●第1の判決の 判決概要
平成19(行ツ)260
事件名 財産管理を怠る事実の違法確認請求事件
裁判年月日 平成22年01月20日
法廷名 最高裁判所大法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
判例集巻・号・頁
原審裁判所名 札幌高等裁判所
原審事件番号 平成18(行コ)4
原審裁判年月日 平成19年06月26日
判示事項
裁判要旨 1 市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為が憲法89条,20条1項後段に違反するとされた事例
2 上記の違憲状態を解消するための他の合理的で現実的な手段が存在するか否かについて審理判断せず,釈明権を行使することもないまま,市長が神社施設の撤去及び土地明渡しを請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例
● 第1の判決の判決全文 ~抜粋
第2 1 憲法判断の枠組み
憲法89条は,・・
国又は地方公共団体が国公有地を無償で宗教的施設の敷地としての用に供する行為は,一般的には,当該宗教的施設を設置する宗教団体等に対する便宜の供与として,憲法89条との抵触が問題となる行為であるといわなければならない。
もっとも,国公有地が無償で宗教的施これらによる譲与の申請期間が経過した後も,譲与,売払い,貸付け等の措置が講じられてきたが,
・・・・・・・
それにもかかわらず,現在に至っても,なおそのような措置を講ずることができないまま社寺等の敷地となっている国公有地が相当数残存していることがうかがわれるところである。これらの事情のいかんは,当該利用提供行為が,一般人の目から見て特定の宗教に対する援助等と評価されるか否かに影響するものと考えられるから,政教分離原則との関係を考えるに当たっても,重要な考慮要素とされるべきものといえよう。
そうすると,国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されている状態が,前記の見地から,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えて憲法89条に違反するか否かを判断するに当たっては,当該宗教的施設の性格,当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯,当該無償提供の態様,これらに対する一般人の評価等,諸般の事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すべきものと解するのが相当である。
・・・
2 本件利用提供行為の憲法適合性
(1) 前記事実関係等によれば,本件鳥居,地神宮,「神社」と表示された会館入口から祠に至る本件神社物件は,一体として神道の神社施設に当たるものと見るほかはない。
また,本件神社において行われている諸行事は,地域の伝統的行事として親睦などの意義を有するとしても,神道の方式にのっとって行われているその態様にかんがみると,宗教的な意義の希薄な,単なる世俗的行事にすぎないということはできない。
このように,本件神社物件は,神社神道のための施設であり,その行事も,このような施設の性格に沿って宗教的行事として行われているものということができる。
(2) 本件神社物件を管理し,上記のような祭事を行っているのは,本件利用提供行為の直接の相手方である本件町内会ではなく,本件氏子集団である。本件氏子集団は,前記のとおり,町内会に包摂される団体ではあるものの,町内会とは別に社会的に実在しているものと認められる。
そして,この氏子集団は,宗教的行事等を行うことを主たる目的としている宗教団体であって,寄附を集めて本件神社の祭事を行っており,憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に当たるものと解される。
しかし,本件氏子集団は,祭事に伴う建物使用の対価を町内会に支払うほかは,本件神社物件の設置に通常必要とされる対価を何ら支払うことなく,その設置に伴う便益を享受している。
すなわち,本件利用提供行為は,その直接の効果として,氏子集団が神社を利用した宗教的活動を行うことを容易にしているものということができる。
(3) そうすると,本件利用提供行為は,市が,何らの対価を得ることなく本件各土地上に宗教的施設を設置させ,本件氏子集団においてこれを利用して宗教的活動を行うことを容易にさせているものといわざるを得ず,一般人の目から見て,市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されてもやむを得ないものである。前記事実関係等によれば,本件利用提供行為は,もともとは小学校敷地の拡張に協力した用地提供者に報いるという世俗的,公共的な目的から始まったもので,本件神社を特別に保護,援助するという目的によるものではなかったことが認められるものの,明らかな宗教的施設といわざるを得ない本件神社物件の性格,これに対し長期間にわたり継続的に便益を提供し続けていることなどの本件利用提供行為の具体的態様等にかんがみると,本件において,当初の動機,目的は上記評価を左右するものではない。
(4) 以上のような事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すると,本件利用提供行為は,市と本件神社ないし神道とのかかわり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとして,憲法89条の禁止する公の財産の利用提供に当たり,ひいては憲法20条1項後段の禁止する宗教団体に対する特権の付与にも該当すると解するのが相当である。
第3 職権による検討
1 本件は,被上告人らが地方自治法242条の2第1項3号に基づいて提起した住民訴訟であり,被上告人らは,前記のとおり政教分離原則との関係で問題とされざるを得ない状態となっている本件各土地について,上告人がそのような状態を解消するため使用貸借契約を解除し,神社施設の撤去を求める措置を執らないことが財産管理上違法であると主張する。
2 本件利用提供行為の現状が違憲であることは既に述べたとおりである。しかしながら,これを違憲とする理由は,判示のような施設の下に一定の行事を行っている本件氏子集団に対し,長期にわたって無償で土地を提供していることによるものであって,このような違憲状態の解消には,神社施設を撤去し土地を明け渡す以外にも適切な手段があり得るというべきである。
例えば,戦前に国公有に帰した多くの社寺境内地について戦後に行われた処分等と同様に,本件土地1及び2の全部又は一部を譲与し,有償で譲渡し,又は適正な時価で貸し付ける等の方法によっても上記の違憲性を解消することができる。
そして,上告人には,・・さらに,上記の他の手段のうちには,市議会の議決を要件とするものなども含まれているが,そのような議決が適法に得られる見込みの有無も考慮する必要がある。
これらの事情に照らし,上告人において他に選択することのできる合理的で現実的な手段が存在する場合には,上告人が本件神社物件の撤去及び土地明渡請求という手段を講じていないことは,財産管理上直ちに違法との評価を受けるものではない。すなわち,それが違法とされるのは,上記のような他の手段の存在を考慮しても,なお上告人において上記撤去及び土地明渡請求をしないことが上告人の財産管理上の裁量権を逸脱又は濫用するものと評価される場合に限られるものと解するのが相当である。
3 本件において,当事者は,・・しかし,本件利用提供行為の違憲性を解消するための他の手段があり得ることは,当事者の主張の有無にかかわらず明らかというべきである。
また,原審は,本件と併行して,本件と当事者がほぼ共通する市内の別の神社(T神社)をめぐる住民訴訟を審理しており,同訴訟においては,市有地上に神社施設が存在する状態を解消するため,市が,神社敷地として無償で使用させていた市有地を町内会に譲与したことの憲法適合性が争われていたところ,第1,2審とも,それを合憲と判断し,当裁判所もそれを合憲と判断するものである
・・
そうすると,原審が上告人において本件神社物件の撤去及び土地明渡請求をすることを怠る事実を違法と判断する以上は,原審において,本件利用提供行為の違憲性を解消するための他の合理的で現実的な手段が存在するか否かについて適切に審理判断するか,当事者に対して釈明権を行使する必要があったというべきである。
原審が,この点につき何ら審理判断せず,上記釈明権を行使することもないまま,上記の怠る事実を違法と判断したことには,怠る事実の適否に関する審理を尽くさなかった結果,法令の解釈適用を誤ったか,釈明権の行使を怠った違法があるものというほかない。
第4 結論
以上によれば,本件利用提供行為を違憲とした原審の判断は是認することができるが,上告人が本件神社物件の撤去請求をすることを怠る事実を違法とした判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。そこで,原判決を職権で破棄し,本件利用提供行為の違憲性を解消するための他の手段の存否等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
・・・・・
私は,・・多数意見の判示第2に全面的に賛成するものであるが,多数意見が判示第3において,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すべきものとする点については賛成することができず,本件上告を棄却すべきものと考える。その理由は以下のとおりである。
1 本件は,砂川市の本件利・・
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