アブソリュート・エゴ・レビュー

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バーバレラ

2015-04-18 09:23:41 | 映画
『バーバレラ』 ロジェ・ヴァディム監督   ☆☆☆★

 再見。DVDジャケットを見るといかにもチープなB級SF映画だが、私がこれを観たのは澁澤龍彦が『スクリーンの夢魔』の中でとりあげていたからで、彼はこのSF映画を「怪奇と幻想とエロティシズムとをたくみに織りまぜた、まさにエンターテインメントと称するにふさわしい、大人のための楽しい、SF御伽噺」とかなり好意的に書いている。

 最初に断っておくが、これをマジメなSF映画だと思って観てはいけない。マジメとはつまり、観客が映画の世界に引き込まれてその世界をリアルだと感じ、登場人物に感情移入し、その結果ワクワクしたりハラハラしたりするみたいなことで、この映画にそういうことを期待していはいけないのである。もしそういう態度で鑑賞するならば、激しい幻滅を覚えること必至である。「なんじゃこの学芸会みたいな稚拙な映画は?」となってしまうかも知れない。そうじゃなくて、これは徹頭徹尾洒落なのである。しかもナンセンスな洒落だ。これからこの映画を観てみようという人はそれを念頭において欲しい。

 映画が始まるといきなりチープな宇宙船の映像。昔のSF映画独特のチープ感爆発だ。場面は宇宙船の中に変わり、不恰好な、まるで潜水服のようなゴワゴワした宇宙服を着た人間が宙に浮いている。ここからタイトルバックだが、この映画の魅力はほぼ全部このタイトルバックに凝縮されている。ここが最高の見どころだと言っても過言ではない。不恰好な宇宙服の手袋を脱ぐと、はっとするほどに美しい女性の手が現れる。そこに、SF映画らしくない、まるでピチカート・ファイヴみたいなお洒落な音楽がかぶさってくる。実にチャーミング、匂い立つようなフランス映画のエレガンス。女性が宇宙服をどんどん脱いでいくとそのたびにマンガみたいな文字がこぼれ、それがクレジットの表示になる。実に洒落ている。で、しまいに彼女はすっぽんぽんのオールヌードになる。もし家族で鑑賞していたら、この時点でもうアウトである。

 それにしても素晴らしいオープニングだ。このオープニングのセンスにしびれるかどうかが、この映画の魅力を感得できるかどうかの鍵だろう。

 さて、もちろんこの女性が本篇のヒロイン、バーバレラなのだが、バーバレラを演じるジェーン・フォンダが実に可愛い。私はジェーン・フォンダというと『ジュリア』あたりののイメージが強く、ピーター・フォンダに良く似た顔立ちもあって可愛いとかきれいとかいう印象はなかったのだが、この『バーバレラ』のジェーン・フォンダは可愛い。とてもキュートだ。それからバーバレラの宇宙船のインテリアがまたすごくて、スーラの絵「グランド・ジャット島の日曜日の午後」が飾られ、壁も床も全部毛皮で覆われている。そして全裸のバーバレラが大統領からかかってきたテレビ電話に出て「すみません、何か着てきます」と言うと大統領が「いや、そのままでいい」などと答える。これはまあ、そんな映画である。

 その後バーバレラは消息を絶った科学者デュラン・デュランを探してある惑星へと赴き、そこで子供たちにつかまったり山男に救出されたりレジスタンス運動に巻き込まれたりするが、まあストーリーは洒落なので深く考える必要はない。特撮もチープなのでどうってことないが、見どころはロジェ・ヴァディム監督らしいシュールレアリスティックな怪奇趣味で、たとえばバーバレラを捕らえた子供たちが鋭い牙のついたたくさんの自動人形を彼女にけしかけたり、小鳥の刑に処せられたバーバレラがたくさんのカナリアに襲われたり、大きな翼をもった盲目の美青年天使が現れたりする。バーバレラを拷問するため、科学者が彼女をオルガンみたいな絶頂マシンに閉じ込めたりもする。科学者がオルガンで音を鳴らすたびに彼女は身もだえするという、エロティックな機械である。それにしても、バーバレラは誰かに捕まるたびに何かしらヘンな方法で拷問されている。

 それからもちろん、ジェーン・フォンダのコスプレもまた主要な見どころであることは言うまでもない。物語の中で彼女は露出度が高い衣装をとっかえひっかえするのだけれども、何か事件があるたびにその衣装はビリビリに破け、また着替えるということの繰り返しになっている。艶笑SFなのでHシーンもあるが、ポルノまがいの本格的なエロ場面はないのでそういう期待はしないように。コトが始まりそうになったら終わった時点に時間が跳ぶことになっている。ちなみに、コトが終わったあと、ベッドの中の裸のバーバレラがいつもうっとりしながら、満足そうに歌を歌っているのがおかしい。

 まあそんなわけで、この映画はストーリーは二の次の、フェチズムを大爆発させて洒落で固めた映画だと思って観て欲しい。そう思って観さえすれば、ロジェ・ヴァディム監督の幻想的な怪奇趣味、エロス、ナンセンスでキッチュな遊び、そしてジェーン・フォンダお姉さまをたっぷり堪能できます。



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