インドとの関係を重視した安倍元首相の開かれたアジア太平洋という考え方は、北岡伸一氏の提言があったからといわれる。覇権主義の中共に対抗するにあたっては、現状では日本がインドと組むのはベターな策なのである。
会津出身の国際法学者であった大平善梧は、1960年の安保改定で、それに賛成した数少ない識者である。大平はその前年に出した『日本の安全保障と国際法』のなかで、将来のアジアの姿を予見していた。
「日本のアジアに占める位置を論ずるとき、最後には中共・インド・日本の鼎立(ていりつ)関係をいかに決定するかを考察せざるをえなくなる。アジアの陸心地域(ハートランド)を占める中共が指導権を握るものと地政学が結論づけているわけではないから、これは三民族の将来の精神的エネルギィによって決まることだと一応推論しておくにとどめたい」
大平の主張は明確である。中共の人民民主主義やインドの中立主義のどちらにも与せず、「日本はその置かれた位置に飽くまで強く立ちたいものである」と主張し、「中共・インド・日本の三つの星の鼎立を肯定することこそ、新しいアジアの平和共存論ではなかろうか」と述べたのである。
今から60年以上も前に、中共の台頭に対して備えて置くべきことを説いていたのだ。「三つの星の鼎立」を実現するためにも、日本が国家としての力を取り戻し、それなりの発言権を確保しなければならないのである。