生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

色をなくしたインコ(その3)

2011-05-30 19:59:37 | 童話
今回は最終回です。

(七)
「もうそろそろいいだろう」
ノアがやってきて、天井の窓を少し開くと、サーッと光がさしこんできました。久しぶりの日の光に、一同はまぶしくて一瞬何もみえませんでした。

しばらくしてみえてきたとき、レアが「ククククー」とおどろきの声を上げました。
自分にはちゃんと色があるのにヨエルが灰色一色になっていたからです。
「ヨエル……ああ、なんていうこと……」
レアはショックでふるえています。

「ポポが元気になるんだったら、これでいい」
ヨエルは神さまが祈りをきいてくださったのだと思いました。

それでもヨエルは美しい色がなくなってしまったことがショックでした。じまんできるものが何もなくなってしまったのです。ノアはもう自分のことをかわいがってくれないでしょう。

悲しくて、悲しくて歌もうたわず、おしゃべりもせず、うつらうつら寝てばかりいました。
ヨエルは、ノアが最初にカラスを連れて部屋を出て行き、次にポポの奥さんのルルを連れて部屋を出たことに気づきませんでした。

(八)
ルルがもどってきたときから、ポポは食事をするようになりました。
ノアは、水がどれくらいひいているのか調べるのにハトを使ったのです。一週間後に今度はポポを外に放つとノアが言いました。それを聞いたポポは、灰色の鳥でも人間の役に立てることを知って嬉しくなり、えさを食べはじめたのです。

ノアが、すっかり元気になったポポを連れて部屋を出ていったときも、ヨエルは気づきませんでした。
「ポッポッポッ、みんな、聞いて! 嬉しい知らせだよ」
ポポがノアのかたにとまって部屋に入ってきました。ノアの手にはつややかな緑のオリーブの葉がありました。

「ポポがこれをくわえてきた。外は大洪水だったが、このオリーブの葉は水がひいてきた証拠じゃ」
「もうすぐ舟から出られるの?」
レアがたずねました。
「そうじゃよ」
「また、大空をとべるんだな」
ダイゴがはねを広げました。

「やったー!チチチ」
「バンザーイ、チュンチュン」
鳥たちは大喜びです。
元気なポポの姿をみてヨエルはほっとしました。けれども、舟から出られると聞いてもちっとも嬉しくありません。

ノアは、浮かない顔をしてそっぽを向いているヨエルに気づきました。ノアは灰色になったヨエルをみておどろきもせず、ヨエルの頭をなでました。
「おれのはね、きれいな色じゃなくなっちゃったよ」
「ちっともかまやしない。お前は大事な鳥だ。わしはお前のことが大好きじゃ」
ノアはヨエルの灰色のはねにほおずりしました。

(九)
ついに箱舟から出る日がきました。窓が大きく開かれ、いっせいに鳥たちがとび出しました。ヨエルは、灰色のはねでも大好きといってくれたノアの言葉で元気を取りもどしていました。
ヨエルはレアと連れだって大空をとびまわりました。ヨエルとレアが木の枝ではねを休めると、ポポとルルがすぐ隣の枝にとまりました。
「ポポ、ごめんな。おれが悪かったよ」
「ヨエル、ごめん。ぼくこそ悪かった」
二羽はお互いに心からあやまりました。

空に七色の線がすうーっと引かれ、虹が出ました。ヨエルは虹に向かって飛びたちました。
ヨエルの体が虹の中にすっぽり入りました。虹から出たとき、レアは驚いて目を丸くしました。ヨエルのはねが虹色に染まっていたからです。

ヨエルのはねは以前より美しくなりました。でも、ヨエルは決してだれにもじまんしませんでした。だって、はねの色は自分がつけたのではなく、染めてもらったものだからです。

ポポとルルにも虹の光が注がれました。ハトの首に虹色の首輪がみえるのは、このとき虹の光を浴びたからでした。

                    おわり



最後まで読んでくださってありがとうございました。


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