アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

心地よい眺め

2009-02-16 12:44:26 | 
『心地よい眺め』 ルース・レンデル   ☆☆☆

 ルース・レンデルという有名な作家の小説を初めて読んだ。なんとなくジェット・コースター型のサイコ・サスペンスものを想像していたら、だいぶ違っていた。なんというか、ブラックで淡々とした人間ドラマである。一種のビルドゥングス・ロマンであり、ボーイ・ミーツ・ガールものでもある。殺人を扱っているという意味ではミステリでもあるが、事件の捜査とか真相はむしろつけたしの印象がある。結構ジャンルの枠に収まりにくい小説だ。

 主人公はテディという青年とフランシーンという少女で、この二人が出会い、そしてつかの間愛し合うのがメインのプロットになっている。小説は二人の生い立ちから、というかテディの場合両親の結婚からスタートするので、二人が出会うのは小説が半分ぐらい進んでからである。ジェット・コースター型ではない、悠然とした物語展開だ。

 フランシーンは幼い頃母親が殺され、その現場に居合わせたせいでしばらく口がきけなくなる。彼女のケアをした診療士ジュリアと父親が再婚するが、このジュリアが異常な女性で、彼女のためと称してフランシーンを徹底的な監視下におく。その異常性はフランシーンが成長するとともにエスカレートしていき、やがて狂気の域にまで達する。彼女がテディと出会うのはこの頃である。

 一方テディは優しさや家族愛が皆無の荒廃した一家に生まれ、愛情というものをまったく知らないで育つ。美しい工芸品を愛するハンサムな青年になるが、人の心というものがまったく分からず、人間を醜いとしか思っていない。母が死に、父が死んだあとで邪魔になった叔父を殺し、死体は車のトランクに隠す(死体はそのまま何ヶ月もトランクの中に放置される)。やがてテディはフランシーンと出会い、生まれて初めて人間を美しいと思う。ただし、彼のフランシーンへの愛はモノに対するもののように歪んだものだった。

 殺人というショッキングな事件を折り込みながらも、物語は二人の成長の過程を淡々と追っていくが、とにかく異常な人間のオンパレードだ。フランシーンの場合本人と父親はまあまともだがジュリアやその友達が異常だし、テディの方は本人含め一家全員異常である。荒廃しきっていて、読んでいて唖然とする、または「おいおい」と思うシーン続出だ。ただテディは異常性格ながらも工芸品や美しいものへの愛情を持ち、卑劣というよりクールな性格なので、他の脇役達が異常であることもあって、決してひたすら嫌悪すべきキャラクターでもない。読者は愛憎半ばする気持ちで彼の常軌を逸した行動を見守ることになる。

 そしてこの二人の出会いが幸福な展開になるわけもなく、ブラックな結末を迎えるわけだが、ストーリーは最後まで淡々としていて、特に劇的な盛り上がりを見せることもない。なんというか、ひんやりした悪意と辛辣さが終始漂っている小説だ。サスペンスものとしてはかなり洗練されていると思うし、登場人物の心理描写も巧みだと思うが、私は正直言ってこの物語に結局それほど興味が持てなかった。
 


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