駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

振り回される

2014年05月08日 | 診療

                   

 ハンマー投げは振り回すのが業の見せ所なので、どんなに振り回しても問題はないのだが、患者が医療機関を振り回すのは困る。

 S子さんは55歳精神疾患があり、お嬢さんと二人暮らしをされている。ご本人は日中は家で独りなのだが、大きな問題は無く生活できている。年に二回くらい物が食べられない、ふらつくなどと受診される。会話は成立するのだが、独特の思考回路があり常識的な指示に従われない。

 先日も食事が取れないと干涸らびてふらつきながら受診された。明らかな脱水があるので、補液を開始したのだが、嘔吐され過呼吸と意識混濁が出現した。入院の適応があるとT病院にお願いしたところどうぞという有り難いお返事なので救急車を手配した。救急車とほぼ同時にお嬢さんも到着され、病院はTでなくSにしてくれと言われる。もう手続きを取ってしまったので難しい、救急隊員に頼めば変更可能かもしれないと説明した。救急隊も困って、どうしましょうと相談されたので、お嬢さんがS病院に頼んでT病院を断れば変更できるかも知れないと提案した。私からは患者の家族が嫌がっているのでとは言いにくいし、S病院はT病院より遠方で交渉しないと引き受けてくれないのでやりにくいのだ。

 救急車が患者を搬入してもなかなか発車しない。五分以上経ってようやく動き出した。いろいろやりとりがあったのだろう。本当は私が間に入るべきだったのかも知れないが、快く受けてくれたT病院に嘘も方便とは言っても、断りを入れるのは心が重いのだ。言い出しっぺのお嬢さんに矢面に立って戴いた。ご苦労を掛けたのは救急隊だ。救急隊もやさしくなった。二十年前なら問答無用だった。T病院は医学的には劣っていないのだが、巷では一部看護師の感じが悪いという噂があるようだ。なんだかなあ。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする