三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

死刑囚の子供

2021年12月16日 | 死刑

「和歌山毒物カレー事件の林真須美死刑囚、再審請求し受理される」(6月11日)というニュースがあってすぐ、6月9日に和歌山市内に住む少女(16歳)が心肺停止状態になって死亡し、少女の母と妹が関西国際空港連絡橋から飛び降りて亡くなったことが報道されました。

この女性が林眞須美死刑囚の長女だったことには驚きました。
というのが、その時、和歌山カレー事件林眞須美死刑囚長男『もう逃げない』を読んでいたからです。

今までどんな日々を過ごしてきたのかと思うと、言葉を失う思いがしました。
犯罪加害者の家族の置かれている状況については今までブログに書きました。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/332e09bc1486207c007971f7c74c9403
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/bf66be4010127798e188a4f259f6132f

加害者家族支援をしている NPO法人World Open Heart理事長の阿部恭子さんは大勢から相談を寄せられるそうです。
http://www.worldopenheart.com/rules.html

家族が逮捕されると普通の生活ができなくなります。
・話し相手を失う。
・世間とのつき合いを失う。
・外出が困難になる。
・仕事を失う。
・自殺を考える。
・楽しいことや笑うことに罪悪感を抱く。

子供への影響が大きい。
・子供の進路変更を余儀なくされる。
・私立で学んでいた子供が学費の確保が困難になる。
・不登校になるケースが多い。

平野啓一郎『ある男』は、弁護士の城戸章良が死刑囚の子供を探すという小説です。
ある死刑囚は、幼少期は食事さえ満足に与えられないほどの貧困と、父親からの凄まじい暴力に苦しんだ。
十代から素行不良になり、高校を中退し、両親と絶縁して、一人暮らしを始めた。
結婚して息子が生まれたが、妻や子供に日常的に暴力を振るった。
ギャンブルで借金漬けとなり、連日、取り立てに追われた。
子供会で親しくなった家に金の無心に訪れるが、断られて激昂し、夫婦と子供を惨殺、金を奪って放火した。

城戸は、同じ「子ども会」で、一緒にソフトボールの練習をし、ベースやバットといった用具を預かってもらっていたために、何度もその家に遊びに行ったことのある上級生が、ある日突然、両親共々、惨殺されたと知った朝の原誠の心情を想像した。パトカーや救急車のサイレンが轟く騒然とした町内や、父母が殺到し、泣き声が響き渡る小学校の講堂を思い浮かべた。
そのうちに、他の子供たちとは違って、彼ばかりが、登下校時に、マスコミに事件について訊かれるようになる。死んだ友達のことだけでなく、必ず{お父さん}の様子を尋ねられる。最初から、どこか呆然としていた母親の表情をふしぎそうに見ていた姿を想像する。警察が訪れ、カメラマンが怒号を発しつつ押し合いへし合いする中で、父親が逮捕され、連行された朝の情景を思い描いてみる。・・・
かわいそうに、と城戸は心底感じた。成人後の原誠の背中を思った。掛ける言葉が見つからなかった。


加害者家族の置かれている状況を思いやる想像力が必要ですが、現実は違います。
『もう逃げない』を読み、林眞須美死刑囚の子供たちが理不尽な扱いを受けていることに驚きました。

両親が疑惑の夫婦として報道されると、親戚から、配偶者から離婚したいと言われた、子供が学校に行けないなどと電話があり、母親は泣いた。
両親が逮捕された4人は児童相談所に連れていかれる。
男子部屋に行くと、小中学生7~8人に殴られた。

大人が助けに来てくれることを期待し、部屋の入り口のほうに目をやった。誰も助けてくれなかった。


両親の逮捕後、子供たちは何度も警察署へ連れて行かれ、刑事たちから話を聞かれた。
母がカレーにヒ素を入れたというストーリーと矛盾するようなことを言うと、「そうじゃないだろう!」と机をバンバン叩く。
怖くて言うことを変えると、つじつまが合わないとしてウソつき呼ばわりされた。

X学園という児童養護施設に入園する。
1人当たりの私物はロッカー1つ分と決められていた。
ランドセルや教科書、洗面用具など以外のものをどうやって入れたらいいか迷っていると、職員が勝手に荷物を仕分けして処分した。
間違ってスノコの上に土足で上がると、女性の先生はスネを蹴り、「カエルの子はカエルやな」と言った。

X学園では児相よりももっとひどい暴力にあった。
高校生たちから首を絞められたり、鉄アレイで頭を殴られたりした。
モデルガンで至近距離から額を撃たれ、弾が当たって前歯が折れた。
カレーライスに乾燥剤などを入れられ、うっかり食べて吐き気や腹痛に苦しんだ。
学園ではこづかいが与えられたが、小学生以下の子供たちは上級生に取られてしまう。

見て見ぬふりをした職員たちは日常的に暴力をふるっていた。
食事の集合時間に遅れた、食べるのが遅いと、理由をつけては子供たちをつねった。
つねる場所は服に隠れて痕が見えないところだった。
真冬に裸にされて水風呂に入れられたこともある。

体罰はもちろんよくないが、ぼくにとっては体罰よりも、職員たちの見て見ぬふりのほうが悪質に感じられる。体罰は発覚すれば処罰の対象となるが、見て見ぬふりは、それが「ふり」なだけにまったく改善されないからだ。


裁判所で検事から話を聞かれ、1日6時間以上のこともあった。
長女が「裁判所に行きたくない」と言ったら、園長が「抵抗するならおまえら国賊だ。もっと厳しい学園に放り込んでしまうぞ」と怒鳴った。
もっと厳しい学園とはS学園で、職員が子供を叱る時、「S学園に入れてしまうぞ」という脅し文句を使った。

すべての児童養護施設がこんなわけではありませんが、職員による虐待は珍しくないようです。
「施設で受けた傷 路上生活22歳 「職員の暴力」訴え」
https://mainichi.jp/articles/20210819/ddm/013/040/019000c

長女が入学した高校は入学が決まった時点で保護者たちを集め、「今度、カレー事件の容疑者の子どもが入学してきますが、特別な目で見ないでください」と伝えた。
高校の正門の前でマスコミが待ち伏せしているので、長女は不登校になり、退学した。
長女は大阪で働き始めた。

ぼくのその後の経験では、住居を探すことはもちろん、仕事を見つけることさえ難しかった。どうやって住む場所を確保し、中卒で仕事に就いたのだろう。


父が刑務所を出所した時、大勢のマスコミが長男の高校や学園に押しかけた。
校長は「卒業させてやるから、もう学校に来なくていい」と言った。
レストランで働いていた時、店長に「林眞須美の息子なの?」と質問され、「そうです」と答えると、「うちは食べ物を扱ってる店だから、衛生的に問題があるんだよね」と言われて辞めた。

罪のない子供をどうして追い詰めるのでしょうか。

(長女は)絶対に弱音を吐かなかった。一番上の姉ということもあり、ぼくたちの前でそういう姿を見せてはけないと思っていたのだろう。
誰にも気持ちを吐き出せないということが、どれだけつらいことなのか。いまならぼくにもわかる。
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