来年のNHKの大河ドラマ「八重の桜」で新島八重が主人公となるというので、会津のどこの本屋でもコーナーが設けられているが、ジャンヌダルクだとかハンサムウーマンとかの言葉が躍っているだけで、読み応えがある新刊書は一冊もない。20冊近く買ってパラパラめくってみたが、原稿用紙40枚程度ですむ伝記を、関係のないことを加えたり、勝手に解釈したりで、無理に水ぶくれさせている。それらの新刊書よりも、会津図書館で借りた内海健寿著の『会津のキリスト教』(キリスト新聞社)の方が私には読み応えがあった。八重のことはわずかしか触れてはいないが、山路愛山の「精神的革命は多くは時代の陰影より出づ」との言葉を引用して、戊辰戦争後にクリスチャンになった会津人のことを、真正面から論じていたからだ。精神革命の担い手としての敗者に目を向けることで、クリスチャンとしての八重の信仰心についても、一味違った見方ができるのではないかと思う。住む場所も奪われ、流浪の民となったかつての会津人は、勝者とは異質なもう一つの世界を築いたのだった。八重を題材にした新刊書が物足りないのは、そこにまで踏み込んでいないからだろう。親しみやすい物語をつくりあげていく。それにばかり気を取られて、大事なものを見失っているのではないか。会津は戊辰戦争で敗れ満身創痍になったとはいえ、勝者にはおよびもつかない精神世界を切り拓いたのである。
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