恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

怒らない練習

2010年09月20日 | インポート

  先日、某特急にのりました。座席は、進行方向両側2席ずつです。私はその日、右側窓際席Aにすわっていました。最初はきわめて空いていて、私の周辺には誰もいませんでした。

 ところが、ある駅に着くと、急に大勢の乗客がありました。私がぼんやり新聞を見ていると、たちまちのうちに車内がさわがしくなりました。

「ここよ!ここ!」「私のは?」「そこ、窓側」

 気がつくと中年ご婦人の一行が、私の前の席を指差しています。

「あ、杉浦さんのは、後ろねえ!」「え、私、後ろ?」「大丈夫よ!」

 この「大丈夫」の一声が発せられたとたん、私の前の座席がぐるっと一回転したかとおもうと、そこに中年のご婦人がふたり、どさっと鎮座なさいました。つまり、私は、ご婦人グループお三方にとりまかれて坐ることになったのです。

「あら、まあ、ごめんなさいね!」

 「大丈夫よ!」の声の主ににこやかに挨拶され、別の方から おすそわけ、とミカンをもらい、お隣からあやうくお弁当まで買ってもらえそうになりました(私は車中の駅弁が苦手)。

 あとは、彼女らの華やかで甲高い「情報交換」を延々2時間、窓の外をひたすら眺めながら拝聴しました(とても活字を読み続けられる状況ではなかった)。

 仏教において、怒りは「三毒」のうちの一つであり、根本的な煩悩です。坊さんなら克服すべきものです。それに、彼女らは、乗客の権利を行使しただけであり、私にもきちんと挨拶もしてくれました。

 なのに! なのに、なぜ私は腹が立つのか!! ミカンももらったのに!!! ああ、齢50をこえてなお、私の修行はかくも未熟なのか!!?

 しかし! ああ、しかし!!

追記:次回「仏教・私流」は、10月20日(水)午後6時半より、東京赤坂・豊川稲荷別院にて、行います。


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28 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
蜜柑は美味しく召し上がれましたコトを祈りつつ… (弄精魂)
2010-09-20 23:36:35
蜜柑は美味しく召し上がれましたコトを祈りつつ…
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過去のブログを読み返していましたら、新しいエン... (またへん)
2010-09-21 00:50:17
過去のブログを読み返していましたら、新しいエントリーが!
同じ時間を南直哉様と過ごしていると思うとなぜかちょっと嬉しい気分でした。
そして、深夜にも関わらずフフフと噴き出してしまいまして、嫁が起きてしまうかと焦る。
南様の怒りは、南様の表現力という変換力によって、私の笑みに変わりまして、まことに自分勝手ながら今日は笑み顔のまま床についていい夢が見れそうであります。
未熟な人間の自分が安堵して眠れる今日の夜をありがとうございます。
ある意味、日本のたくましく図々しい“ババァ”に感謝です。(自分が被害者じゃないから言えるこの自分勝手な感謝で恐縮です。)

まったく関係ありませんが、今週末、恐山を訪れます。ほぼ観光ですが、楽しみです。
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まるで落語のような楽しい風景に感じられました。 (南京ハゼ)
2010-09-21 01:25:38
まるで落語のような楽しい風景に感じられました。
ことご婦人方の大地から沸き上がるかのような生命力、そして心配り(ある意味)、素敵です!
…2時間ですか…。

爽やかな秋風が吹き大分過ごしやすくなりました。
どうぞ心地よいお時間を過ごされますよう心よりお祈り申し上げます。

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あらぁ、おばちゃんのひとりって、私かしら? (おばちゃん)
2010-09-21 05:55:28
あらぁ、おばちゃんのひとりって、私かしら?
いやだわ、私ったら・・・

そのおばちゃん、酔っ払っておりませんでしたか?
そうだとしたら、
つい、あの方ならば大丈夫なんて、思っちゃったのよ。
本当に素敵な方だったわ。

うちの主人って、ちょっとやそっとのことで、
ガミガミ、グジュグジュ言うのよ。

ついでにとても珍しいビールまでいただいて、
舞い上がっちゃったの・・・

ごめんあそばせ。

追伸
さすがです、院代様!!
度重なる不躾、大変失礼いたしました。
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小さくてもすっごく大きな社会現象をおひとつ (はてな)
2010-09-21 06:28:25
小さくてもすっごく大きな社会現象をおひとつ

高速道路のトイレで用を足していると○○弁丸出しの御姉様方の団体が押し寄せました。
綾小路きみまろさん張りの「ねえ!何やってんの早くして!」もう出る時浴びた視線の集中砲火の恥ずかしい(私が?どうして?)やら、何とも言えない体験を得ました。
それでも、嵐が過ぎ去るまで用足しに行きたくても行けない同胞のことを考えますとラッキーなんでしょうね。

また、出るモノをこらえる辛さを考えますと途中で代わった方がよかったのでしょうか?

願わくば、二度と遭遇しないことをアーメン、ラーメン、おねえさま。
くれぐれも「お姉さま方」お怒りになりませぬように。
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怒らないなんて人間に本当に克服できるのでしょう... (浅野)
2010-09-21 07:40:46
怒らないなんて人間に本当に克服できるのでしょうか。極自然感情を。
そして、公共スペースであり、乗客に権利なんてあるのでしょうか。
もっと、日本人が自然に怒れる社会も風通しがよく、いいんじゃないかと思うのですが。我慢が美徳だと教育されてきたので、難しいところですが。
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方丈様、「仏教者」という立場に拘りすぎですって... (風蓮)
2010-09-21 08:31:26
方丈様、「仏教者」という立場に拘りすぎですって。(笑

寒いときは寒い。暑いときは熱い。不快なものは不快。(腹が立つものは腹が立つ。)
自分の中に理屈で説明してなんとかなるものとならないものって誰にもありますよね、人間ならば?
それを押さえ込めば押さえ込むほど、その歪みは形を変えて別のところで爆発しますよ。
そう、まさに今回、「怒らない練習」というコラムという形で爆発してるじゃないですか?

自分の感情を押さえ込むことより解放することじゃないでしょうかねぇ。。。




後の祭りですが、

①その場でオバチャンに抗議する。
②「袖振り合うも他生の縁」と受け止めて、オバチャンの輪に加わる。
③雑音と受け止めて、寝てしまう。


方丈様、仏教者ならどれを選びますか?



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小生も小田急のロマンスカーで同じ目に遭ったこと... (樹慶三)
2010-09-21 13:05:03
小生も小田急のロマンスカーで同じ目に遭ったことがあります、それ以来、ロマンスカー恐怖症(笑)。南直哉和尚もご縁を活かすことができなときもあるんですね(泣)
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方丈様の文章やお話はやっぱりスゴイです、グググ... (大池ヘビ之介)
2010-09-21 13:54:11
方丈様の文章やお話はやっぱりスゴイです、グググっと迫ってきます!方丈様の溢れんばかりのイメージ力がそのまま言葉となって現れるからでしょうか。

久しぶりに大笑いするとともに、また大変同情いたしました(笑)
また我が身を振り返って、「おばちゃん」とならぬように注意いたします。
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これからは仏教も (KJ)
2010-09-22 04:31:42
これからは仏教も
怒りを状況に活かす道を
市井に提案して欲しいもんです。

抑え込むのでもなく
無自覚にぶちまけるのでもない、
かつ、場に活かす。

そんな、方法。

ちょっと、マジメに応えすぎましたか?
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