駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

過剰診断の問題

2009年03月27日 | 医療
 おそらく全ての精度管理に当てはまるのだが、95%の精度を99%に高めようとすると数%の努力費用では済まない。何らか新しい方法が開発されれば別だが、倍以上のコストが掛かる、場合によっては達成不可能のこともある。新しい方法が開発されても、その方法で99%を99.5%に高めようとすれば、僅かなコストの負担では済まない。
 似たようなことが病気の診断にも起きている。血液検査で分かる癌などと過剰な期待を与える報道があるが、実際に血液で分かる早期癌はほとんどない。前立腺癌は例外的に血液検査で早期癌を見つけることが可能である。そのために泌尿器科学会ではPSAという血液検査による前立腺癌の検診を推奨している。
 奇妙なことに厚労省はこのPSAによる前立腺癌検診に積極的でない。まだこの検診で前立腺癌死が減ったという科学的なデータが十分でないというのがその言い分なのだが。自治体によっては既に実施して実績を上げているところもあり、勘ぐれば、厚労省の懐具合いが関係しているように取れる。
 問題はこのPSA検診で10%程度、見つからなくても生命予後に関係のない微少早期癌まで見つかってしまうことだ。前立腺癌というのは実は高齢男性の数%に認められる非常に多い癌で、その多くは無症状で前立腺癌を持ったまま他の病気で天命を全うされている。
 しかしながら、どんなに小さくても癌がありそうということになればいろいろな検査を受けることになる。検査にはリスクと費用が付きまとうので、泌尿器科医と健康保険は頭を抱えることになる。それに第一、灰色の疑い例を虱潰し出来るほど泌尿器科医数は多くない。
 どうすればよいか。どうすればよいと思いますか。実はこれは氷山の一角、医療には患者さん達に冷静論理的に考えて頂きたいことが山ほどある。これからも、時々氷山をお見せしましょう。
コメント (4)
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