カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

王者的。

2020-05-29 15:34:38 | Weblog
短歌アンソロジーと短歌入門書でオススメを挙げるとすれば、やはり、講談社学術文庫のこの二冊になるのかなという気がする。入門書はじつはこれの他にもオススメがある。しかしアンソロジーときては『現代の短歌』にまさるものはなかなかないかも知れない。時代的な傷はないわけではないが、やはり今でも絶対的な短歌アンソロジー王者と思う。
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幽霊。

2020-05-29 07:58:12 | Weblog

中学の頃から北杜夫氏の小説『幽霊』が好きだった。それはそもそも、その魅力的な語り口の冒頭の一節にことのほか惹かれて好きになったのは明らかだが、どういうわけか、そのなかの、学校の図書館の書庫での独逸語教授と主人公との会話やりとりの一節が妙に印象深く記憶の中にあるのが自分でも不思議だ。

「ヨゼフはありませんね。誰か借り出していってるのでしょう」と教授がいった。

(そして、教授は去る。書庫にひとり残った主人公はあらためて、その二、三カ月前にたまたまなにかの拍子に出席した独逸語研究会のプリントにあった文章冒頭の一行を思い浮かべるのだ。)

過去という泉は深い……

それは、あのリューベックの作家が十六年間にわたって紡ぎあげた巨大な叙事詩、ビラミッドにも似た作品の序曲、『地獄めぐり』の最初の一行であった。(後略)

此処で出てくる「リューベックの作家」といい、「ヨゼフ」といい、いったい誰のなんという作品のことを話題にしているのか、多分最初に『幽霊』を読んだ中学生の私にはわからなかったにちがいない。当時は北さんの文体の醸す雰囲気だけを味わって読んでいたからそれでよかった。後になってようやく、リューベックの作家が文豪トーマス・マンのことで、ヨゼフが『ヨセフとその兄弟』のことと理解するようになった。読書の進化(深化)とはそんなものかもしれない。

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