いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

今日も絵本を読む

2007年05月11日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 書評で紹介されることも多い「ふきまんぶく」ですが、誰が見てもこの絵は不気味です。「麗子像」の首だけ外してきたような異様な迫力は、特に子供には受け入れにくいものでしょう。

 ストーリーも相当に独りよがりなもので、共感を得にくいと思います。少女がふきまんぶく(「蕗のとう」の方言)になって土の中で眠った夢の体験を忘れられず、山の上の蕗(ふき)の群落に惹かれて山を目指す、ということなのですが、そもそも大多数の文学的コンテンツでは「土の中で眠る」とは死を意味します。これがまず不祥です。そして、この異常な経験は、楽しいとも嬉しいとも書かれていません。楽しくも嬉しくもないのに、その不祥な思い出に抗いがたく惹かれていく。これは年端も行かぬ少女が、自ら死に近付いて行くという意味です。坪田譲治さんなら、間違いなくこの少女を死なせているでしょう。

 この暗さを払拭するためには、明るくて未来への希望を感じさせるような絵が必要なのですが、田島さんの絵はまさに逆で、ストーリーと相まって不吉な未来を強く暗示します。絵とストーリーが合っていると言えば合っているのですが、これではほとんど怪奇絵本です。

 最後の少女の生首がずらりと並んだような「ふきまんぶく」の絵は決定的で、もしこの話の続きを書けと言われれば、少女の悲惨な死をもって締めくくる以外に整合性はありません。これだけ読後感の悪い絵本が高い評価をされているというのは理解に苦しむ話であり、一体この絵本で読書への興味を引き出された子供がどれだけいるのか聞いてみたい気がします。

 田島さんの経歴を見ても直接の関連はないと思いますが、死への強い執着を力強い筆致で表した絵を見ていると、メキシコ・ルネサンスと言われる絵画活動を連想してしまいました。ご興味のある向きは名古屋市美術館においで下さい。同館がテーマとして収集しているメキシコ・ルネサンスの画家であるオロスコ、リベラ、シケイロスの力強い作品がお迎えすると思います。そうそう、「ふきまんぶく」をまだ子供に読ませていない方は、どうかご安心下さい。こんな本で子供は本好きになりません。これは大人のための読み物だと思います。

 こちらは多作のベテラン、かこさとしさんがさらりと描いた印象の絵本。読みやすいし、子供の反応に応じた演出もできるでしょう。いい本だと思います。
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