望洋楼での食事を終えたら、三国の旅ももう終わり。三国港駅から福井へ出て特急に乗り継げば、今日のうちに家に帰れるのだが、駅の目の前に魚市場を見つけてふらりと足を運んだ。三国港では16時頃にカニ漁の漁船が帰港して水揚げ、18時からセリが行われると聞いていたのだが、岸壁にはすでに漁船が係留されていて、市場には人影がまったくない。
駅前の通りに並ぶ鮮魚店のひとつを訪れ、今日はセリはないんですか、と聞いてみた。すると「今日は久々に漁に出られたから、沖泊まりのようだね」との返事。三国の底引き網船は14隻で、この時期はほぼカニ漁1本で操業している。漁場までは2時間ほどと近いため、漁は基本的に日帰りである。しかし底引き網船は波があると出漁できず、特に海が荒れがちな冬~春先は1週間以上も漁に出られないこともあるため、天候がよく漁がしやすい時は沖泊まりして漁を続ける事もあるそうだ。この日も17時頃に帰港する予定だったが、結局沖泊まりになってしまったという。
水揚げがないのなら仕方がないので、次の電車までこの店の店先で待つことに。おばちゃんに、今年のズワイガニ漁の様子を尋ねると、「あんまりよくないねえ。今年度は去年のうち(2004年)はあまりとれず、年明けからは出漁できない日が多くて」。越前ガニの主な漁場は三国沖で、交尾する際に水深200メートルほどの浅瀬に寄ってきたところを、底引き網で漁獲する。産卵前のカニは身が詰まっていて、上物は持って重く感じるほど。しかし、近頃は身の入りが今ひとつで、解禁直後は特によくないという。その上、漁獲も減少傾向で、甲羅10センチ以下のカニは網の目を大きくしてとれないようにしたり、ズワイガニとまだ若い水ガニ、メスのセイコガニの漁期を微妙に変えたりして、資源保護にも力を入れているそうである。水揚げが少ないため、身の入りが悪くても高値がつくから何とも皮肉だ。
おばちゃんによると、越前ガニの味の良さは、とれてからの処理によるところも大きいそうである。三国の底引き網船は小型なため、通常は沖泊まりせずにとれた日に帰港、水揚げするので鮮度はバツグン。そしてとれたカニは船上で1匹ずつていねいに網から外して、生け簀で生きたまま港まで運ぶ。カニはショックを与えると危険を察知して自分で足を切ってしまうためで、足がとれるとそこから水が入り、味が水っぽくなってしまうのだ。さらに水揚げ・セリの後にゆでるのだが、大きさにより塩加減や時間を変えたり、いったん真水に入れて殺してからゆでたりと、プロの技術と手間が要求される。ゆでる際にいきなり湯へ入れると、これまた驚いて足を切ってしまうのだとか。
話をあれこれ聞いているうちに、みやげに1杯買ってもいいかな、という気になってきた。といっても高価な越前ガニには、とても手が出ない。店のケースには様々な大きさのカニが、ゆでて味噌がこぼれないようにあおむけに並べてある。ズワイガニはハサミが丸く、足が太くなるにつれて高くなるから、というおばちゃんのおすすめは、やや小柄の「足長ガニ」3150円。値段が手頃な分、足もハサミも確かに細いが、黄色いタグがついた立派な「越前ガニ」だ。そしてさっき食べた水ガニもあり、こちらは半身で2500円。このあたりなら、何とか手が届きそうだ。「これは目玉商品だよ」と指さす方には、足がとれてしまった越前ガニが。やや味が落ちる分、同じ大きさのよりも4000円ぐらい安いのは確かに魅力だ。
結局水ガニ2杯と、カニの底引き網にかかる赤ガレイの干物を宅配便で送ってもらい、すっかり日が暮れた通りを三国港駅へと向かう。福井からはもう今日中に帰れる電車はなく、福井でもう1泊になりそうだ。電車に揺られながら、心ははや駅のそばにある福井で行きつけの居酒屋へ。旅費の残りが少ない身としては、今宵の酒の肴は瑞々しい水ガニか、それとも卵たっぷりのセイコガニか。(2005年3月9日食記)
駅前の通りに並ぶ鮮魚店のひとつを訪れ、今日はセリはないんですか、と聞いてみた。すると「今日は久々に漁に出られたから、沖泊まりのようだね」との返事。三国の底引き網船は14隻で、この時期はほぼカニ漁1本で操業している。漁場までは2時間ほどと近いため、漁は基本的に日帰りである。しかし底引き網船は波があると出漁できず、特に海が荒れがちな冬~春先は1週間以上も漁に出られないこともあるため、天候がよく漁がしやすい時は沖泊まりして漁を続ける事もあるそうだ。この日も17時頃に帰港する予定だったが、結局沖泊まりになってしまったという。
水揚げがないのなら仕方がないので、次の電車までこの店の店先で待つことに。おばちゃんに、今年のズワイガニ漁の様子を尋ねると、「あんまりよくないねえ。今年度は去年のうち(2004年)はあまりとれず、年明けからは出漁できない日が多くて」。越前ガニの主な漁場は三国沖で、交尾する際に水深200メートルほどの浅瀬に寄ってきたところを、底引き網で漁獲する。産卵前のカニは身が詰まっていて、上物は持って重く感じるほど。しかし、近頃は身の入りが今ひとつで、解禁直後は特によくないという。その上、漁獲も減少傾向で、甲羅10センチ以下のカニは網の目を大きくしてとれないようにしたり、ズワイガニとまだ若い水ガニ、メスのセイコガニの漁期を微妙に変えたりして、資源保護にも力を入れているそうである。水揚げが少ないため、身の入りが悪くても高値がつくから何とも皮肉だ。
おばちゃんによると、越前ガニの味の良さは、とれてからの処理によるところも大きいそうである。三国の底引き網船は小型なため、通常は沖泊まりせずにとれた日に帰港、水揚げするので鮮度はバツグン。そしてとれたカニは船上で1匹ずつていねいに網から外して、生け簀で生きたまま港まで運ぶ。カニはショックを与えると危険を察知して自分で足を切ってしまうためで、足がとれるとそこから水が入り、味が水っぽくなってしまうのだ。さらに水揚げ・セリの後にゆでるのだが、大きさにより塩加減や時間を変えたり、いったん真水に入れて殺してからゆでたりと、プロの技術と手間が要求される。ゆでる際にいきなり湯へ入れると、これまた驚いて足を切ってしまうのだとか。
話をあれこれ聞いているうちに、みやげに1杯買ってもいいかな、という気になってきた。といっても高価な越前ガニには、とても手が出ない。店のケースには様々な大きさのカニが、ゆでて味噌がこぼれないようにあおむけに並べてある。ズワイガニはハサミが丸く、足が太くなるにつれて高くなるから、というおばちゃんのおすすめは、やや小柄の「足長ガニ」3150円。値段が手頃な分、足もハサミも確かに細いが、黄色いタグがついた立派な「越前ガニ」だ。そしてさっき食べた水ガニもあり、こちらは半身で2500円。このあたりなら、何とか手が届きそうだ。「これは目玉商品だよ」と指さす方には、足がとれてしまった越前ガニが。やや味が落ちる分、同じ大きさのよりも4000円ぐらい安いのは確かに魅力だ。
結局水ガニ2杯と、カニの底引き網にかかる赤ガレイの干物を宅配便で送ってもらい、すっかり日が暮れた通りを三国港駅へと向かう。福井からはもう今日中に帰れる電車はなく、福井でもう1泊になりそうだ。電車に揺られながら、心ははや駅のそばにある福井で行きつけの居酒屋へ。旅費の残りが少ない身としては、今宵の酒の肴は瑞々しい水ガニか、それとも卵たっぷりのセイコガニか。(2005年3月9日食記)