アブソリュート・エゴ・レビュー

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犯罪小説家

2018-11-30 21:28:49 | 
『犯罪小説家』 雫井脩介   ☆☆☆

 『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』が予想以上に面白かったので、続いて雫井脩介の『犯罪小説家』を入手。これはまたかなり雰囲気が異なる小説である。主人公はあるミステリの賞を獲った作家、待居(まちい)。作品が映画化されることになり、エキセントリックな脚本家兼映画監督、小野川に紹介される。小野川はなぜか閉鎖された自殺サイト「落花の会」と自殺した主催者、木ノ瀬蓮美のイメージを映画に取り込むことにこだわり、女性ライターの今泉を使って「落花の会」と木ノ瀬蓮美を調べさせる。原作者の待居はそれが気に入らず反対するが、傍若無人な小野川は気にせず調査を進め、待居を強引にその調査に巻き込んでいく…。

 前半は、この作者にしてはかなりスロースタートである。待居と小野川の考えが合わず揉めつつ、「落花の会」についてだんだん調べが進んでいくだけだ。木ノ瀬蓮美の自殺の状況などにミステリーはあるものの、特に不気味な何かが起きるでもなく、強烈なスリルとサスペンスが醸成されるでもなく、淡々と進んでいく。そのうちに主人公が待居からライター・今泉に交代した印象となり、ますます物語の目指す方向が分からなくなる。一体どうなるんだろうこれ、と思いながら読み進めた。

 するとちょうど真ん中あたりで待居に関するある疑惑が浮上し、そこからだんだんサスペンスものらしくなってくる。もうちょっと進むと、今度は小野川に関する疑惑が持ち上がる。要するに二つの解釈があるのだが、果たしてどっちが真相なのか。同時に、調べを進める今泉の身に危険が迫り始める。

 なるほど、そういう趣向だったか。要するに待居と小野川という二人の主要登場人物のうち、どちらかが怪しいわけだ。さて、どっちだろうか? というミステリである。クライマックスは待居と小野川の直接対決となるが、もう一ひねりあるんじゃないかと思わせたわりに意外とストレートな真相だった。それに、最後の二人のセリフの応酬はいささかマンガちっくで、私は少々白けてしまった。B級スリラー映画の対決場面みたいだ。しかし解説によると、これは話を盛り上げるための雫井脩介の意図的な戦略だという。本当だろうか。

 その後エピローグがつき、結末となるが、この結末はなかなか奇抜である。といっても必ずしもいい意味ではなく、なんだかとってつけたようだ。これが作家の「業」ですというオチなんだろうが、かなり力づくだという気がする。

 全体としては、スロースタートでじわじわ来て、二人のうちどっちが正体を隠しているかというミステリーになり、最後は意外なオチでうっちゃりを食わせて締める。まあまあスリルはあるが、すごいトリックや仕掛けがあるわけでもなく、大して怖いわけでもない。どちらかという渋めのエンタメである。「奇妙な味」系のミステリを長編に引き伸ばした感じだ。

 図々しくてうざい小野川のキャラがなかなか面白い。『火の粉』に出てきた武内もそうだが、雫井脩介はこういうヘンな奴を描くのがうまい。

 それから、最初に待居の小説『凍て鶴』のあらすじが紹介され、次に小野川の映画化バージョンのあらすじが紹介されるが、あまりの違いに顎が外れそうになる。地味なエロティック・サスペンスものの小説が、荒唐無稽なタイムスリップもののSF映画になっとる。実際に原作小説が映画化される時も、こんなにぶっとんだ脚色がなされることってあるのだろうか。これじゃ原作者は驚くだろう。

 まあそれにしても、賞を獲ったというこの『凍て鶴』、あらすじだけ読むと一体どこがいいのかよく分からない小説だ。



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