いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

本当に「ちゃぶ台返し」が必要なのかも

2008年06月10日 | たまには意見表明
 機器メーカーと著作権利者の綱引きに総務省、文化庁、経産省の利害(なぜか視聴者と小売業者の名前は出て来ない)が絡んで、どうにも動きの取れなくなったダビング10問題について、また小寺さんのわかりやすいコメントが出ています。今となっては、地上波は何もしないでアナログのまま放送を続けていた方が誰にとっても得だったということです。

 こうして分析してみるとわかるのが、今更ながら「ダビング10などいらない」「地上デジタルなどいらない」ということです。業界団体と監督官庁の思惑だけで、採算も合理性も無視して突っ走った結果が今の混乱の元凶なのであって、中村伊知哉教授が「もはや官の問題」とか、権利者団体を代弁する岸博幸氏が「経産省は何をしているのか」と反応しているのは、またも利用者軽視のボタンの掛け違えを繰り返すだけに思われます。今度こそ利用者(つまり納税者)の意見を入れないでどうするんでしょう?

 茶の間のブラウン管テレビを大事に使っている高齢者や、ベッドサイドで小型のテレビを見ている人、パソコンの画面に小さくテレビを出している人、入院先の病院でテレビを借りている患者さんなどにとっては、大画面でしかわからない画質向上なんてどうでもいいことです。かと言って、大画面の薄型テレビやレコーダーを買った人には強力なコピーガード(DRM)が使い勝手を悪くしており、どの層の利用者にもたいしてメリットのないシステムに膨大な国費が投入され、それが市場経済の流れをせき止める人たちの「利権」を生み出している不透明さにはうんざりします。

 省庁間の利害の調整なんて簡単にできるはずはないので、増田総務大臣が言っているような「北京オリンピック前の決着」はかなり難しいでしょう。そもそも、オリンピック直前にダビング10に移行したところで、多くの利用者や販売店は対応できません。少なくとも機器メーカーはそう思っているから、この「北京需要」を見送ってでも権利者や文化庁と対決する姿勢を明らかにしたのだと思います。

 利用者としては、唯一の代弁者として機能している機器メーカー団体を支持する以外に選択肢がありません。「泣く子と地頭には勝てない」式の安易な決着で手を打ってしまえば、いずれは権利団体の政治力が突出して強くなり、ドイツのように「モバイル機器1GBにつき1ユーロ」などという高額の補償金が現実のものになります。

 それでなくても国民の財産である電波は放送局に二束三文で独占され、空いたバンドで携帯電話を「使わせて頂く」のに別途高額費用を支払わないといけないなど、利用者は馬鹿にされ切っています。「アナログでコピーができるのなら、デジタルでもコピーを。アナログで編集できるのなら、デジタルでも編集を。」コピーや編集が大幅に緩和されるなら補償金も必要と思いますが、それでも金額の算定に実証的な根拠を示すべきです

 権利者団体はメーカー団体の補償金への不同意を「ちゃぶ台返し」と称していますが、本当にちゃぶ台をひっくり返してリセットしないといけないのは瑣末な出城であるダビング10ではなく、本丸である地上デジタルです。現状の普及速度では2011年のアナログ放送停止に間に合うはずがなく、ずるずるとアナログ放送を延長するしか手の打ちようがなくなってきています。それでなくても収益の悪化しているテレビ局にデジタル・アナログの同時放送は大変な負担になるはずであり、本気で普及させるならダビング10のような弥縫策(びほうさく)ではなく、根本的に戦略を改める必要があります。
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