蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

暇と退屈の倫理学

2022年08月02日 | 本の感想
暇と退屈の倫理学(國分功一郎 新潮文庫)

ラッセルは、20世紀初頭、すでに安定した国家体制となっていた欧州の若者は不幸で、これから革命を迎えようとしていたロシアやアジアの若者は幸福だとした。
自由と豊かさを求めてほぼそれを手中にした途端に、自由と豊かさをどのように享受してよいかがわからず、退屈が人々苛む。現代においても豊かな社会にあって、カルト宗教や過激思想に取り込まれる人が絶えない。

「大義のために死ぬのをうらやましいと思えるのは、暇と退屈に悩まされる人間だということである。食べることに必死の人間は、大義に身を捧げる人間に憧れはしない」(P35)

結局、人というのは、自分が今ある境涯には決して満足できない、ということなのだろう。

本題とはあまり関係ないのだが、ユクスキュルの環世界論と時間概念(時間とは瞬間(1/18秒)の連なりである)が面白かった。

そもそも人はなぜ退屈するのか?なぜ退屈は苦痛なのか?という、ある意味タイトルから想像される最も重要なテーマは末尾の補論で論じられているのだが、難しい内容だった。
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ドリームプラン

2022年08月02日 | 映画の感想
ドリームプラン

ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を育てたステージパパ?のリチャードの物語。

実話はとても有名で、映画としてのストーリーも想定された通りに進む。
ビーナスはほとんど挫折を経験することなく超一流のプロになってしまうし、人種差別とか貧富の格差にも言及するものの、とてもソフトな感じで、いい意味でも悪い意味でもエンタメに特化した作りになっている。

リチャードのそもそもの目的は娘をプロにして大金を稼ぐことだし、コーチはビーナスに才能があると見るや破格の条件(例えばウイリアムズ一家にマイアミの豪邸を提供するとか)で中学生を青田刈り(コーチ料とかはすべて無料のかわり将来の報酬の一定割合を受け取る)するなど、強烈な拝金主義ながら、アッケラカンとしていて、陰湿な部活イメージがつきまとう日本とは大違いだなあ、と感じた。きっとスポーツだけじゃなくて政治とかビジネスとかも似たような活力構造がありそうだ。

テニスに関して素人のリチャードは、プロのコーチの指導を明け透けに批判する。相手が世界トップ級の選手を育てたコーチでしかも無報酬で指導してもらっているにもかかわらず。このあたりもアメリカンだよねえ。

原題は「キングリチャード」。しゃれてる。直訳では無理があるにしても、邦題は一捻り欲しいところ。
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