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アンフェアなロックノベル

2005-12-17 15:28:01 | 読書
『完全演技者(トータル・パフォーマー)』山之口洋(角川書店)
1980年代、化学を学びながらバンド活動をしていた井野修はメンバーと意見が衝突して脱退するが、オペラのような衣装で非現実的なファルセット・ヴォイスを駆使して前衛的なパフォーマンスを行うクラウス・ネモに出会い、衝撃を受ける。
ネモの2ndアルバムのプロデューサーは、何と大物デビッド・ボウイが務めることになった。
やがてネモのバンドに引き込まれた修は、ネモと愛人兼バンドの一員のジェニファーの呪われた運命を知ることになる…

現実の音楽・映像・演劇から得られる陶酔に比べれば、本書で味わえる幻想作家としての技巧は特筆すべきものではない。
青春小説としての側面もあるので、主人公の青年の語る「ロックはタナトスの音楽」などといった皮相的な音楽観に鼻白むのは仕方ないとしても、許せないのは本書の着想の大部分は今年ドキュメンタリー映画も公開された実在のアーティスト、クラウス・ノミの人生に負っているにもかかわらず、巻末も含め一切そのことに触れていない点である。
このことは洋楽からの「アイデアの剽窃」を平気で行うJ-POPの関係者のモラルの低さとも無関係ではない。
本書を朝日書評で絶賛した巽孝之氏はこれまで立派な仕事をしてきたが、評論家・批評家としての姿勢に問題があると言わざるを得ない。
現実のロック音楽から幻想をふくらませた小説ならば、今となっては古さもあるが、ルイス・シャイナー著『グリンプス』(創元SF文庫)のほうを強く推奨したい。

グリンプス

東京創元社

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