駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

壁が動いた

2014年05月09日 | 世の中

              

 医師に成り立ての四十年前は八十歳が明らかな壁でこれを越えられる人は限られた特別健康な人だった。元気そうな人も七十五の声を聞くと少しずつ衰えていかれ八十を目前に終末を迎えられることが多かった。それが今では八十の壁が九十になった感じがする。四十年で平均寿命が十年延びており、それを実感している。

 平均寿命だけでなく、健康寿命も十年延びていると感じる。四十年で十年延びた寿命をそのまま常識として身につけている世代と、その都度計算しないと理解できない世代では社会の仕組みに対する感覚が違ってしまう。組織の前線で大車輪で働く三十代と組織の中枢で決定を下す六十代では色々感覚が異なると思われるが、その中で寿命に対する感覚も留意すべきものの一つと思う。

 私も人生七十年の感覚で居たので、還暦になった時、あと五年くらいと思っていたが、今は老化は感ずるけれども七十までは働けるかなと心境が変化してきている。

 尤も、高齢化に伴い老老介護が厳しい現実となっている。先日も殆ど寝たきりの95歳のT婆さんが肺炎を起こし危篤状態になった。75歳の息子は入院させないで自宅で最後をと言われるので、そうですかとレスピレラトリーキノロンを流し込んで寝かせておいた。親族に招集を掛け一通り顔を見てもらったのだが、三日後には解熱し少し食べられるようになった。昨日往診に言ったら「ありがとうございます」とじきじきお礼を言われてしまった。ところが息子は「あのまま終わればよかった。75の私には世話が大変」と本人の目の前でぶつぶつこぼす。なんともお答えのしようがなくそそくさとお暇したことだ。

 

 

コメント (2)
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