いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

病理医は何をやっているの?

2005年08月30日 | 病理学もしくは病理医
 病理医という存在すらあまり知られない日本では、何をやっているのか聞かれることも少ないのですが、それじゃ寂しいので自己紹介です。

 病理、という言葉は、元来病気のメカニズムを調べる学問という意味なのでしょう。しかし、病気についての研究は今やどの科でも懸命にやっています。内科と名が付いても、病院での診療より研究室での実験が忙しい大学医局はいくつもありますから。

 病理学教室のスタッフも多くは研究に時間を割いています。ただ、極楽親父こと私のように、病院での診療業務にほとんど専従している、いわゆる「病院病理医」の仕事も年々存在感を増しており、業務の増加、多様化に比べて新規入局者が少ないゆえに、深刻な専門医不足が懸念されています。医学生や研修医に対する宣伝も必要ですが、まず一般の皆様に我々の存在をアピールすることが大事だと痛感している次第です。

 個人開設の診療所と違って、大きな病院では検査部門が発達しています。血液検査、細菌検査、呼吸機能、心電図、脳波、レントゲン、内視鏡などですね。大きな検査部門の中で、患者さんから採取した組織を観察して病気を診断する部門があります。これが病理検査。

 例えばあなたが内視鏡を飲んで胃の検査をします。胃は柔らかい粘膜で被われた臓器なのですが、この粘膜から癌が発生しますので、その場合は早期発見して治療しなければいけません。内視鏡で「ここが気になるな」という個所があれば、消化器内科の医師は内視鏡に仕込まれた小型の鉗子を抜くが早いか、瞬時に粘膜の小さな切れっ端を検体として採取します。

 この粘膜の小片が検査技師によって顕微鏡標本、つまりプレパラートに加工されて病理医の手に委ねられます。これを顕微鏡で観察して、「悪性像なし」とか「中分化型腺癌」とか診断するのが病理医の主要な業務です。病理医が出した検査レポートに基づいて、手術するとかしないとかが決定されるので、そりゃ責任は重いですよ。

 こんな標本が山のようにあるため、病理医は朝から晩まで顕微鏡を覗いてレポートを書き続けています。ちょっとした規模の病院なら年間10,000件を軽く越えますが、常勤の病理医は1人かせいぜい2人。しかも1件でプレパラート30枚なんて手術標本もあるので、多い日は200枚ほどのプレパラートを真剣に見ないといけません。夕方になって眼精疲労がひどくなると、どんよりと頭が重くなって、もう何もする気力もなくなります。

 こんな夜は何よりアルコール。一杯のテーブルワインで、鉛の重石が乗ったような目の重さが「すうっ」という感じで引いて行くと、まだ明日も何とかなるかなと思います。だから極楽親父はアルコールのことを目薬と信じて疑いません。
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