三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

豊下楢彦『昭和天皇・マッカーサー会見』(1)マッカーサーの意図

2014年05月01日 | 天皇

『マッカーサー回想記』に、昭和天皇がマッカーサーと会見した際に、

私は、国民が戦争遂行にあたって政治、軍事両面で行なったすべての決定と行動に対する全責任を負う者として、私自身をあなたの代表する諸国の裁決にゆだねるためおたずねした。

と言ったので、マッカーサーが感激したことが書かれてある。
豊下楢彦『昭和天皇・マッカーサー会見』を読み、この「天皇発言」にどういう意味があるか理解できた。

マッカーサーは東京裁判の主席検察官キーナンに、昭和天皇は「この戦争は私の命令で行ったものであるから、戦犯者はみな釈放して、私だけ処罰してもらいたい」と言ったと語ったと、田中隆吉元陸軍少将は書いている。
ヴァイニング夫人や重光葵も、マッカーサーから「責任はすべて自分にある。全責任を負う」と昭和天皇が語ったと聞かされている。
ただし『マッカーサー回想記』には、数々の「誇張」「思い違い」「まったく逆」があるそうで、昭和天皇が本当にこのように発言したかは疑わしいそうだ。

通訳をした奥村勝蔵の手記した会見記録によると、天皇の戦争責任にかかわる発言は

コノ戦争ニツイテハ、自分トシテハ極力之ヲ避ケ度イ考デアリマシタガ、戦争トナルノ結果ヲ見マシタコトハ、自分ノ最モ遺憾トスル所デアリマス。

とあり、「全責任を負う」という発言は見られない。

マッカーサーの意図は何か、豊下楢彦氏はこのように説明している

極東諮問委員会の代表団や『ライフ』誌、NHKなど〝表舞台〟においては、自分は戦争に反対であったが軍閥や国民の意思に抗することはできなかったとの「天皇発言」が活用され、だからこそ天皇に戦争責任はなく免訴されるのが至当である、とのアピールが展開された。他方〝裏舞台〟においては、戦争が自らの命令によって行われた以上は全責任を負うとの「天皇発言」がキーナンや田中隆吉に〝内々〟に伝えられることによって、天皇を絶対に出廷させてはならないという両者の決意と覚悟が固められ、〝法廷対策〟におちて見事な成果がもたらされたのである。

「戦争に反対だった」と「戦争の全責任を負う」という相反する「天皇発言」を、マッカーサーは「東京裁判対策」として駆使したと、豊下楢彦氏は指摘する。
つまりマッカーサーは、昭和天皇の戦争責任の回避と日本の占領統治のための天皇の政治利用を意図した。

一方、昭和天皇がマッカーサーと何度も会見した狙いは、自らの戦争責任の回避と日米安保体制の確立であり、マッカーサーと利害が共通していた。
戦争責任については、自らの意図に反する形で宣戦の詔勅を利用したと東条や軍部を非難し、自分は平和主義者だと強調した。
そして、東条らに全責任を負わせ、昭和天皇を不訴追にした東京裁判を肯定、賛美した昭和天皇は、マッカーサーに謝意を述べている。

戦争裁判に対して貴司令官が執られた態度に付、此機会に謝意を表したいと思います。


なぜ昭和天皇が靖国神社に参拝しなくなったかというと、「富田メモ」によるとA級戦犯が合祀されたからであり、自らの意思なのである。

私は、或る時に、A級(戦犯)合祀され、その上、松岡、白取までもが。(略)だから、私はあれ以来参拝をしていない。それが私の心だ。


太平洋戦争は昭和天皇の「意を体した」戦争であったか。
1941年12月1日の御前会議について、昭和天皇は『独白録』で、「反対しても無駄だと思つたから、一言も云はなかつた」と述べている。
昭和天皇の「意に反した戦争」で戦死した人たちは、「天皇のために」戦ったわけではないのだから無駄死だったことになる。
そのことについて豊下楢彦氏はこういう指摘をしている。

天皇は平和主義者であったと主張する立場と、あの戦争は「自存自衛の戦争」であり、そこで倒れた「英霊」のために首相は靖国神社に公式参拝すべきであると主張する立場とが、何ら自己矛盾を惹き起こすこともなく〝共存〟するという、まことに奇妙な〝ねじれ〟現象が長く続いてきたのである。


そして、日本の安全保障について、昭和天皇は米軍による防衛の保障をマッカーサーに求めた。
昭和天皇は第四回会見で

日本の安全保障を図る為にはアングロサクソンの代表者である米国がそのイニシアティブをとることを要するのでありまして、その為元帥の御支援を期待しております。

と発言し、マッカーサーは次のように答えている。

日本としては如何なる軍備を持ってもそれでは安全保障を図ることは出来ないのである。日本を守る最も良い武器は心理的なものであって、それは即ち平和に対する世界の輿論である。自分はこの為に日本がなるべく速やかに国際連合の一員となることを望んでいる。日本が国際連合において平和の声をあげ世界の平和に対する心を導いて行くべきである。

安倍首相をはじめとする集団的自衛権、憲法改正を企む人たちに、マッカーサーのこの言葉を教えてあげたい。

また、現在の憲法はアメリカの押し付けだとして否定する人がいるが、憲法がマッカーサーによって「押し付け」られなければ、憲法改正作業は英米中ソを含む連合諸国11カ国で構成される極東委員会が担うことになり、天皇制が廃止された可能性もあると豊下楢彦氏は言う。

この会見の歴史的な意義は、天皇によるマッカーサーの「占領勢力」への全面協力とマッカーサーによる天皇の「権威」の利用という、両者の波長が見事に一致し、相互確認が交わされたところに求められるべきであろう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 林典子『人間の尊厳』 | トップ | 豊下楢彦『昭和天皇・マッカ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

天皇」カテゴリの最新記事