.
ティントナーが亡くなって10年以上経つ。なんといってもブルックナー全集のインパクトが強いが、ほかのCDもほとんどがドイツ、オーストラリアの古典ものからそれこそブルックナーあたりまで。出ているCDはみんないい味がしていて、だいたい満足のいくものばかり。そんななかに紛れ込むようにこんなCDがある。
.
グレインジャー 田園風舞曲
グレインジャー 東洋風間奏曲
グレインジャー コロニアル・ソング
グレインジャー 陽気な、しかしもの悲しそうな組曲
グレインジャー ガム=サッカーズ・マーチ
リルバーン 弦楽のための気晴らし
ドライフース 小管弦楽のためのセレナード
ベンジャミン ノース・アメリカン・スクエア・ダンス
クルサード バレエ組曲エクスカーション
.
ゲオルグ・ティントナー指揮
シンフォニー・ノヴァ・スコシア
NAXOS 8.557244
.
大陸を渡り歩いたティントナーらしい選曲。非ドイツヨーロッパ系で、かつ、真似ではなく自分というものをもっている作曲家のショート・ピースを、カナダのオケを振って、鮮やかな演奏を展開。ノヴァスコシアのややデッドな響きが曲をさらに引き締めて爽快でさわやか、ウィットにとんだ演奏となっている。何度も取り出して聴いてます。
どれも素晴らしいですね。
.
NAXOSレーベルはイエローレーベルのようなビックなレーベルではありませんが、値段以上の価値が大有りです。特に昨今アメリカの作曲家ものが多量に出ており、のどの渇きを潤してくれますね、DELOSのダラスとかシュワルのシアトルものなど、バンバン出してくれてうれしい限り。昔はウィリアム・シューマンとか手に入れるのに結構苦労したものですが、NAXOSのおかげですっきりしました。それに加えて作曲家や曲の掘りおこしも半端ではなく、アメリカものの偉大な独立独歩の音楽を目の当たりにすることができこんな幸せなことはない。
.
このCDの作曲家はアメリカ編ではないのですが、渡り歩いたティントナーにとってその地で共感できた作曲家をピックアップしているのだと思いますね。いい選曲、いい演奏、サウンドもややデッドながらコンパクトにまとまってます。うるさい曲が一つもなく珠玉のような小品が並んでます。。絶対のおすすめです。
.
ベッリーニ ホルン協奏曲
ヒンデミット ホルンソナタ
ロセッティ ホルン協奏曲変ホ
シャブリエ ラルゲット
一曲目のベッリーニは、ヴィンチェンツォ・ベッリーニのことですので、オペラだけではなかったのか、という感じがありますけれど。
オーボエ協奏曲を編曲したものです。
流れるようなメロディはプリターニのソロの節回し思い浮かべますね。
均質な響きで心地よいです。
ほかの曲もなんだか、羊水につかっているような心の安定感。
2010年3月、君津での録音。
one point stereo
direct cutting from hard disk
このように書いてあります。調理したようには聴こえません。極めて自然。
松崎裕、(ピアノ)広海滋子
また聴きたくなるCD5
●
ワーグナー作曲
.
ジークフリート牧歌
ローエングリン、第1幕への前奏曲
マイスタージンガー、第1幕への前奏曲
トリスタンとイゾルデ、前奏曲と愛の死
.
ラファエル・クーべリック指揮ベルリン・フィル
.
●
クーべリックがバイエルンとは別にベルリン・フィルを振ったものは総じて良い。
ワーグナーでは響きがベルリン・フィル特有というかうまいオーケストラ特有な音のまとまり、房のような塊となった気合いをこめたアンサンブルから出てくる響きのようなものが素晴らしいのだ。
前奏曲を聴いてしまうとそのあとの4時間をどうしても聴きたい感興になってしまう。ここまでで我慢しなければならないが、ベルリン・フィルの特質をとらえたいい演奏。ジークフリート牧歌は、潤いの響きではなくアンサンブルのマスで聴かせてくれる。
.
●
また聴きたくなるCD4
●
リヒャルト・シュトラウス 作曲
.
オーボエ協奏曲
Ob、マルティン・ガブリエル
.
ホルン協奏曲第1番
Hrn、ラルス=ミヒャエル・ストランスキー
.
ホルン協奏曲第2番
Hrn、ロナルト・ヤネツィク
.
二重小協奏曲
Cl、ペーター・シュミーデル
Fg、ミヒャエル・ヴェルバ
.
アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィル
.
●
すばらしいの一言に尽きる。
このCDの特色は、全同一性にある。企画も内容も全部が同じ方向を向いている。
演奏はウィーン・フィル。ソリスト5人は全てウィーン・フィルのメンバー。
そして、曲はシュトラウス。
例えば曲順としてホルン協奏曲は1番2番がならんでいるが、2番の最初の音が出た時、1番と同じ人が吹いていると言われたら、そうだというしかない。
.
また、ソロ部分が完全にオーケストラのアンサンブルに同化している。オーケストラがまるで、交響曲のソロパートを耳を澄ましながらアンサンブルをしているような雰囲気がありあり。
サウンドの艶の方向がソロ、アンサンブルともに同じであり、これは当然と言えば当然なのだろうが、どれが一番いい出来なんて甲乙をつける意味がほとんどいない。光り輝くソフトなクリスタル・サウンドだ。そして柔らかに歌うアンサンブル。
.
シュトラウスのオペラ的な雰囲気も曲によっては醸し出されているし、ウィーン国立歌劇場で聴く同オーケストラのイメージが強い。たぶんストップと言われるまでオペラのように気持ちよく吹きまくっている感じ。
プレヴィンの指揮は、そこにいて邪魔をする指揮者ではない、ただそれだけで存在意義がある。ウィーン・フィルからこのようなアンサンブルを紡ぎだせる棒振りはそんなに多くは無いだろう。
.
●
また聴きたくなるCD3
●
スクリャービン ピアノ協奏曲
スクリャービン 前奏曲op16
スクリャービン ピアノソナタ第4番
スクリャービン 練習曲op42
スクリャービン ピアノソナタ第9番
スクリャービン 前奏曲op74
.
ピアノ、カール=アンドレアス・コリー
アルミン・ジョルダン指揮バーゼル交響楽団
.
スクリャービンのピアノ協奏曲は、初期の曲でショパンの協奏曲の響きが充満しているが、それでも第3楽章の最後は、この後に続く交響曲を先取りしたような響きが少しだけ感じられる。ペダルが開放されたエンディングは印象的。
この演奏はソロの曲も含めデリケートで細かなニュアンスに富んでいる。ピアノの繊細さもさることながらジョルダンの伴奏がいい。ジョルダンはスイスロマンドの演奏を聴いたことがあるが、日本ではあまり名は知れなかったが好きな棒振りだった。もともとはオペラ指揮者であり伴奏は手慣れたものなんだろうが、出しゃばらずそれでいて細かいところまで行き届いた棒で忘れがちになっていたものを思い出させてくれる。
●
また聴きたくなるCD2
●
ハイドン 十字架上の七つの言葉
.
リッカルド・ムーティ指揮ベルリン・フィル
.
テンポの緩い曲には七つの言葉がふさわしい。器楽的というより声楽的に。
神父のこのような助言は横に置くとしても。
.
1. 序奏 マエストーソ・エダダージョ
2. ラルゴ
3. グラーヴェ・エ・カンタービレ
4. グラーヴェ
5. ラルゴ
6. アダージョ
7. レント
8. ラルゴ
9. 地震 プレスト・エ・コン・トゥッタ・ラ・フォルツァ
.
最初の序奏からそのあとの七曲目のラルゴまで、早い話が全部スローな音楽だ。最後の地震だけとってつけたように締められる。
静かで清らかな音楽がせせらぎのように流れる。いつものハイドン独特のドライで少し埃っぽい音楽がここではかなりウェットな響きに様変わりしている。タイトルの意味合いを重ね合わせながら聴き進めばブレンドの味わいがさらに深まると思われるが、宗教の世界は個人的には無縁。響きのあやを楽しむだけ。それで十分。
熱血漢としないムーティの心のひだに触れるいい演奏。そしてベルリン・フィルの圧倒的な技術と精神の安定が音楽をさらに高みにのぼらせる。素晴らしい演奏だ。
●
また聴きたくなるCD1
●
ヴィトルド・ルトスワフスキ 管弦楽のための協奏曲
ヴィトルド・ルトスワフスキ 弦楽のための葬送音楽
ヴィトルド・ルトスワフスキ 管弦楽のためヴェネチアの遊び
.
ヴィトルド・ロヴィツキ 指揮 ワルシャワ国立フィル
●
ルトスワフスキの1950年代60年代の作品。
ショスタコーヴィッチ風の響きがあるが、馴染み易さ難さを越えたそれぞれの時代における完成された作品の響きのように聴こえる。
葬送音楽は低弦の響きが魅力的。
ヴェネチアの遊びは、1961年の作品。音の遊びがこの後の混沌とした音楽を暗示させる。
.
ロヴィツキは40年?以上前に、ショスタコーヴィッチの5番で粗い中にも透明度の高い演奏で、それはこのオーケストラの特色なんだよと言いたげな光る演奏が記憶に残っている。白っぽい見開きジャケのアナログディスクのことを今でもよく覚えていて、探せば出てくるはず。
●
最近マーラーの10番が立て続けに3種出た。
写真の一番上から順に、
①
サマーレ&マツッカ補筆完成版
マルティン・ジークハルト指揮
アーネム・フィル
CD/SACD STEREO/SACD 5ch SURROUND
ハイブリッド・ディスク
②
デリック・クック補筆完成全曲盤(1976)
ダニエル・ハーディング指揮
ウィーン・フィル
③
デリック・クック全曲盤
ジャナンドレア・ノセダ指揮
BBCフィル
●
写真一番下のシャンドスのノセダ指揮のものは、あまり録音がよくない。音レベルも小さい。また、アンサンブル単位の録音のように聴こえ、細切れの音楽のつなぎ合わせのように聴こえたりする妙な面白さも部分的にはあるが、全体としてはマスの録音でありオーケストラとしての解像度もあまり高くない。これはジャケ半分の写真通りちょっとスキップ。ジャンピングのノセダには悪いが全体にすっきり感がない。まとまりのない録音に足をすくわれてしまった感がある。
ハーディングのイエロー盤は、ウィーン・フィルのクリーミーにとろけるサウンドが、頭の芯まで溶解させてくれる。オーケストラの実力がもろにものをいう。この曲にこのような解釈が合うのかどうか、といったことを忘れさせてくれる。美しすぎる。。
ジークハルトのSACDは、SACDにして2枚組。誠に抜群のサウンド。SACDの音は素晴らしいの一語に尽きる。凄ければすごいほどオーケストラの実力がもろに出るわけだが、ウィーン・フィルほどのクリーミーさはないが、というよりもドライな音に近いオーケストラ・サウンドはノセダのBBCフィルのような感覚に近いが、でも録音がそれらを補って余りある。第2楽章のドライなクリーミーさ加減は印象深い。
●
マーラーの10番の全曲盤はCDでは比較的よく出ていると思うが、国内の実演というのはあまりない。興行的には難しいかもしれないが、最近はまともなものからゲテまで、いろいろと演奏会で取り上げたりしているので、この曲ももう少し頻繁に聴けるようになってもいいと思ったりする。