いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

消費者が見たダビング10(あるいは情報通信審議会)

2008年06月25日 | たまには意見表明
 予想に反してダビング10の導入日が政治決着されたようですが、そもそもダビング10は消費者が望んだものではなく、不便極まりないコピーワンスの実質的な緩和になっていないという重要な点を、消費者代表として情報通信審議会に入っている高橋伸子委員が指摘しています。

 コピーワンスの緩和策としてダビング10で(権利者主導の)折り合いがついた時、高橋さんが「本当にいいまとめができたのではないか」などとコメントしているのを見て、私は「高橋伸子は消費者代表ではない」と批判した覚えがあります。しかし今回の働きぶりはまさに多くの消費者を代弁するものと思われ、以前の批判を撤回する必要を感じています。

 それにしても高橋さんのこの態度の変化はどういうことなんでしょう。政府の審議会などというものは結論が予めほぼ決まっていて、その結論を導くための「言い訳」として委員を集めるものだ、などと揶揄されるように、審議会の行方を左右しかねないほどの高橋さんの厳しい論調を総務省が予想していたとは考えにくいのです。高橋さんの経歴をネットで検索してみても、録画や録音、放送、ネット関係の仕事をしていた記録はないし、画像音響機器やデジタル機器のヘビーユーザーでもなさそうです。録画規制に大きな利害がない人ですから、総務省や権利者にとっては、「あるべき結論」に大きく背かない、「使いやすい」消費者代表として採用されたのではないでしょうか。

 あくまでも推測ですが、高橋さんが消費者としての感覚を多くの国民と共有しているのであれば、この審議会のあり方そのものが許容できなくなった可能性は十分にあります。権利者団体の度重なる理解不能な主張を押し付けられて、さすがにこれはおかしい、と感じられたのではないでしょうか。元々、金融商品のアドバイザーとして活躍しておられた人なので、消費者が負担するコストについては厳しい目をお持ちなのでしょう。客観性に乏しい「コピーによる被害」や「リスペクト」などという曖昧な権利者団体の言い分を拒絶されたことは想像に難くありません。

 本当の背景がどうだったのかはわかりませんが、私はこれで初めて同審議会に消費者代表を得た思いがします。今まで、実質的な消費者代表(つまり録画、コピー規制に大きな利害を持つユーザー層)が委員にいないのをいいことに、権利者団体が「権利者こそ消費者の代弁者だからメーカーは譲歩を」という荒唐無稽なレトリックを弄していたのですが、この詭弁が通用しなくなるからです。だいたい、ネットで少し検索してみれば、多くの消費者が権利者団体をどう思っているかは明らかだし、MIAUというれっきとしたユーザー団体もできたので、総務省さえその気なら消費者の意見はすぐにわかるんですけどね。

 ともかく、メーカー団体が「補償金は無制限コピーによる損害を補償するもの」と真っ当な主張をしているのに対して、権利者団体が「補償金は家庭内コピーによる損害を補償するもの」としているのは論理破綻もいいところです。家庭内のコピーは私的利用の範囲内として昔から認められてきたものであり、LPレコード時代からずっと一般に容認されてきたものだからです。

 LPレコードをカセットテープ(もちろん当時はアナログ)にコピーして、ウォークマンで聴くのは誰でもやっていたこと。消費者はその利便性も含めてLPレコードの代金(もしくはレンタル料)を支払っていたので、損害などどこにもありません。LPがDVDやブルーレイやインターネットになり、ウォークマンがiPodや携帯になっただけのことで、本質的に何か違いがあるでしょうか?

 もし私的コピーが制限されればコンテンツが余分に売れる、と目論むのは独善もいいところで、今時レコード会社が株主総会で「コピーコントロールの徹底で売り上げ倍増を図り…」などとやれば株主席から生卵が飛んでくるでしょう。私的コピーの制限が売り上げ増に繋がらないばかりか、ユーザーの反発を招くのはCCCDで証明済みです。

 デジタル時代になって問題があるとすれば、無劣化コピーがいくらでも製造できてしまうことですが、そんなこと普通のユーザーはやりません。常識のある消費者なら私的利用を大きく越えたコピーがクリエイターを困窮させることはわかっています。だから本だって大っぴらにコピーする人はいないでしょう。たまにコミックを取り込んでネットに上げている人がいますけど、それは明らかな犯罪者ですから、個別に処罰すればいいだけのことです。

 そもそも、スキルのある犯罪者にとって、DRMなどほとんど役に立たないことはわかっているし、地上デジタル放送については「DRM無視チューナー(フリーオ)」が合法的に販売されているのですから、犯罪者にとってはコピーワンスだろうがダビング10だろうがコピーフリーだろうが変わりません。むしろ、スキルのない一般消費者が不便な状況でこそ違法コピーが儲けになると想像しますが、違いますか?少なくともメーカー団体が希望しているEPNまで緩和すれば、フリーオは潰れると思います。

 無料の地上放送に対する暗号化とコピーガードは、悪名高い禁酒法を連想するほどメリットのない制度(業界の自主規制だが実質は法律に近い)です。多くの消費者がその必要性とコストを理解できないまま、ごく一部の利害だけで消費者に負担を強要するものですから、あちこちに抜け道ができて制度が空洞化し、その裏で制度から抜けた者やアウトローだけが得をする、という救いようのない仕組みができています。文化庁や権利者が騒げば騒ぐほどフリーオが売れるし、ネットで違法コピーを買う人も増えるし、中国の画像サーバーに手を伸ばす人も出てくるという始末で、もはやダビング10などではどうしようもないことが理解できます。

 このままでは膠着状態が続くだけで誰も得をしないので、何かきっかけを掴んでリセットするべきです。例えば消費者庁の旗揚げとしてこの問題に切り込んで見せればいいアピールになるのではないでしょうか。漏れ聞く情報では食品表示などが消費者庁の主な業務になるようですが、そんな保健所でできるようなことを省庁がやらなくても、もっと消費者主体の行政が期待される分野はいくつもあります。著作権行政を文化庁から移管して、文化庁はまた元の神社仏閣の保存業務に邁進して頂けばいいと思います。
コメント (3)
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