三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「死刑囚表現展」のアンケートと平野啓一郎『死刑について』(2)

2024年01月19日 | 死刑
平野啓一郎さんは『死刑について』で、国家の責任を問います。
②国家の欺瞞

死刑判決が出されるような重大犯罪の具体的な事例を調べてみると、加害者の生育環境が酷いケースが少なからずあります。そうした中で、犯してしまった行為に対して、徹底的に当人の「自己責任」を追及するだけでよいのかと疑問に感じたことも、死刑に反対するようになった理由です。

成育環境が悪い人や精神面の問題を抱えている人などを国家が放置し、事件が起きたら死刑を宣告して社会から排除し、何もなかったような顔をすることは国家の怠慢ではないか。
そういう状況に置かれている人たちを、共同体の一員として支えなければならない。

「死刑囚表現展」のアンケートには、「罪を犯した人はこの程度なんだ」という感想がありました。
マスコミの犯罪報道は事件そのものを伝えるだけで、事件の背景や加害者の成育歴などを取り上げ、なぜ事件が起きたのかを掘り下げることはあまりないそうです。

しかし、加害者がなぜ事件を起したのかを描いた小説やドラマを見た人が加害者の生育歴、置かれた状況に同情するなら、死刑だと単純には思わないでしょう。
犯罪を犯す人の多くは貧困、親の依存症や障害、離婚・再婚、虐待などで家庭が居場所になっていなかった。
学校では、親のネグレクト、本人の障害などでいじめられたり、授業についていけないなどで、学校が居場所にならなかった。

私たちが今まで犯罪を犯していないのは、自分がすぐれているからではありません。
「私を育ててくれた両親に感謝したいです」とアンケートに書いている20代の人がいますが、そのとおりだと思います。

平野啓一郎さんが死刑に反対する3番目の理由です。
③例外を設けてはいけない

「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いを突き詰めていった時に考えたのは、「人を殺してはいけない」ということは、絶対的な禁止であるべきだということです。

加害者を同じ目に遭わせてやりたいと思う人がいても、国家がそれをやってはいけないと了解されている。
強姦をした犯人を誰かに強姦させることはない。

ところが、殺人に関しては、犯人も同じ目に遭わせないといけないと信じられている。
例外規定を設けているかぎり、何らかの事情があれば人を殺しても仕方がないという思想が社会からなくならない。

2019年、ひきこもりだった人が無差別殺人を起こした。
すると、ある父親が、自分の息子も長年ひきこもりなので、同じことをするのではという不安を抱き、子供を殺したという事件があった。
この事件に対し、息子を殺したのはやむをえなかったという声があった。

「よほどのことがあったのだから、殺すのも仕方なかった」という肯定の仕方は、間違っている。
一人ひとりの人間は基本的人権を備えていて、命を尊重する共同体であるという前提は、それを破る人が出てきても崩してはならない。

あなたは人を殺したけど、我々の社会はあなたを殺さない、それが我々の社会です、ということを維持しなければならない。
この社会には、一人ひとりに人権が認められているのだから、それは絶対に例外なく侵してはいけないものだということを認識しなければなりません。何か事情があれば人を殺してもよい、という発想自体を否定していくことが、未来の被害者を生まないためには重要なはずです。

アンケートに、「どんな人にも生きる権利はあっても良いと死刑に対する考え方が変わりました」とか、「死刑囚といえど、1人の人間であり、その人権は尊重されるべきである」と書いており人がいます。

死刑は人権問題だと言うと、被害者は人権を踏みにじられたのに、加害者の人権ばかりが大切にされていると言う人がいます。
しかし、生きる権利はどんな人にもあり、例外はないとしなければ、人権はどんどん浸食されます。

人を殺しても罪にならないどころか、ほめれることもあるのは戦争と死刑です。
人の命を大切にしない社会は、いつ私の命を奪うかもしれません。

戦争になると敵も味方もなく、同じ国民でも殺し合うことがあります。
一般人や子供もも命を奪われます。
イスラエルにとって、パレスチナ人は戦闘員も民間人もいつ命を奪ってもかまわない死刑囚のようなものです。

青木理さんは、世界は人権感覚が進歩していると言っています。
ヨーロッパで、青木理さんが日本は8割が死刑に賛成していると言うと、人権問題なのに多数決で決めるのかと言われたそうです。

ヨーロッパ人権裁判所は、受刑者に釈放への希望を認めない終身刑は非人道的で品位を傷つけるものであり、ヨーロッパ人権条約第3条に違反すると判断していました。
https://cdn.penalreform.org/wp-content/uploads/2018/04/Japanese_PRI_Life-Imprisonment-Briefing.pdf
日本では40年以上も出所できない受刑者がいます。

弱者に寛容な社会は誰にとっても生きやすい社会です。
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