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生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

チーターパシュルと虹(その2)

2008-12-18 16:17:05 | 童話

「あれが箱舟……」
「箱舟はあと三日で完成じゃ。神様は、全種類の動物のオスとメスを箱舟に入れるようにおっしゃったんじゃ。お前とメルダはチーターの代表として入るのだよ」
パシュルは箱舟に入るのはいやだと思いました。だいいち舟の中では走れません。でも、助けてくれたおじいさんに「いやだ」ということもできず黙って地面をみつめていました。

(箱舟ができたころ、足の傷も治っているだろうから逃げだそう。チーターはたくさんいる。箱舟に入るのはオレじゃなくったっていいだろうから)
パシュルはそんなふうに考えていました。

3 箱舟
三日目の朝のことです。
「できたぞ、できたぞ。箱舟がついにできた!」
おじいさんの三人の息子たちが歓声をあげながら箱舟のまわりをまわっていました。

「もうできたのか」
パシュルの熱は下がっていましたが、まだ前足が痛みます。とても走れそうにありません。パシュルは足を引きずって、かくれるところをさがしていました。
かくれる間もなくおじいさんがやってきて、

「さあ、パシュル。箱舟に入るのだよ」
と追い立てたので、しかたなくノロノロと箱舟に入りました。
箱舟の中はたくさんの動物でひしめきあっていました。ブーブー、ワンワン、ニャーニャー、メーメー、コケコッコー、やかましいったらありません。
「パシュル、こっちよ」
メルダが奥で呼んでいます。しきられたところに二匹のチーターが横たえるだけのスペースがありました。

「あーあ。こんなやかましくてせまいところで暮らすのか」
パシュルがため息をつくと、
「でも、しばらくの間だっておじいさんがいってたわ。それに朝夕十分な食べ物をくださるんだって」
「どうせ、けがして走れないんだから、ここにいてもいいんだけど……」
パシュルは大きなあくびをしました。

箱舟に入って間もなくザーザーと水音が聞こえました。その数日後、舟がユラユラゆれはじめました。ギシギシと木のきしむ音がします。ときおり、ゴーゴーと風の音やパラパラと豆をぶつけたような音が聞こえてきます。

外はどうなっているのでしょう……。パシュルたちのいるところには窓がないからわかりません。外のようすがわからないまま、何日も何日も過ぎていきました。パシュルはだんだん不安になってきました。

ある朝、メルダが耳をピンとたてていいました。
「水の音がしなくなったわ」
たしかにメルダのいうとおり、水と風の音がやんでいました。でも、ギシギシと音がして舟はまだゆれています。

パシュルはほっとしましたが、こんどはたいくつでたまらなくなってきました。
「ああ、早く舟を出たい」
「おじいさんがとびらを開けるまで出られないのよ」
「そんなこと、わかってるさ。ああ、たいくつだ」
パシュルは後ろ足で頭をかきむしりました。
メルダは次から次へとおもしろい話をはなして聞かせました。パシュルはしばらく耳をかたむけていましたが、だんだんあきてきて、またため息ばかりつくようになりました。

気が遠くなるほど時間が過ぎたある日、船底からガタンと音がして、舟が少し傾いてゆれがピタッと止まりました。
ネズミがこわがってチューチュー騒ぎ出すと、箱舟の動物たちがいっせいに鳴き出しました。

「うるさーい! しずかにしやがれ!!」
パシュルはさけぶと立ち上がりました。前足のけがはすっかりよくなっています。

4 箱舟の外をながめて
「まったく! やってられないぜ」
「どこいくの?」
「外に出る。先におろしてもらう」
パシュルは階段をのぼり、三階の屋根裏部屋をのぞきました。窓が少し開いていて、そこから日の光がさしこんでいました。
(あの窓を大きく開ければ外に出られるぞ)

そっと窓へ近づくと、窓から真っ黒なカラスが飛びこんできました。
「羽を休めるところなかったよ」
カラスが叫ぶと、おじいさんが屋根裏部屋に入ってきました。おじいさんの肩にはハトがとまっています。
「そうか。まだ水はひいてないんじゃな」

おじいさんは、パシュルに気づいて目を細めました。
「足のけがはすっかりよくなったのか?」
「う、うん」
パシュルは目をそらして答えました。
「外に出ようと思ったんじゃろ」
おじいさんはパシュルの心を見通しているようです。

パシュルが答えずに黙っていると、おじいさんは大きく窓を開け、ハトをはなしました。


つづく

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