蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

雪の墓標

2022年08月11日 | 本の感想
雪の墓標(マーガレット・ミラー 論創社)

ヴァージニアは知り合いの建築業者クロードの殺害容疑で逮捕されるが、酩酊していて記憶がない。ヴァージニアの母ハミルトンは大金持ちで、娘を心配してカリフォルニアからデトロイトまで出向き、地元の弁護士ミーチャムを雇う。ロスタフという元会計士がクロード殺しを告白し、ヴァージニアは釈放されるが・・・という話。

1952年刊行の作品だが、遠隔地の連絡に電報が使われる点くらいしか違和感を感じることがなく、現代のミステリといっても十分通じそう。

日経の読書欄で紹介されていて、読み始めると作品の雰囲気にどっぷりとつかることがでる・・・みたいに評されていた。
確かに、全体の3分の2くらいは、ついてない人生を送る人達の悲劇と寒々とした北米の冬を描く、みたいな文学的?な内容で、ミステリ的な仕掛けはないのかな?と思っていたら、そうでもなくてけっこうな意外感があるオチがついていた。
ただ、人名がトリックの一つになっているのだが、伏線がちょっと弱くて「これで気がつけ、というのはキビシイかな?」と思えた。


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おじさんはどう生きるか

2022年08月07日 | 本の感想
おじさんはどう生きるか(松任谷正隆 中央公論社)

冒頭に、(著者が)70歳になろうとしているのでタイトルは「おじさん」ではなく「おじいさん」であるべきなのでは?とある。松任谷正隆といえば、おしゃれでモテて音楽センスもあって・・・というイメージしかないので、その人が70歳というのは、けっこうインパクトがあった。

このサイトで昔、著者が連載しているJAFメイトのエッセイを絶賛?したことがあった。おしゃれなイメージの著者の赤裸々な?失敗談にギャップがあって面白い、といったことを書いたのだが、本書でもその手の話が多い。本書の中で明かしているのだが、どうもそういう露悪的なネタを取り上げるのが本当に好みみたいだ。

本作を読むと、著者が相当に神経質で潔癖症なのがわかる。例えば、コロナで家事分担をして炊事を担当してから台所は水垢一つないように磨き上げないと気がすまない、とか。
そういった性癖がもとで奥さん(ユーミン)と喧嘩になることも多いそう。
そうでなくてもプレイボーイのイメージが強かった著者と売れっ子で超多忙そうなユーミンが40年も夫婦でいて、著者のエッセイを読む限り今でも仲睦まじそうななのは(失礼ながら)とても意外だ。

私の若い頃(バブル前後)、”大人のモテ男”というと松任谷さんと伊集院静さんという感じだったので、その二人ともが実は無類の愛妻家だった、という結果を見ると、マスコミとかが作る虚像(とそれに踊らされている私のような大衆)が、いかにいい加減なものかがわかる。
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作家との遭遇

2022年08月07日 | 本の感想
作家との遭遇(沢木耕太郎 新潮文庫)

著名な作家の作品の評論集。
沢木さんの本業?ではないのだが、評論を書く時は、その作家のほぼすべての作品を読むというのだから、仕事に対する真摯さが並ではない。
それでいて、変にペダンティックにならずに自らの体験なども交えて、面白く読ませよういうサービス精神にも満ちていて、どれも楽しく読める。

評論として視点の鋭さや洞察の深さがすごいな、と思えたのが
「青春の救済」(山本周五郎)、「事実と挙行の逆説」(吉村昭)、「乱調と諧調と」(瀬戸内寂聴)
自らの体験を交えて面白かったのが
「必死の詐欺師」(井上ひさし)、「一点を求めるために」(山口瞳)、「運命の受容と反抗」(柴田錬三郎)

上記のように、ほとんどが超有名な作家ばかりなのだが、近藤紘一と高峰秀子は(そういう意味では異彩を放っている。たまたま私が好きで(著作も少ないこともあって)作品のほどんどを読んだ経験がある人たちだったので、ちょっと嬉しく感じた。
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暮らしの哲学

2022年08月06日 | 本の感想
暮らしの哲学(池田晶子 毎日新聞社)

週刊誌に連載されたエッセイ。

日経の読書欄の「半歩遅れの読書術」で紹介されていたので読んでみた。
このコラムはプロの物書きが昔読んで印象に残った本を紹介するもので、おおよそ5〜10年以上前に出版されたものが多い。なので、掘り出し物を発見したような面白い本もある半面、全くフィーリングが合わない時もある。
本書はどちらかというと後者かな?

昔「14歳からの哲学」を読んだ時は関心したけれど、本書はテーマがバラけていてあまり共感できなかった。

「哲学」なので、ひねたモノの見方がされているわけだけど、愛犬について書かれた数編は著者の本音がでているようで面白かった。
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暇と退屈の倫理学

2022年08月02日 | 本の感想
暇と退屈の倫理学(國分功一郎 新潮文庫)

ラッセルは、20世紀初頭、すでに安定した国家体制となっていた欧州の若者は不幸で、これから革命を迎えようとしていたロシアやアジアの若者は幸福だとした。
自由と豊かさを求めてほぼそれを手中にした途端に、自由と豊かさをどのように享受してよいかがわからず、退屈が人々苛む。現代においても豊かな社会にあって、カルト宗教や過激思想に取り込まれる人が絶えない。

「大義のために死ぬのをうらやましいと思えるのは、暇と退屈に悩まされる人間だということである。食べることに必死の人間は、大義に身を捧げる人間に憧れはしない」(P35)

結局、人というのは、自分が今ある境涯には決して満足できない、ということなのだろう。

本題とはあまり関係ないのだが、ユクスキュルの環世界論と時間概念(時間とは瞬間(1/18秒)の連なりである)が面白かった。

そもそも人はなぜ退屈するのか?なぜ退屈は苦痛なのか?という、ある意味タイトルから想像される最も重要なテーマは末尾の補論で論じられているのだが、難しい内容だった。
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