いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

中皮腫とは何でしょうか

2005年08月29日 | 病理学もしくは病理医
 アスベストを吸入することで何十年後に発症し、生命を脅かすと話題の悪性中皮腫。馴染みのない言葉だと思いますので簡単に解説を。

 人間にはたくさんの「皮」があります。誰でも知っているのが体の外側にある皮膚。ところが、体の中にも「皮」があります。大まかに分けてみましょう。
 まず、皮膚と連続している口の中の粘膜とか消化管、あるいは気管支の粘膜。これらは「上皮」に分類されます。
 それから、血管やリンパ管の内側を被う薄い「皮」。これは「内皮」と呼ばれます。
 「胸膜」とか「腹膜」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。そう言えば「腹膜炎」という言い方がありますね。手術で胸やお腹を開けると、臓器を収めるスペースがあります。簡単に言うと、横隔膜より上にあるのが「胸腔」、横隔膜より下にあるのが「腹腔」です。これらのスペースや臓器の表面は、「中皮」と呼ばれる薄くて滑りのいい「皮」で被われていて、お互いにくっつかないようになっています。
 この「中皮」がアスベストの刺激などで勝手に増殖する腫瘍、つまり「できもの」になったものが「中皮腫」というわけです。

 中皮腫はわかりましたね。なぜ癌じゃないかって?いい質問です。
 腫瘍は元の組織の特徴をある程度持っていることが多いので、どこから発症した腫瘍かで性質が大きく違います。医学用語では、一般に「上皮組織」から出た悪性腫瘍のことを癌と呼んでいます。胃癌、肺癌、子宮頸癌など、悪性腫瘍の中では癌が最も多いため、一般のマスコミなどでは癌以外の悪性腫瘍も「癌」と表記することがあります。
 ですから、日常会話では「悪性中皮腫」のことを「中皮の癌」と呼んでも差し支えありませんが、例えば肺癌と比べると経過や治療方針が違うため、専門家は厳密に区別しています。
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28 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
親父が… (隊長)
2008-11-04 21:08:11
親父が右胸水貯留で入院しました。結核ではないが、原因が判明しないので、胸腔鏡下胸膜生検を受ける事になりました。やはり癌の可能性が高いでしょうか…。内装業を30年位してたのでアスベストも心配です。
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Unknown (enagoya)
2008-11-04 22:20:52
ご訪問ありがとうございます。ご家族の入院でご心痛のことと思います。この場では診断について詳しいことは言えませんが、胸水そのものは肺炎をこじらせた胸膜炎でも溜まりますので、まだ癌と決まったわけじゃありません。それに、1回の胸膜生検で診断がつかないことも少なくありません。治療方針が決まるまで落ち着かないと思いますが、病院と十分に意思疎通を図って、粘り強くお父様を支えてあげて下さいね。
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ありがとうございます (隊長)
2008-11-05 21:44:26
お返事ありがとうございます。7日に手術が決まりました。明日、手術の説明があるそうです。胸腔鏡下胸膜生検の予定でしたが、胸を開かないといけないとDrに言われました。胸水を抜くたび、レントゲンを撮ってるのですが、何か写ってたのでしょうか…。ちなみに胸水を10月30日から11月5日の間に、3~4リットルほど抜いてます。質問ばかりで申し訳ないですが、これからも相談してよろしいでしょうか。
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開胸生検 (enagoya)
2008-11-06 00:57:17
私は臨床医の先生が採取した組織を顕微鏡で検査するのが専門なので、臨床の現場についてはあまり詳しくありませんが、それでよければわかる範囲でお答えします。

胸水が多量に貯留すると肺がふくらみにくくなり、呼吸が苦しいので胸壁に穴を開けて、ドレーンと呼ばれるチューブを挿入して胸水を抜きます。この際にドレーンの位置確認や、胸水がどれだけ抜けたかを見るのにレントゲンを撮るので、これに腫瘍が写ることは期待してないと思います。

普通の肺癌なら塊を作りますから、その塊をほんの少しでも採取すれば診断がつくことが多いです。これなら胸腔鏡でいいのですが、低分化型の肺癌や中皮腫、特殊な炎症性疾患などははっきりした塊を作らないため、開胸してある程度大きな組織を採取しないと診断が難しいのです。お父様の例では、CTなどで普通の肺癌ではなさそうだと判断されたのでしょうね。病院の判断は妥当だと思います。
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こんばんは (隊長)
2008-11-06 21:33:36
解りやすく説明して頂き感謝です。今日、先生に手術の説明を聞きました。昨日、開胸生検と聞いてましたが、予定通り胸腔鏡下胸膜生検だそうです。現在のレントゲンを見ながら話されて、水が3分の1位残っている感じでした。手術に必要らしく残してるとの事。説明の中で、ヒアルロン酸っていうのが非常に高く、中皮腫の可能性を外せないと言われました。結果は4~5必日かかるそうです。テンプレートを作るとの事。明日の昼から手術が始まります。
また報告しますので、よろしくお願いします。
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今日までの経緯 (隊長)
2008-11-07 05:57:41
病名が解らず眠れない日々が続きます…。これまでの経過を説明したいと思います。今年の7月~8月に仕事がなく、禁煙も始め、体重増加もありウォーキングを始める。9月初旬、仕事中に息切れを訴える。10月初旬、息切れは続き、時々胸の痛みを訴える。中旬あたりから背中も痛み出し、息切れも激しくなる。10月27日、近くの病院に行き、緊急で現在の病院へ回され、右胸水貯留を判明。10月30日より入院、採血・心電図・CT・MRI等検査する。この日の夕方、チュ-ブを入れ水を抜く(1.5リットルほど)。胸水の色は血が混ざった様感じで赤褐色に濁っている。呼吸が楽になった為、本人は意外と元気である。この日主治医より、結核ではない事、熱がない為ウィルス性が低い事、癌の可能性が高い事、胸水の原因が判明しないので、胸腔鏡下胸膜生検が必要と説明された。病名が判明しないまま、今日手術を迎える。
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検査手術終了 (隊長)
2008-11-07 20:58:30
無事に手術終わりました。残念ながら、悪性の細胞を確認したようです。外科の先生から説明があり、右肺の下半分は機能しておらず、まばらに白くなってるとの事。後は癌の種類を特定するため、4~5日かかるそうです。ヒラルロン酸の数値を見る限り、胸膜中皮腫の可能性が高いとの事。肺がんの可能性もゼロではないので、今後の治療方針は診断が出てから決めましょうと言われました。来週は、他に転移してないか検査三昧。主治医の先生が、とてもいい方なので、信頼して家族みんなで頑張っていきます。たとえ余命に限りがある結果が出たとしても。いろいろありがとうございました。あなたのお陰で僕は沢山助けられました。迷惑でなければ、また報告に来てもよろしいでしょうか?
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Unknown (enagoya)
2008-11-09 04:53:19
とりあえず検査お疲れ様でした。悪性の細胞、と言われるのはとりあえず胸水細胞診で活動性の高い細胞の塊が見つかったということだと思います。

後は組織検査ですね。CTを見てみないとわかりにくいですが、腫瘍は右肺の下葉を覆うように胸膜に沿って大きくなっているのでしょうね。中皮腫に多く見られるパターンですが、進行した肺癌や肉腫の可能性もあります。

中皮腫と低分化型腺癌や肉腫との鑑別は顕微鏡で見ても簡単でない場合があり、特殊な染色をしたり、あるいは再検査をしたりで時間がかかることもあります。中皮腫ならアスベストの関与が疑われます。

ヒアルロン酸は体が作る一種の潤滑剤です。胸膜の中皮や体中の関節など、潤滑作用が必要な部位で作られますので、胸水にヒアルロン酸が含まれているのは当然のことですが、これが正常値よりも何桁も多くなると、中皮腫が強く疑われます。ブログのエントリーに書きましたが、腫瘍はどの組織から出たかによって性質が違い、元の組織の特徴をまだ持っていることが多く、中皮が腫瘍になった中皮腫ではヒアルロン酸が多量に作られることがあるからです。

いずれにしても、闘病は患者ご本人のみならず家族と病院も一緒になった総力戦になります。お互いに信頼がないと耐え難い戦いになりますので、特に病院とは十分に話をして納得できる治療が受けられるようにして下さい。ここでコメントされることで少しでも気が楽になるのなら、いつでも歓迎します。
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Unknown (隊長)
2008-11-09 22:16:15
毎回わかりやすく説明していただき、ありがとうございます。全身に転移がないかを調べる為、10日に脳のCTと骨の検査、11日にPETっていう検査をするそうだ。14日までには組織の検査結果がでるとの事。結果が手術できるものであれば、21日に手術が決まってます。キャンセルにならない事を祈ってます。また結果がわかりましたら、報告します。
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希望 (隊長)
2008-11-13 19:27:26
こんばんは。検査結果が出ました。悪性胸膜中皮腫と診断されました。でも希望が持てる結果でした。10日と11日にありました検査で、転移がみられないとの事と、病期が2期である事です。18日に手術も決まりました。胸膜ごと摘出する大きな手術になりますが、父も頑張ると言ってくれたので、少し安心しました。15日に外科の先生から手術の説明があるそうです。
また報告にきます。
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