アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ガール・オン・ザ・トレイン

2016-01-13 21:51:05 | 
『ガール・オン・ザ・トレイン(上・下)』 ポーラ・ホーキンズ   ☆☆★

 「次の『ゴーン・ガール』」「NYタイムズ21週ベストセラー1位」の宣伝文句に惹かれて買った。『ゴーン・ガール』好きの私としては見過ごせない。しかし結果は、残念ながら期待外れだった。駄作とは言わないが、『ゴーン・ガール』には遠く及ばない。

 小説は三人の女性の視点で進む。主人公のレイチェルは通勤電車の窓から不倫現場を目撃し、その後、不倫当事者のアナが失踪する。レイチェルは夫に同情し、アナが不倫していたことを彼に伝えようとする。一方、レイチェルの元夫を奪った女メーガンはアル中であるレイチェルの影に怯え、彼女が近所に出没するのを見て、夫になんとかするように依頼する。三人目の語り手は失踪するアナだが、彼女の手記のみレイチェル/ミーガンより一年前の時間軸で進行する。つまり、失踪する前の物語と失踪後の物語が並行するストーリーラインになっている。

 プロットだけ見れば確かに『ゴーン・ガール』に似た部分がある。妻が失踪して夫に嫌疑がかかるのがそうだし、良き夫だと思っていたら何だか怪しくなってくるところ、また妻の方も良き妻だと思っていたら実はビッチだったというところなど、かなり重なる部分がある。

 ただし似ているのはそこまでで、本書には『ゴーン・ガール』ほど鮮やかなプロット上の仕掛けはなく、見せかけと真実を巧妙に手玉にとるような目新しい趣向もない。電車の窓から見ていた幸福そうなカップルが実は、という程度で、あとは普通のサイコ・スリラーである。どろどろの不幸(夫に不倫され、離婚され、アル中になり、失業する)の中でもがくヒロイン・レイチェルの周囲で失踪事件が起き、自ら進んで巻き込まれ、関係者と交渉を持つうちにそこそこ意外な展開になり、やがて危険が迫ってくる。フォーマット的にはごく普通だし、本の帯に書かれている「意外すぎる結末」は言い過ぎである。

 それからもう一つ読んでいて辛いのは、主人公のレイチェルがあまりにもダメダメで感情移入しづらい点である。アル中で、友人や身の回りの人間にすぐ嘘をつき、自分が記憶を失くすことを知っていながら繰り返し酒を飲み、そのたびに実際ひどいことが起きる。色んなことに考えが甘い。読んでいて愛想が尽きそうになる。そのダメっぷりがテーマやストーリーの上で重要ということもなさそうだ。

 更に言えば、レイチェル以外の語り手であるアナもミーガンも、また男二人も、ひどい人間ばかりでろくな奴がいない。正直うんざりしてしまって、読んでいる間も読後もかなり鬱な気分だった。これもマイナスポイント。リーダビリティという点ではまあまあだったが、人に薦めたいとは思わない。


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