ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん5…川崎・セメント通りの「東天閣」で、孤独の焼肉没頭食い!

2005年09月19日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 大都市の中でちょっとしたローカル線の旅をしたくなったら、JR鶴見線がおすすめだ。火曜のお昼前、鶴見から京浜工業地帯の臨海地区を行くこの鉄道にぶらりと乗ってみたら、運河を渡ったり、巨大な工場の脇を走ったりと、短い時間ながら変化に富んだ車窓風景を満喫できた。浜川崎駅で南武線に乗り換えれば川崎方面へ出られるが、「小さな汽車旅」はそれだけだと少々物足りない。途中下車して町歩きとばかり、駅から産業道路を10分ほど歩いてみると、焼肉屋やホルモン焼きの看板がいくつも見える通りに出くわした。トラックがガンガン行き交う産業道路から逃げるようにして、この通りへと入ってみる。

 通りを歩きながら沿道の店を観察してみると、産業道路を入ってすぐのところに立つ大きな焼肉レストランのほかは、こぢんまりした焼肉屋が多い様子。軒を連ねるのではなく、まばらに点在している感じだ。夜に賑わうのか、この時間帯に営業している店は少ない一方、ランチの安さには思わず目を疑ってしまう。ある店ではカルビ・ロース400円、プラス200円でライス、キャベツ、スープがつくなど、値段の割にボリュームはかなりのものである。

 焼肉屋以外にも、韓国風居酒屋や韓国雑貨を扱う店など、ところどころにコリアンムードが漂うこの通りは、通称「セメント通り」。大正時代に周辺に設立されたセメント工場群で働く労働者が、この道を通って通ったことから名が付いたという。労働者の多くは韓国人で、周辺に彼らの生活エリアが形成されていったため、韓国の食材や雑貨を扱う店、飲食店が集中することとなった。コンビニでは、袋にハングル文字が書かれた即席ラーメンを売っているほど。そして焼肉やホルモン焼きはいわば、彼らの郷土食であり労働者にとってのスタミナ源なのだ。現在は15軒あまりが集中しており、味も値段も店同士で激しくしのぎを削っている、まさに首都圏有数の焼肉屋激戦区という訳なのである。

「KOREA TOWN」との文字が見えるゲートで引き返しながら店を選んだところ、結局産業道路に近く一番大きな「東天閣」でお昼にすることにした。セメント通りで随一の規模を誇り、30年の歴史をもつ老舗である。立派な入口はホテルの玄関のようで、高い天井や黒を基調とした内装も落ち着いた雰囲気。BGMはクラシックが流れ、焼肉屋にしては少々厳かだ。しかも平日の昼過ぎのため、広い店内に客は自分ひとりだけ。少々腰のすわりが悪いが、腹も減ったことで大きなテーブル席に落ち着いて、さっそくメニューを開いてみる。

 200種類という豊富なメニューと、リーズナブルな値段が売りというだけあり、ランチメニューのカルビランチも750円~とお得だ。迷ったが、結局「おたすけ得盛セットB」と中ジョッキを注文。ご飯とキムチ、カルビスープ、サラダ、コーヒー付きで、カルビが200グラムと大盛りなのについひかれてしまった。軽くあぶって頂くと、脂がのっていて柔らかく、文句なくうまい。まさに舌の上で溶けるようで、ビールも進むけれどどんぶり飯と一緒にかっこんだ方が合う。

 この店、「味本・旅本ライブラリー」で紹介した『孤独のグルメ』に登場しており(店名は出していないが)、主人公の井の頭五郎がたったひとりの店内で、周辺の工場の溶鉱炉や火力発電所のごとくガンガン食べまくるシーンが印象的。「ひとりで焼肉を食べると、何だが休みがないな」と五郎さんがひとりつぶやくシーンがあるが、こちらもひとりのせいか、あぶっては食べ、食べては飲み、と思いのほか早くごちそうさま、となってしまった。『孤独のグルメ』では、「…考えてみれば、焼肉と堀の内ソープ街ってのも、何だかダイレクトだな」と五郎さんが食後にひとりつぶやくシーンがあったのも、ついでに思い出してしまったが?

 東天閣はセメント通りの本店のほか横浜・川崎に3軒の支店があり、新子安付近の第2京浜に面した子安店は車でのアクセスが便利なので、家族で焼肉を食べにいく際によく利用している。品数の豊富さと値段の安さは本店同様で、カルビとロース、ハラミのハーフがセットになった「ハーフ盛り合わせ」980円を2皿、ほか地鶏カルビ、豚トロ塩焼き、レバー焼きなど480~880円の皿からお好みで数品頼むのがお勧め。野菜はナムルにチャプチェ、締めはタルケジャンクッパ(丸鶏のクッパ)やカルビクッパ、冷麺、各種チゲなどご飯もの、麺類も豊富なのがありがたい。家族で食べに行くと、休みなく食べてしまうひとりのときと違い、焼く係のため逆に食べるペースが落ちざるを得ないのが難点だが。(子安店/2005年9月18日食記)