いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

医療PFIはうまくいかないのか(前)

2008年01月23日 | 医療、健康
PFI (Private Finance Initiative)という公共サービスの新しい運営手法が導入され始めたようですが、「PFIによる運営」を謳った高知医療センターの医療部門が予想外の赤字を出すなど、かなり問題があるようです。私もほとんど知らない用語だったのですが、PFI関連のニュースが多くなってきたのを機会に少し勉強してみることにしました。

 内閣府の説明は専門家用なのか、一般国民には問題点が見えないようにわざとわかりにくく書いてあるのか、要点が掴めません。盛岡市のサイト「ウェブもりおか」に図入りの解説がありましたので、ここから入門することにします。

 まず、PIFは1992年にイギリスで公共サービス部門に民間資金を導入するために整備された仕組みだということです。従って事例はイギリスに多くあり、自治体国際化協会(CLAIR)のごく簡単なレポートを見ることができます。

 この自治体国際化協会は自治省の外郭団体だそうですが、こんなの誰も知らないでしょう。レポートの貧弱さを見ても、税金でイギリスまで行って何をやってるんだ、と疑問に思うのは私だけでしょうか?この程度なら、マーケティングの会社や大学の研究室に小額の予算を配分してくれれば、喜んでエコノミークラスで飛んで行って調べてきますよ。どうせ「外郭団体は政府機関にあらず」ですから収支も職員待遇も非公開なんですよね?

 だいたいPIFに対する評価なら、当のイギリス人が発表してくれています。民間資金を導入する仕組みにもいろいろあると思いますが、PFIでは民間企業が施設を建設することで、より安い費用で建設することができ、後から公金で借りるか買い取るかしても全体としては効率的になりうるわけですね。このため、PFIの導入により公共設備の整備が促進されたと評価されているようです。その後の施設運営も民間企業が請け負う場合があり、これもコスト低減に寄与する可能性があります。「施設が安っぽいことは問題」との批判もあるようですが、これは当然。公共工事より安く作らなければ儲けが出ませんから。

 民間企業は建設コストを低減するために、無駄を徹底して省きます。私の住む名古屋とその近郊で見れば、最近の店舗建築は高層建築を除いてほとんどが簡便な鉄骨造り。栄のラシック、星ヶ丘の星ヶ丘テラスアクアウォーク大垣など、かなり大規模な店舗まで鉄骨造りだと思われます。私は建築の専門家じゃありませんが、この3つは建築中の様子を見ていますから、間違いないでしょう。

 今まで大規模建築で主流だった鉄筋コンクリート(RC工法)とどこが違うかと言えば、コストが圧倒的に安いこと。1階毎に型枠を組んで、コンクリートを流し込み、固めて、型枠を外し、コンクリートの状態を検査して、はつって、また次の階の型枠を組んで…という手間の掛かるのがRCです。鉄骨造りなら鉄骨を組んでしまったら、後は工場で作っておいたパネルを組み付けるだけ。現場の作業より工場で済ませられる作業の割合が高いので、工期が圧倒的に短くなります。用地を確保したら1日でも早く出店したい企業にとって、これは有り難いことです。

 また、コンクリートの塊であるRCよりも、鉄骨だけの方がずっと軽いので、建築で一番手間と予算の掛かる基礎工事を大幅に簡略化できます。ラシックや星ヶ丘テラスも、工事が始まったと思ったらいつの間にか立派なビルになっていました。それぞれ古いRC建築である名古屋三越栄店、星ヶ丘店と隣接していますが、「ラシックの建物は鉄骨だから嫌だ」という人もいないでしょう。商用ビルでは鉄骨のデメリットはまずありません。軽いので振動しやすく、マンションやホテルには向かない、というのが私の知る唯一の欠点です。でも、戸建の鉄骨住宅や鉄骨のアパートがあるのですから技術的には解決可能だと思いますよ。

 まだあります。RCと違って骨組みと内装、外装が分かれているため、改装がとても楽なのです。RCの壁を移動させるには既存の壁を重機で壊さないといけませんが、鉄骨ならその部分のパネルを外して他に移すだけ。もちろん、構造部材である鉄骨の移動には制約がありますが、それでも総じて「鉄骨ビルの改装は容易」と言っていいと思います。不要になった際の解体もRCよりずっと楽ですし、鉄骨はコンクリートの破片と違ってリサイクル率100%の優等生です。店舗建築が鉄骨ばかりになっているのは当然ではないですか。

 ところが、公共建築はまだまだRCが多いのですね。その例がこれ。母校に恨みがあるわけじゃありませんが、工事の過程はずっと見ていましたから、よく知っているんです。この辺は近くに吹上(水が吹き上げるという意味の地名)のビール工場があったことからもわかるように、地盤が軟弱で地下水位が高いのです。少し掘れば地下水がざーざー出るような所で、巨大なRCビルを建てたものですからもう大変。地下鉄を作るのかと思ったほど深く広く掘り下げて、何年も掛けて重量に耐える基礎工事がなされました。工事の難度と工期の長さから考えて、同規模の商用ビルの数倍は予算が掛かっているでしょうね。それに先立って古い病棟を壊した際にも、鉄筋コンクリートを破砕する音と振動がまともに伝わって、顕微鏡が使えないほどでした。鉄骨から鉄骨への建て替えなら、ずっとスマートだったはずです。

 もう1つ、白鳥の名古屋国際会議場。どうも役所の偉い人は、自分の在任中の「記念碑」としてこの手の箱物を作りたがるようで、汎用性のない凝りに凝った設計はコストを不当に押し上げていることは間違いありません。こんなの、アピタの店舗みたいな簡単な構造でいいんですよ。そうすれば移転も建て替えも簡単ですから。医学関係の大きな学会でここを利用することがしばしばあったのですが、年々展示規模が拡大するため、もう手狭だと言われているのです。でも、ロンドン橋みたいなタワーと言い、中庭の騎兵のモニュメントと言い、「需要に応じたスクラップ&ビルド」の思想はお役人にはないみたいです。こんな悪例を見ると、PFIによる民間企業活用は素晴らしいものに思われるんですが…。

 PFIの概念はだいたいわかりました。まず民間企業が主体となって資金を出す、つまり支出をコントロールすることで、事業の財務内容を改善できるわけです。では、高知医療センターや近江八幡市立総合医療センターではなぜこの仕組みが機能しないのでしょう?民間企業の運営する充実した情報サイトである「PFIインフォメーション」によれば、全国でPFI事業が次々に進行していることがわかります。これはPFIのメリットが浸透した結果ではないのでしょうか?
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