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津々堂のたわごと日録

爺様のたわごとは果たして世の中で通用するのか?

■義民七兵衛と「五里先駄賃米」

2025-05-20 06:36:49 | 人物

 久しぶりに悪友が連絡してきて「北里柴三郎記念館」に行ってきたという。そして「義民七兵衛の碑と言うとば見てきたばい。あんた知っとるかい」といつもの熊本弁である。
話には聞いているが実物は見たことはない。

 北里柴三郎先生は世界の偉人だが、この七兵衛さんは、まさしく阿蘇の農民の神様であった。
「義民」とは「民衆のために一身をささげた人」のことを言う。熊本県下でそう呼ばれる人は殆どいない。
加藤清正の治世以来小国郷の人たちの年貢米は、内牧にあった御蔵に運ばれた。処が延宝8年(1680)に至り、納先が新たに設けられた
大津御蔵に変更される。

綱利公治世の時代だが、この変更は農民の苦労を度外視した改悪政策である。
年末を限りとする厳しい年貢米の納期の積雪極寒の中という労苦とともに泊りがけの費用負担を強いられた。
七兵衛なる人は死を覚悟して熊本まで足を運び、延びた距離の五里に対しての手当を奉行所に願い出たのである。
正規の手続きを踏まぬ禁令の「越訴」であったため、捕らえられ吟味の上死罪が決まると、小国郷での処刑を願い出てこれが許され、古里の人々が見守る中で処刑された。
その結果、七兵衛の願い通り伸びた距離の経費として、収める米の1割が免除された。
すなわち、牛馬1頭ににつむ米俵2俵(1俵3斗2升×2)の1割=6升4合を差し引いて納めてよいことなった。
これを「五里先駄賃米」とよぶ。
その儀兵衛について「肥後人名辭書」にも掲載されているので、労を惜しまずご紹介しよう。

  西里儀兵衛(寛政義民)
  人となり高潔にして、意思堅確、且氣概あり、常に曰く小國郷より大津蔵所に納むる駄賃米の五里向願潰をなさざれば小國農民の
  困苦堪へ難しと、其五里向願潰とは、加藤清正領國の時は年貢米は内牧の蔵に納入せしが細川の時に至り、大津蔵納めとなり、五
  里が十一里に延び、六里は納者の負擔重くなりし、駄賃米を公の負擔に改制訴願のことなり。郷中當路者は農民の苦を認め、制度
  變更に焦慮したるも、其の難を恐れて之を訴願するものなし。七兵衛の義侠心は勃然として起り、下城村武右衛門を頼み、駄賃米
  免除の上書を認め、藩廳に越訴したり。七兵衛忽ち獄裏に投ぜられ遂に寛政八年七月二十九日北里村にて死刑、武右衛門は所拂、
  其の他關係者も所刑せらる。然れども、其の所願の素志は七兵衛の死後全く達せられたり。爾来郷民その恵澤を被る多大、小國の
  人は之を寛政の義民と感嘆す。(小國郷土史)

 この恵沢は阿蘇地区一帯に及び、山都町郷土史伝会の「山都町郷土史よもやま咄」には次のような話が紹介されている。

  このことは小国だけに止まらず菅尾手永の小峰村にも大きな影響を与えた。当時、菅尾手永の小峰村の人々は、一旦年貢米を菅尾の
  惣庄屋宅に納めここで検査を受けた。そして清水峠を越え南郷の二子石まで降り、久木野・長陽を通って、俵山の下を廻って錦野へ
  出て大津の蔵所へ納めた。優に2日掛かった。小峰村も年貢の払い戻しが認められ寛政9年(1632)当時小峰村の村高は2306石
7斗
  1升7合2勺で年貢率を五公五民として1153石余となり、3斗2升の俵詰にすると3604俵となり、馬一頭2俵を運んで1802駄となる。
  1駄あたり1割の3斗2升が駄賃米となり、1802駄分の115石余が年貢から差し引かれ、これらのコメが馬見原に売られて酒米となっ
  り、日向に売られたりした。このため小峰村は矢部手永より裕福になった。

 1802駄とはすなわち、その数の馬なり牛を引いて極寒の中11里の道を往復したということである。
延宝8年(1680)から寛政八年七月(1796)の間、約116年間よくぞ農民は耐え抜いたと驚嘆する。
宝暦の改革もこの状態を解消するには至らなかった。

 わが悪友が見学した「義民七兵衛の碑」は、昭和46年7月29日、当時全国町村会会長をしておられた小国町町長の河津寅雄氏によって建立顕彰された。
江戸期の過酷な農政が綱利・宣紀・宗孝・重賢・治年公の時代を通じて存在し、阿蘇の農民の困苦を七兵衛が自らの死を以て解放した。
斉滋公による英断ともいえる「この恩恵は明治の初めまで約100年間続いた。」とも記されているが、その功績については今も小国及び阿蘇の民人の心の中に存在し続けていると信じたい。

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