ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん3…三国港そばの鮮魚店で、お得な「越前ガニ」発見!

2005年09月04日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 望洋楼での食事を終えたら、三国の旅ももう終わり。三国港駅から福井へ出て特急に乗り継げば、今日のうちに家に帰れるのだが、駅の目の前に魚市場を見つけてふらりと足を運んだ。三国港では16時頃にカニ漁の漁船が帰港して水揚げ、18時からセリが行われると聞いていたのだが、岸壁にはすでに漁船が係留されていて、市場には人影がまったくない。 

 駅前の通りに並ぶ鮮魚店のひとつを訪れ、今日はセリはないんですか、と聞いてみた。すると「今日は久々に漁に出られたから、沖泊まりのようだね」との返事。三国の底引き網船は14隻で、この時期はほぼカニ漁1本で操業している。漁場までは2時間ほどと近いため、漁は基本的に日帰りである。しかし底引き網船は波があると出漁できず、特に海が荒れがちな冬~春先は1週間以上も漁に出られないこともあるため、天候がよく漁がしやすい時は沖泊まりして漁を続ける事もあるそうだ。この日も17時頃に帰港する予定だったが、結局沖泊まりになってしまったという。

 水揚げがないのなら仕方がないので、次の電車までこの店の店先で待つことに。おばちゃんに、今年のズワイガニ漁の様子を尋ねると、「あんまりよくないねえ。今年度は去年のうち(2004年)はあまりとれず、年明けからは出漁できない日が多くて」。越前ガニの主な漁場は三国沖で、交尾する際に水深200メートルほどの浅瀬に寄ってきたところを、底引き網で漁獲する。産卵前のカニは身が詰まっていて、上物は持って重く感じるほど。しかし、近頃は身の入りが今ひとつで、解禁直後は特によくないという。その上、漁獲も減少傾向で、甲羅10センチ以下のカニは網の目を大きくしてとれないようにしたり、ズワイガニとまだ若い水ガニ、メスのセイコガニの漁期を微妙に変えたりして、資源保護にも力を入れているそうである。水揚げが少ないため、身の入りが悪くても高値がつくから何とも皮肉だ。

 おばちゃんによると、越前ガニの味の良さは、とれてからの処理によるところも大きいそうである。三国の底引き網船は小型なため、通常は沖泊まりせずにとれた日に帰港、水揚げするので鮮度はバツグン。そしてとれたカニは船上で1匹ずつていねいに網から外して、生け簀で生きたまま港まで運ぶ。カニはショックを与えると危険を察知して自分で足を切ってしまうためで、足がとれるとそこから水が入り、味が水っぽくなってしまうのだ。さらに水揚げ・セリの後にゆでるのだが、大きさにより塩加減や時間を変えたり、いったん真水に入れて殺してからゆでたりと、プロの技術と手間が要求される。ゆでる際にいきなり湯へ入れると、これまた驚いて足を切ってしまうのだとか。
 
 話をあれこれ聞いているうちに、みやげに1杯買ってもいいかな、という気になってきた。といっても高価な越前ガニには、とても手が出ない。店のケースには様々な大きさのカニが、ゆでて味噌がこぼれないようにあおむけに並べてある。ズワイガニはハサミが丸く、足が太くなるにつれて高くなるから、というおばちゃんのおすすめは、やや小柄の「足長ガニ」3150円。値段が手頃な分、足もハサミも確かに細いが、黄色いタグがついた立派な「越前ガニ」だ。そしてさっき食べた水ガニもあり、こちらは半身で2500円。このあたりなら、何とか手が届きそうだ。「これは目玉商品だよ」と指さす方には、足がとれてしまった越前ガニが。やや味が落ちる分、同じ大きさのよりも4000円ぐらい安いのは確かに魅力だ。

 結局水ガニ2杯と、カニの底引き網にかかる赤ガレイの干物を宅配便で送ってもらい、すっかり日が暮れた通りを三国港駅へと向かう。福井からはもう今日中に帰れる電車はなく、福井でもう1泊になりそうだ。電車に揺られながら、心ははや駅のそばにある福井で行きつけの居酒屋へ。旅費の残りが少ない身としては、今宵の酒の肴は瑞々しい水ガニか、それとも卵たっぷりのセイコガニか。(2005年3月9日食記)


魚どころの特上ごはん2…越前ガニに負けない手頃な実力派・「水ガニ」とは?

2005年09月04日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 東尋坊の展望台からの眺めは、実に豪快だ。眼下では岩壁にぶちあたった波が砕け散り、ゴウゴウと波音が響き渡る。断崖絶壁の上から足元を見ているだけで、体が縮こまってしまう。文学碑が点在する断崖上の荒磯遊歩道を歩き、バス通りに出てホッとひと息。予約した食事処までこのまま歩いていくと、ちょうどいい時間になりそうだ。

 この日お昼を頂く「望洋楼」も、昨日の「入船」さらにすぐ隣に立つ「若えびす」とともに、三国屈指の料亭旅館として名高い。建物は、今歩いてきたような海沿いの断崖にとりつくように、日本海にせり出して立っている。だから角部屋にあたる座敷に通されると、さかまく波濤や断崖の海岸線を一望できる素敵なロケーションだ。客室には温泉もひかれていて、日本海を一望する露天風呂付きの部屋もある。

 もちろん、この宿も自慢は越前ガニを中心とした魚介料理。料理に使うカニはすべて、主人が自ら目利きした三国・越前産のカニを使用しているという。お昼は三国の漁師料理「鯛まま」と、水ガニを組み合わせたコース。卓上には、ご飯の上に鯛の刺身をのせて熱々のだし汁をかけた鯛ままと、半分に割られたゆでたカニの皿が、すでに並んでいる。これが「水ガニ」。昨日の越前ガニよりもやや小柄だ。

 前の話で、越前ガニとは福井県内で水揚げされるズワイガニと記したが、「越前ガニ」を名乗れるのは実は成長したオスだけ。水ガニとはまだ成長していない、脱皮直後の若いカニのことを指す。越前ガニよりも割安で、地元では「ズボ」と呼ばれよく食べているという。最近は値段の手頃さと、越前ガニとは違った瑞々しい味わいが人気を呼び、三国だけでなく様々な水揚げ地でも定着しつつあり、山陰でも松葉ガニに対して「若松葉ガニ」と名付けられているほど。その分、値が上がってきているのが気になるが。

 店の人に教わった通り、足を1本折って、殻の関節の手前の部分にツメで切れ目を入れる。脱皮直後なので殻が柔らかく、折るのも割るのも簡単だ。そしてそろりそろりとゆっくり引くと、するりと簡単に身が抜けた。コツさえつかめば、ズワイガニよりも身を出しやすそうだ。純白の身を、口で出迎えるようにしてひと口。トロトロで瑞々しく、まるでクリームのようなに甘みが濃厚である。カニ独特の味と香りがかなり強いようで、ほっこりと食べ応えがあるズワイガニに比べて、まだ成熟途中の粗野な味か。

 今回は食べなかったが、もうひとつ手頃な値段のカニがある。越前ガニのメス・セイコガニで、小柄で身はあまり入っていないが、ミソや卵がうまいのが特徴。いいダシがとれるため、鍋やカニ飯に向いている。水ガニともに、例の黄タグはつかないが、ともに実力は越前ガニに勝るとも劣らずだ。そしてちょっと裏技だが、地元のカニ問屋に聞いたお得なカニの選び方が! 次号の三国・越前ガニ完結編で…。(2005年3月8日食記)

魚どころの特上ごはん1…ブランド蟹の底力! 三国の越前ガニは地元で食うべし

2005年09月04日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 福井からえちぜん鉄道の電車で45分。九頭竜川の河口で日本海に面した三国は、かつて北前船の寄港地として栄えた港町である。回船問屋の商人屋敷が建ち並んだ町並みを歩き、資料館の「みくに龍翔館」で北前船の模型や積み荷などの展示を見物して、宿に戻って三国温泉の湯に浸かりさっぱり。とくれば湯上がりに三国港でとれたお魚で一杯、といきたくなる。三国の名物は何といっても、地元で水揚げされる「越前ガニ」だ。

 越前ガニとは一般的に、福井県内の漁港で水揚げされたズワイガニを指す。漁期は11月6日~3月20日。日本海の海流で数年がかりでもまれて成長するため、身が甘く詰まっているのが特徴だ。北陸から山陰にかけての日本海沿岸は、ズワイガニがとれるところがいくつかあるが、中でも越前ガニの漁場は特に栄養が豊かだという。福井県内を流れる九頭竜川が、山林の植物性プランクトンをたっぷり運んで日本海へ注ぐ。それを、沖合を流れる寒流と暖流が運んできた動物性プランクトンが餌にする。さらにそれを餌に、ズワイガニやエビなど近海の魚介が成長するという訳なのだ。

 この日夕食を頂く「入船」は、三国の市街から東尋坊~越前松島を過ぎたところに立つ、日本海に面した料理旅館である。漁期に合わせてカニ料理を出しており、ひとり1万5000円~が予算の目安。ゆでガニ、焼きガニ、カニのつくりほか、予算によってカニ鍋、カニ雑炊などがつく充実した内容である。建物は料亭旅館だけあり、重厚な和風の雰囲気。玄関にはカニがいっぱい詰まった大きな水槽が据えられていて、到着早々食欲をそそる。

 唐揚げや鍋など、食卓には近海でとれた魚を使った料理がいくつも並ぶが、目をひくのは大きな越前ガニがのせられた皿。丸のままゆでて出されており、鮮やかな紅色が見事だ。足をよく見ると、カニの絵柄が入った黄色いストラップのようなものがつけられている。サービスのおみやげかな、と思ったら、これは福井県内の漁港で水揚げされたことを示すタグで、水揚げされてからセリまでの間に漁師がつけるんです、と店の人。いわば越前ガニである証明で、最近は料理屋や宿では本物であることを示すために、タグつきのままゆでて客に出すことが多いという。

 さっそく太い足を1本、パキッと割ると、身がしっかり詰まってるのがうれしい。ハサミも丸く身がパンパン。ツルリとひと口頂くと比較的さっぱりしていて、瑞々しさが際立っている。淡泊な味わいのため、ついついどんどん進んでしまう。黙々と足を平らげたら、これも大柄な甲羅へと手を伸ばす。中にはたっぷりのカニミソと豆腐(甲羅の裏についた白い部分)がうれしいおまけで、スプーンですくって頂くとこたえられない旨さだ。

 この越前ガニ、ズワイガニの中では1,2の質を誇る「ブランド蟹」で、条件がよいと上物は1パイ4万5000円ほどするのだとか。鮮度や水揚げ後の加工技術が味に影響するため、ほぼ地元の料亭や料理旅館、一部は芦原温泉などの温泉旅館で消費されてしまい、東京や大阪へはまず出回らないという。中でも上物は特に地元・三国の旅館が競り落とすため、うまいい越前ガニを食べるなら三国の宿へ泊まって、ということか。

 ところで、そんな高価な越前ガニなんでそうそう気軽に食べられない、という人もいるはず。そこはカニ処・三国。もっと手軽でおいしいカニももちろんある。以下次号…。(2005年3月8日食記)

魚どころの特上ごはん ~はじめに~

2005年09月04日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 左のプロフィールにもある自著「魚どころの特上ごはん」を刊行してからも、各地の漁港の町や、おいしい魚料理の店を訪れてきました。いずれ続編を…と思ってはいますが、まずはこのブログで順次綴っていきたいと思っています。光文社さんほか各版元さん、「旅で出会ったローカルごはん」ともども、どうか本になりませんでしょうか(笑)。

このテーマは結構、書きたい内容が豊富なため、1本あたり2~3回でうんちく、現地のネタ満載で進めていきたいと思います。では、新たに「おさかな食紀行」へどうぞ!