三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

『昭和天皇独白録』

2014年11月09日 | 天皇

『昭和天皇独白録』は昭和21年、昭和天皇が側近に語った談話をまとめたもの。

田中義一首相が張作霖爆死事件の責任者を厳正に処罰すると昭和天皇に約束したが、処罰しなかったので田中義一首相に辞表を出すよう言った。
「この事件あつて以来、私は内閣の上奏する所のものは仮令自分が反対の意見を持つてゐても裁可を与へる事に決心した」
このことがあってから、昭和天皇は立憲君主の枠を超えて活動することを自ら禁じたとされる。
しかし、何も言わずロボット的存在になったわけではない。

上海事件(昭和7年)は3月3日に停戦した。

天皇の裁可をうけて参謀総長が発する奉勅命令によったのではない。
「私が特に白川(上海派遣軍司令官)に事件の不拡大を命じて置いたからである」

阿部内閣の陸軍大臣が誰にしたいかを命令している。

「私は梅津又は侍従武官長の畑を陸軍に据ゑる事を阿部に命じた」

しかし、言うことを聞かない軍人や政治家もいる。

石原莞爾参謀本部作戦部長の支那事変(昭和12年)不拡大方針に昭和天皇は反対だったらしい。
「当時上海の我陸軍兵力は甚だ手薄であつた。ソ聯を怖れて兵力を上海に割くことを嫌つてゐたのだ。湯浅内大臣から聞いた所に依ると、石原は当初陸軍が上海に二ケ師団しか出さぬのは政府が止めたからだと云つた相だが、その実石原が止めて居たのだ相だ。二ケ師の兵力では上海は悲惨な目に遭ふと思つたので、私は盛に兵力の増加を督促したが、石原はやはりソ聯を怖れて満足な兵力を送らぬ」

三国同盟に昭和天皇は反対していた。

「この問題に付ては私は陸軍大臣とも衝突した。私は板垣に、同盟論は撤回せよと云つた処、彼はそれでは辞表を出すと云ふ、彼がゐなくなると益〻陸軍の統制がとれなくなるので遂にその儘となつた」

昭和16年8月、永野軍令部総長が戦争の計画書を持参した。

「私は之を見て驚いて之はいかんと思ひ、その后及川に対し軍令部総長を取替へる事を要求したが及川はそれは永野の説明の言葉が足らぬ為だから替へぬ方が良いと云ふのでその儘にした」

9月5日、近衛が御前会議の案を見せた。

「之では戦争が主で交渉は従であるから、私は近衛に対し、交渉に重点を置く案に改めんことを要求したが、近衛はそれは不可能ですと云つて承知しなかった」
このように、反対されたり、実行に移さないと、「その儘」にしているわけで、押しが弱いなと思った。

『昭和天皇独白録』の最後に伊藤隆、児島襄、秦郁彦、半藤一利の4氏による座談が載っており、伊藤隆氏、児島襄氏と秦郁彦氏とはいろんな点で意見が異なっている。
たとえば秦郁彦氏は、昭和天皇の「命令」についてこのように語っている。

いままでの解釈では、立憲君主制の本筋に従って天皇は決めない、ただ判こを押すだけである、例外はあったけれどもそれをずっと守ってきた、ということでしたね。しかし昭和天皇の精神構造はじつはそうなっていなかったのではないでしょうか。つまり自分が裁く、自分が命令する。問題は、命令しても裁いても、軍部が強いときには通らないことです。ことごとくそれが押し返されて命令が徹底しない。それに対する猛烈なイラ立ちがあった。

昭和天皇は命令していたが、下が言うことをきかないのを、昭和天皇は立憲君主制に従っていたという神話を戦後の研究者が作ったと秦郁彦氏は言う。
しかし、伊藤隆氏、児島襄氏は「命令」ではなく「意見」だと反対する。

あるいは、秦郁彦氏はこの独白録は東京裁判対策のためだという考えだが、伊藤隆氏、児島襄氏は一笑に付す。(独白録の英語版の発見で、作成目的が東京裁判対策であることが確実視されているそうだ)
豊下楢彦『昭和天皇・マッカーサー会見』に書かれてある昭和天皇とマッカーサーとの対談を考えると、秦郁彦氏の意見に賛成したくなってくる。

もう一つ、国体護持について。
ポツダム宣言受諾の条件として国体護持が絶対だった。
「朝香宮が、講和は賛成だが、国体護持が出来なければ、戦争を継続するか〔と〕質問したから、私は勿論だと答へた」

では、国体護持とは何か?
「敵が伊勢湾附近に上陸すれば、伊勢熱田両神宮は直ちに敵の制圧下に入り、神器の移動の餘裕はなく、その確保の見込が立たない、これでは国体護持は難しい」

三種の神器がなければ護持できない国体とは何なのかと思った。
天皇による祭祀が国体ということか。
そこらを昭和天皇が説明してくれたらよかったのに。

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