河童はカパコと歩いてる。渋谷の雑踏の中、オーチャードでエヴァ・メイのラ・トラヴィアータを観終えたところだ。
アルフレッド河童「I love you」
ヴィオレッタカパコ「No, you love me more than I love you」
第2幕第一場後半のカタルシスを思い出しながら、僕らは塔レコに向かった。広いクラシックフロアで物色を始めた。
アルフレッド「僕はいつもここにきてるので今日は特別欲しいものはないんだ。カパコは何か欲しいのあるの?」
ヴィオレッタ「ブラームスのラプソディが聴きたいわ。」
アルフレッド「ん?」
ヴィオレッタ「ブラームスのラプソディ。」
アルフレッド「(ブラームスにラプソディなんてあったっけ。カパコのことだから、アルト・ラプソディでないのは明白だし。困った。)」
ヴィオレッタ「ねぇ。」
アルフレッド「とりあえず、Bのところ見てみようか。」
ヴィオレッタ「Bだけど、そっちの管弦楽の方みてもダメじゃない。ピアノだもの。」
アルフレッド「(そうか、ピアノの曲だったのか。)そうだね、いま行く。」
ヴィオレッタ「もっとこっちよ。ピアノ協奏曲じゃないんだから。」
アルフレッド「(そうか、ピアノの独奏曲だな。) ブラームスのピアノ曲って思ったよりたくさんあるんだね。」
ヴィオレッタ「あったわ。本当はアシュケナージが好きなんだけど、これは知らない人だけどこれしかないみたいだから、これ欲しいな。」
アルフレッド「(アシュケナージとこの河童を比べたら、絶対に河童の勝ちだな。アシュケナージは昔、レコ芸のインタビューでオペラ嫌いとして一気に評判をおとしたことがあったし。) そうだね。このまえのセル&クリーヴランドのベートーヴェン交響曲全集どうだった? 今日はベートーヴェンのピアノ協奏曲全集でも一緒にゲットしようか。」
ヴィオレッタ「あら、アシュケナージの全集があるわ。」
アルフレッド「(しまった。メータ指揮ウィーン・フィルの伴奏でアシュケナージのピアノによる定番があった。) そうだね。その全集は20年ぐらい前に出たものだけど、もっと新しいのがいいんじゃないのか。」
ヴィオレッタ「ううん。これがいいわ。」
アルフレッド「(やぶへびだった。)じゃ一緒に買おう。」
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河童「今日のトラヴィアータはよかったね。僕はこのオペラをみるといつも、ヴィオレッタに自分を重ねてみてしまうんだ。オスなのに。」
カパコ「どうして。」
河童「よくわからないけど、不埒なアルフレッドと自分が重なってしまうことを無意識に避けているのかもしれない。このオペラの最後のシーンを見てると、自分の人生なんかどうなってもよくて、死ぬまでオペラを見つづけていたくなってしまうんだ。MET座の河童の気持ちだね。
私の人生は短く、華やかで、苦しく、あぁ不思議だわ、なんと体が軽いことか、アルフレッド、私は、今、生まれ変わるのよ。
って終わるじゃない。人生もパソコンみたいにリセットボタンが欲しいときもある。」
カパコ「ふーん。ところで、私はお父さんのジェルモンもタイプだわ。」
河童「やっぱりな。そんな気がしてたんだ。カパコはヴィオレッタになりきって観ていたと言うことだよ。」
カパコ「二人でヴィオレッタになりきってもしょうがない。」
河童「今日は二人とも休憩時間も関係なく座りっぱなしだったね。やはりオペラのドラマ性は答えがわかっていても、ハイレベルな歌とかが緊張した気持ちを継続させてくれるよね。2時間後の答えはわかっていてもドラマのプロセスの充実度がすごかった。」
カパコ「そうだったわね。でも不埒な人間同士が不埒な出会いをすれば、かならず悲劇は訪れるものよ。だってE=mc↑2でしょ。」
河童「いつから物理学者になったんだ。なんだそれ。」
カパコ「エネルギー保存則だったわよね。人間ツキあれば苦あり、ってね。でもねツキじゃなくで努力が大事なの。必ず報われるから。不埒な二人に勝ち取ることの出来る幸せはなかったのかもね。だって、人生E=mc↑2だもの。」
河童「I knew it.これからはカパコのことだけ考えて生きるよ。」
Brahms
2 Rhapsodien op.79 二つの狂詩曲 ロ短調 ト短調