●<家族になる>(1) シニアの婚活
中日 2014年1月1日
家族は変容した。女性が仕事を持って独立。外食サービスの充実や家電の進歩で、男性も炊事洗濯に困らなくなった。歯止めがかからない晩婚化、未婚化。それでも、誰かとつながって生きようとする人は多い。楽しいことばかりではない。相手の弱さ、面倒なことも引き受けて、ともに人生を歩む。それを、その人にとっての「家族」と呼んでもいいのではないだろうか。それぞれの「家族」のカタチを紹介する。
◆計144歳「毎日ほれ直す」
「優しくて頼りになって、毎日なんてすてきな人なのと思うの」
「ありがとうね。そんなにおだてられたら、木に登っちゃうよ」
見つめ合いながら話す村松幸勲(よしのり)さん(74)、美枝子さん(70)の夫妻=東京都大田区。結婚七年目を迎えた今も、アツアツだ。
中高年専門の結婚相談所「茜会」のお見合いで出会った。趣味のゴルフで意気投合。二カ月後、子どもらに結婚を報告し、半年後に婚姻届を出した。「最初から話がはずみ、スムーズだった」と口をそろえる。
美枝子さんは四十一歳で離婚。生命保険会社の営業職に就き、二児を育てた。設備工事会社経営の幸勲さんも六十代前半で離婚し、独り暮らしだった。
相談所に入会したきっかけを、美枝子さんは「年金。額を計算し、生活できないと思った」と話す。付き合い始めから経済的な不安を正直に打ち明けた。
幸勲さんも持病の糖尿病を告白。結婚後は、新妻の手料理のおかげで数値が改善した。「健康に気を付けるようになった。彼女が変えてくれた」
美枝子さんは「今が一番幸せ。動ける間にいろんな所へ一緒に行き、思い出を作りたい」。自宅の至る所には、旅先でペアルックに身を包み、ほほ笑む写真が飾られている。
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高齢化が進み、配偶者との離別や死別を経験したシニア世代にも婚活が広がっている。伴侶を探す理由は「独りは寂しいから。現実的には男性は家事、女性は経済力を求める」と、NPO法人全国地域結婚支援センターの板本洋子代表は言う。ただ、「成婚にたどり着くのは大変。法律婚より事実婚で、友達付き合いを楽しむケースも多い」。長年培った考え方や生活習慣に加え、介護や相続、家族の反対と、若い世代に比べて障害は多い。
埼玉県の女性(59)は相談所で出会った男性と交際して一年。「人生に光が差した」が、子どもには隠したままだ。「離婚でつらい思いをさせた負い目がある。この年で今さら結婚なんて、どう思われるか」。高齢の両親の姿も頭をよぎる。
十年前に妻を亡くした茨城県の男性(78)は「女房のありがたさが身に染みている」と吐露する。娘や孫が近くにいても、孤独感は埋めがたい。前向きに生きようと相談所へ。だが、娘には「お父さん、茶飲み友達ならいいけど結婚はだめ」とくぎを刺されている。
「街中で手をつなぐ夫婦がうらやましい。何げない会話を楽しんだり、スーパーで買い物をしたり。ささやかな幸せでいい」。東京都の女性(63)は、母娘で婚活中だ。これまでお見合いは二十回以上。「亡き妻の話を自慢げに語る人、すぐに体の関係を迫る人、いろんな方がいた」。それでも希望は捨てない。「絶対どこかにいるし、必ず見つけます。独りより二人で暮らしたい
」
◆結び目
村松さん夫妻が大切にしているのは、ゴルフ仲間から結婚祝いに贈られた白鳥の置物。美枝子さんは「私たちの幸せの象徴。震災の時、これだけは落ちても割れなかった」。幸勲さんは携帯電話の待ち受け画面にしている。
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