音の配列が、譜面にある内は分かりやすいが、一旦音になるとわからなくなる。鳴れば理解できる音楽ではなく、鳴ればわからなくなる音楽。感覚が真逆なものを意識することなく12音屋さんは作ってしまったのか。ブーレーズはどうなんだろう。今日の2番、たしかに、ワルトシュタイン聴こえませんか。


3曲目はロッスムの庭。amour愛、世界初演。
12分ほどの曲。上昇音形の進行、湧きたつハープのような響き。甘いメロディーも印象的です。
この作品を作ったご本人登場。


以上、前半3曲。休憩を置いて後半へ。


ストラヴィンスキーの庭。
ストラヴィンスキーのピアノソナタはクラッシックな型にはまっていてわかりやすい。このての作品は規模感あってもどんどん吸収できる。
演奏はまろやかさとメリハリの融合。頭の中できっちりと整理整頓できてる感じ。


後半二つ目は近藤の庭。
タイトルの三冬とは冬の三ヶ月、神無月・霜月・師走のこと。委嘱作品の世界初演。
途切れる音、ちょっとイメージがわかない。ピンとこないものがある。音楽ではないものへの思いも譜面に書いているような感じだ。


最後は再びバッハの庭。
パルティータは大きな作品。前半のブーレーズ、後半のストラヴィンスキー、両ソナタの空気圧を一気に解放感しているような趣きで、一気呵成な流れで素晴らしくノリの良い演奏。まろやかピアノ、リラックスバッハ。鮮やかでお見事。


以上6作品おわり。アンコール2曲。
アンコール2曲目はバッハの弾き歌い。昨年も声があったので驚くことはないけれど、知らないとびっくりだったかもしれない。彼女の歌は自由を感じさせてくれるところがあって、こういってはなんだがガチの解説プログラム冊子とは一味違うところを魅せてくれる。
そういえば、アンコール1曲目のノーテーション2番。これでも一声あったよね。なんだか晴れた感じ。

本編共々濃い内容のリサイタルでした。
それと、トークしないのよね。これがすごく良い。トークどころではないのかもしれない。集中力の要る仕事。
今年もありがとうございました。
おわり














2676- 近藤伸子ピアノリサイタル、2019.3.5

2019-03-05 23:17:46 | リサイタル

2019年3月5日(火) 7pm 小ホール、東京文化会館

ベートーヴェン ピアノソナタ第1番ヘ短調op.2-1  4-5-3-4

ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第1番変ホ長調op.1-1  8-5-6-9
  ヴァイオリン、佐藤まどか、チェロ、藤森亮一

Int

ベートーヴェン ピアノソナタ第29番変ロ長調op.106 ハンマークラヴィーア
12-3+16+13


ピアノ、近藤伸子


お初で聴きます。ベトソナシリーズの1回目という事で勇んで聴きに来ました。2曲目にピアノトリオが挟んであって、こうゆうプログラムビルディングは見たことが無い。
恥ずかしながらピアニストの事を知らなくて、そのままリサイタルに臨んだ。とは言っても始まる前にプログラム冊子は読ませていただいた。とりあえずのキーワードとしては、バッハと現音の生スペシャリストで、今回からベトソナに注力、と。
もう、これだけで、なにやら、情報のほとんどがインプットされた気になるから不思議なものだ。

この日のリサイタルは最後のハンマークラヴィーアを終えてご本人の一言があっただけで、言葉もアンコールも無い。凝縮の高濃度リサイタルであった。自分にはこのような舞台が一番むいている。

虚飾を排した29番は端正とも違う。力みの一切ないプレイはリラックスした演奏ではない。全く妙な言い方になるが、あえて言えば、経験ばかの正反対の演奏という話しだ。
実践したものだけ、やってきたものだけ得意に出来る。そうではなくて、そのような実践の積み重ねに加えて、分野を広げて本を読む、研究を重ねる、文献を知る、そういったことというのは、つまり、段々と、本を読むだけである部分、実践の世界を経験することが出来るようになる。本を読むという事は、行ったことの無い世界に、まるで行ったかのように色々な事を経験させてくれて、幅が広がる。もうひとつ例えると、今みたいに世界が狭くなる前の時代、外国に出て行って色々な事を経験し知ること。アメリカという一国に行っただけなのに、まるで何十か国も経験したような気持ちになる。あの世界観に似ている。

まあ、知的経験の多様性や深さを実感させてくれるプレイでした。現音フィーリングやバッハの感触を思わせてくれるベートーヴェン、そういった軽い話では無くて、同じ思いで弾いているなあ、という感じ。
近藤さんの他の演奏はこれまで聴いたことは無いけれど、何故かそうゆうふうに思わせてくれる演奏でしたね。バッハもシュトックハウゼンも見える。

といった具合で29番最初のひと押しから始まる。激烈な深さとさらりとした流れ、思わせぶりの全くないタメ、さりげないナチュラルな呼吸。殊更の巨大性は横に置き、しばし淡々と音楽は始まり第1主題後半の、四分音符と後打ち八分音符がまるでエコーのように響き冴えわたる。後打ち八分音符はまるで実体のあるエコーのように響く。明瞭でクリアな弾きは正確性からくるもので、まず、第一に、その正確性を求める、というのは正しいことだろうと思う。技巧と言ってしまえば身も蓋もないが、こういったあたりにバッハもシュトックハウゼンも見えてくる、言葉のトリックではなくて。
充実のパフォーム、第1楽章が済んだところでハンケチに手をやりひと拭き、と、何かに気がついたかのようにすぐに短い2楽章へ。そして3,4楽章はほぼ連続プレイ。なんか、ホントは全楽章このようにやりたかったのかもしれない。ハンケチの癖が出たのかもしれない、などと余計な事を思ってしまった。
長いアダージョは型を感じさせる。やや、アカデミックな雰囲気を醸し出しつつ、深すぎず浅すぎずの押しはあっさりと実にシンプルに音がつながっていく。音楽がこんなにもあっさりとつながっていっていいものだろうか。きれいな響きで引き際がすっきりとしている。実体のある緊張感は邪念、雑念が無くてミュージックそのものだ。
このソナタ形式の表現がまた良くて、ここから展開、ここから再現、といった切り替えが殊更に見せることが無く、つまり、つなぎの卵や片栗粉無用の高純度な物体の自然接着を思わせるのだ。バッハや現音はこういったところにちらりと見えたのかもしれない。実にピュアな演奏。
終楽章のアプローチは、あまり聴いたことが無い異色のもの。何が違うかというと響きのバランスと音のはじけ具合、こんなに飛んではじけて、こんな楽章だっけと多少びっくり。ユニークな表現と思うのだが、出どころは自身であり、自分が身をもって作り上げたもの、その真実の表現という納得のアプローチだったように思う。

ということで、全く長さを感じさせない29番でした。
31番の嘆きの歌がこの29番のアダージョで垣間見える。結局のところ29番から32番まで、どっぷりとつながった音楽精神構造の同質性、そんなあたりのことも色々と感じさせてくれた。いい演奏でした。


最初に演奏された1番。弾く前のじっくりと時間を置く姿が印象的。
瑞々しく駆け上がるステップは、ビリー・バスゲイトが地下鉄降りて駅の階段をステップして駆け上がり地上に出てくるような初々しくて、朝のすがすがしさを思わせる。ベートーヴェンのソナタは1番から魅力がたくさん。
近藤さんの演奏は四つの楽章が並列に配されたような聴後感。そしてすこし幅広に置かれた感じ。大人の表現でしたね。

次の二曲目はベトソナでは無くて、ピアノトリオ。
近藤さんが書いたプログラム解説を読むとわかるが、ベルリンで聴いたバレンボイムトリオの奇跡的名演に触発されてここに置いたと。
ベトソナリサイタルにこのような挟み込みは聴いたことが無い。新鮮な驚き。
3人の音と表現が充実の極み。冴えわたるビューティフル・パフォーマンスに舌鼓。それもそうだわ、なにしろ、ヴァイオリンがまどかさん、チェロは藤森さんときている。もはや、明白。何が明白かと言うと、彼らが持ち合わせている技術レベルが一段と高いのだろう。色々な事が彼らの水準という名のもとに易々とクリアされている。このデフォレベルの高さ感。
びっしりと、三人で隙間なく埋められた音の、この充実感。ベートーヴェンも大喜びだろうなあ。まどかさんの熱くて濃い表現、藤森さんの涼し気なクリスタルチェロサウンド、そして、近藤さんのひたすら感。ベートーヴェンもよくもまあ難儀な三重奏曲を書いてくれたものよ。作品1の1だって。
なんだか100倍得した気分。峻烈にして鮮やかな滑り、素晴らしくマーベラス。言うことなし。

ところで、当夜のリサイタルのプログラム冊子解説は近藤さん自らが書いたもの。全部読みました。譜例を入れた解説で、その譜例は冊子とは別になっている。別の紙。だから読みやすいですね。
このプログラム冊子はよどみなく流れる、躍動感あふれる文体、実に素晴らしい書きっぷりと内容の濃さ。書いてるときはもしかして何も見ずに書いているのではないか。博学輻輳した知識が次から次へとあふれ出る。専門的な事を書いてありながら、読み口は、素人や単なるクラヲタにもよくわかるもので、音楽の世界にスルスルとはいっていける。境界を排したような書きっぷりで実にわかりやすく、カツ、素直に専門職分野の世界に入っていける。ほれぼれするもので、ベトソナの世界に益々のめり込みたくなる。納得の解説。

ということで、いいこと尽くめのリサイタル、心の底から楽しめて、カツ、勉強になった。ベトソナ小型スコアを自然と手に取りたくなるような、いいリサイタルでしたね。

上野の小ホールはほぼ満席。席種が自由席のみということで、ホールに着いた時には、列が小ホール手前の坂からロビーの売店まで延びていて、そこで一旦列が折れ180度ターンしてまだ続いている。これは大変。並ぶのはあきらめて最後にゆっくりとあきらめモードでエンプティシートを探す。たまたま、鍵盤側の前よりに空席がありラッキー、じっくりと聴けました。とにかく大人気なピアニストでしたね。才気爆発のかたと見うけました。
楽しい一夜でした。ありがとうございました。
おわり