アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

二重葉脈

2014-05-30 21:52:50 | 
『二重葉脈』 松本清張   ☆☆☆★

 また松本清張が読みたくなって買った。聞いたことないタイトルだったが、倒産企業の説明会から始まる冒頭の場面が面白そうだったのでチョイスしたのである。しかし、この人は一体何冊本を書いているんだろう。

 やはり冒頭から面白い。企業が倒産して債権者への説明会が開かれるが、社長は雲隠れしていて、かつ会社の金を着服していた疑いがある。つまり、私腹を肥やしてわざと会社を倒産させたというわけだ。下請け業者連中は地獄で、手形は紙切れになり、借金して無理して入れた機械は全部無駄になってしまう。説明会では下請け業者連中が社長の悪質さを連綿と糾弾する場面が続き、最後に、ある業者の妻が自殺したと判明するところでピークとなる。当然、全員が「社長を殺してやりたい」と憤りをぶちまける。

 そして場面が変わり、旅館に隠れている社長の登場。この社長がまったくとんでもないキャラで、あれだけ他人から恨まれ自殺者まで出していながらシャアシャアとして、退屈のあまり女のところにしけ込んだりしている。とんでもない奴だ。が、下請け業者たちは血眼になって社長を探しているわけだし、警察も動き始めるし、読者は先の展開が楽しみでワクワクする。やはり松本清張は素晴らしく達者なストーリーテラーだ。

 しばらくは、社長や腹心の部下たちが行ったり来たりする動きが丁寧に描かれる。その動きはどうも不審で、この社長何かやってるなということは読者にも分かるが、それが何かは分からない。この状態が結構長く続く。元役員が行方不明になって警察が動き始め、社長の言動がなにやらくさいことは分かるが、これと言って犯罪の臭いはしないのであんまり追求できない。そしてようやく殺人事件発覚となるが、事件が起きるまでがかなり長い。

 殺人はかなり地理的に離れた場所で起きるので、これは「点と線」みたいなアリバイ崩しになるのだろうかと思っていると、意外とトリッキーな、不可能犯罪的な展開になる。最近まで生きていたはずの男が車の中から古い死体になって出てきて、警察がびっくり仰天するところなどかなり面白かった。ただ、私は後半に警察とあの社長のガチンコ対決を期待していたので、そこはあてが外れた。あの曲者社長を警察がガンガン追及する場面があればかなり盛り上がったと思うので、そこは残念だ。が、それから犯人は大体分かっているようなつもりで読み進めると、色々とどんでん返しが準備されている。

 というわけで、結構サービス精神豊かな、フーダニット系のミステリである。まあちょっとした「意外な犯人」でもある。もちろん、刑事の推理や捜査方法はいかにも社会派ミステリで、着実でリアル、経験の裏打ちと慎重な検証で物事を判断していく。社会派と本格ものを融合させたような、なかなか特色ある作品でありました。




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