駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

記憶の不思議

2013年09月15日 | 小験

                    

 駅前で内科医院を開いて、もう二万人以上の患者さんを診てきたのだが、その多くは時々風邪や腹痛で訪れる方で、一度だけの方も少なくない。久し振りに受診された方は大抵以前診たことがあるなと思い出せるのだが、中に全く思い出せない方もいる。カルテを遡って読んでも記憶が蘇らない。無味無臭と言えば失礼かもしれないが、手がかりとなる印象を残しておられないのだ。

 人間の記憶には偏りがある。こちらの記憶が蘇らなくても、患者さんの方は殆ど必ず憶えておられるので、ちょっとずるいが何となく初めてではないような雰囲気を出して診させていただく。どうも良いにつけ悪いにつけ、この患者さんは・・と何か考えると記憶に残るようだ。つまり、受け流すのではなく、何らかの評価をするとそれが付加されて記憶に残るらしい。美人だなあとか感じの良い方だというのは勿論だが、目つきのきつい人だなあとか感じの悪い人だなあというのも確実に記憶に残る。

 ジグソーパズルが出来上がって行くような不思議な記憶の蘇り方がある。それは長くやっていないと経験できないもので、十一、二歳の時に診ていた女の子が二十歳を過ぎて受診した時に経験する。若い大人の女性なのになんだか、懐かしげな親しげな素振りがある。どこかで見たようなだが果てと思いながら、少女の像が成人した身だしなみの若い女性に重なって行く、「なんだ、・・さんか」。と呟くことになる。大抵、にっこりしてくれる。

 同じ内科の町医者だった兄貴なら「別嬪さんになったなあ」。と言っただろう。

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする