年末になるとやってくるピアノ調律のおじさん。
(わが家ではサンタさんと呼んでいる)
一年の経過があんまり早いので、
挨拶もそこそこに笑ってしまう。
「一年なって、あっといく間!」
「ほんとに」
笑うしかない、歳月の早さ。
おじさんはすぐさまピアノのフタをはずし、
まるでピアノの内臓をチェックするごとく、
一個一個調律していく。
聞けば、
今年のわが家のピアノは大きく音が狂っている
という。
ほとんで弾くともいえないピアノだが、
弾く、弾かないにかかわらず、
年によって狂いが大きい年があるらしいのだ。
「楽器って、繊細なんですね~」
「そうなんですよ」
繊細でない私は、多少、わが身を恥じていう。
それからおじさんは、
これまで手がけてきたピアノのあれこれを語る。
コンサートまえの調律は、
殺気だつほどの緊張だったし、
個人でも、
T国製のピアノを安易に買ってしまって、
とても調律できる状態ではなく、
正直にお断りしたという。
(その場合はお金は取らない)
私は、
ああ、私の全く知らない調律の世界にも、
あれこれあるのだな、と思う。
かくして、一時間ほどの調律は済み、
サンタのおじさんは
「また来年」
といって、帰っていく。