アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

獄門島(映画)

2011-05-30 18:08:27 | 映画
『獄門島』 市川崑監督   ☆☆☆

 昔はやった金田一耕助シリーズを、私はひとつも観たことがない。チープな猟奇性を売り物にしているような印象があって興味がなかったからだが、実は傑作という評判もチラホラ聞こえてくる。ということで『獄門島』のDVDを入手した。シリーズ三作目である。本当は最高傑作という噂の二作目『悪魔の手毬唄』を観たかったのだが、入手できなかったのである。

 『獄門島』は前にレビューを書いたが原作も読んだことがある。が、映画では犯人を変えてあるらしい。あのストーリーでどうやったら犯人を変えられるのかといぶかしみつつ観た。かなりややこしいプロットなので、犯人を変えるなんて無理じゃないかと思ったのである。それからDVD特典にある予告を観ると、監督の市川崑が「犯人は女です」と言っている。ミステリのくせにそこまでネタバレしていいのか、とも思ったけれども、まあ、この映画は別に犯人探しだけの映画ではないということだろう。それも愉しみの一つではあるけれども、他にも見所がありますよという自信の表れなのだ。この姿勢には共感できる。

 さて、実際観てみると、思ったほどおどろおどろしい映画ではなかった。どっちかというと哀愁の方が勝っていて、叙情的だ。死体の描写も今時のホラーなどと比べると全然おとなしい。それから瀬戸内海の風景、古いお屋敷、色とりどりの着物、といった和風ビジュアルが全篇に溢れ、観ていて愉しい。売り物の豪華キャストもさすがの大盤振る舞いで、石坂浩二をはじめ佐分利信、松村達雄、大滝秀治、東野英治郎と大御所が揃い、注目の女優陣は大原麗子、司葉子、太地喜和子、坂口良子、浅野ゆう子、草笛光子という壮観さ。ついでにピーターも出とる。

 という具合に見た目は大変賑やかで豪華だが、肝心の物語の方はあまり感心しなかった。ミステリの宿命なのかも知れないが、もともとややこしい話であるところへもってきて不自然に犯人を差し替えたりしたものだからますますややこしくなり、なんとか辻褄合わせをしようとしてやたら説明的な作劇になってしまった。誰かが出てきて長々と背景の説明をする、という場面が多い。何もかもとってつけたようで、ごちゃごちゃしている。

 おまけにごちゃごちゃしているにも関わらず、ミステリ的興味は原作よりはるかに薄くなっている。たとえば釣鐘を使った第二の殺人にしても、梃子の原理で持ち上げたという派手なトリックにだけ注力し、着物が雨に濡れていない云々という細かい、しかしミステリ的にはこっちの方が面白いディテールは省略されている。

 監督の意向としてはパズラーより人間ドラマにしたかったのだろうが、プロットが錯綜し、トリッキーかつ説明的になってしまったせいで人間ドラマとしても弱い。最後になって突然クローズアップされるあの人の過去の話もとってつけたみたいだ。

 さらに殺人場面の逆さづりとか首が飛んだりという趣向がB級っぽい。このB級っぽさと、派手な見た目に重点を置いたごちゃごちゃしたプロットによって、アーティスティックというよりこけおどしで勝負しようとする見世物小屋的雰囲気が映画全体に充満する結果になってしまった。まあこれは高品質のミステリ、あるいは人間ドラマというよりも、アミューズメント・パーク的娯楽を目指した映画なのだろうな。そういう意味では、まあまあの水準作だと思う。

 とりあえず、次から次へ登場するあでやかな女優陣は愉しめた。大原麗子姫はぐうの音も出ないほどうるわしい。金田一耕助に「この島から連れ出してほしい」と言ったり、気を失いそうになって抱き止められるなんてシーンもあったがあれも良く分からない。思いつきでとってつけたような場面だったなあ。坂口良子はメチャかわいい。床屋の娘である。彼女だけはこの陰気な因縁話に関わりがなく、終始朗らかで、救いになっている。大地喜和子はパワフル。そして浅野ゆう子のバカ娘はバカだった。トレンディ・ドラマ全盛期にW浅野で世を風靡した、あの都会的かっこ良さは微塵もない。

 大御所俳優陣は重厚感を出すのに貢献している。個人的に嬉しかったのは、出番は少ないものの大滝秀治の登場だ。さすがの貫禄、さすがの演技である。この人が出てくると画面がびしっとしまる。メイン・キャラクターの一人である佐分利信は例によって重厚すぎるほどに重厚だが、やっぱりこの人は坊さんなんかより政治家の方が似合うなあ。

 そういうわけで、そこそこは面白かったが期待を下回る結果となった。『悪魔の手毬唄』はどうなんだろうか。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿