蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

死体埋め部の回想と再興

2021年04月23日 | 本の感想
死体埋め部の回想と再興(斜線堂有紀 新紀元社ポルタ文庫)

「死体埋め部の悔恨と青春」の続編。
前編で主人公(の一人)が死んでしまったのだが、多分人気が出たので無理矢理続編を書いた感じの内容。

しかし、「その謎解きはムチャだろ」みたいな話が多かった前編よりむしろこなれた?感じでよりよくなっていたと思う。
本シリーズのキモは、死体埋め部創設者?の織賀善一の特異で魅力的なキャラを普通人である祝部(はふりべ)の視点で描く点にあって、推理小説的要素は添え物だと思うので。

そういう意味では、次回作(あるのか?)は、織賀が死体埋め部を創設するまでの壮絶な人生を祝部がゆかりの地を訪ねてしのぶ、みたいな内容になりそうな気がする。
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カセットテープ・ダイアリーズ

2021年04月23日 | 映画の感想
カセットテープ・ダイアリーズ

主人公のジャベドの父はパキスタンからの移民で、イギリスのルートンの自動車工場に長年勤務していた(が、解雇されてしまう)。
ジャベドは友達から紹介されたブルース・スプリングスティーンに熱中するが、父はひややかだった。
バイトしていた新聞社で認められたこともあり、ジャベドは音楽評論などのジャーナリストを目指してアメリカの大学に留学しようとするが、父は強硬に反対する・・・という話。

実話に基づく話だそうで、「ボヘミアンラプソディー」でも見られたようにパキスタン移民に対するイギリスの人の差別意識は露骨だったようだ。
今ではありえないような差別行動が横行していたようだが、移民はじっと耐えるしかなかったらしい。
もっとも本作におけるジャベドの住居は広々していて生活もとても優雅な感じに描かれていたが。

原題は「Blinded by the Light」(ブルース・スプリングスティーンの楽曲名)。
ジャベドがヘッドホンをクビにかけて筆箱くらいの大きさのウォークマンでブルース・スプリングスティーンを聞いているシーンが多いことからつけた邦題と想像されるが、なかなかのセンスのよさ。
しかし、今どきの若い人にあれが昔のウォークマンだと言ったら絶句しそうだなあ。
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エンド・オブ・ライフ

2021年04月17日 | 本の感想
エンド・オブ・ライフ(佐々涼子 集英社インターナショナル)

京都にある在宅医療の病院のスタッフとその患者の終末期におけるエピソードを記録したノンフィクション。
末期がんに冒された(京都の病院に勤務する)看護師の話がメインになっているが、むしろ印象深かったのは、著者自身の母親と、その母親を献身的に介護する父親の話。

健康マニアだった母親は皮肉にも1万人に一人クラスの難病にかかり、体が動かせなくなってしまう。母の料理を期待していつもまっすぐ帰宅するほど仲がよかった父親は、介護従事者が見学にくるほどの手際で完璧に母親の面倒を見続ける。

母親の熱が下がらず入院した時、その病院の看護師の手際が悪く、いつものように介護しようとすると「素人が手を出すな」と怒られる。
このエピソードのように、本書で強調されるのは、良質な医者、看護師との出会いが重要であること。著者が取材した病院のようなところにかかりたいものだと思うが、普通の人にとって医療の選別は困難だ。著者の母親が節制していても難病にかかってしまったりするように、そこも運でしかないのだろう。

自分が死ぬなんてこれっぽっちも思っていなかった若い頃に読んだとしたら、どうということもなかったかもしれないが、高齢者と呼ばれる時期が近づいてきた今、本書はとても感銘深かった。


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ランチ酒(原田ひ香 祥伝社文庫)

2021年04月17日 | 本の感想
ランチ酒(原田ひ香 祥伝社文庫)

犬森祥子は、姑とうまくいかず離婚する。幼なじみの紹介で「見守り屋」(夜中に子供や老人、ペットなどに異常がないか監視する商売)をやっている。楽しみは仕事終りに仕事場所の近くの店でのお酒付きの昼食・・・という話。

転勤して新しい部署で引き継ぎをした時のこと。相手の人はちょっと年上だったのだが、いっしょに昼食に行った時にためらいなくビールを注文したのに驚いた。
その私の表情をみて「ビールくらいいいだろ」とおっしゃったので、今日に限ったことではないのだろうな、と思った。会社の昼飯時に酒を飲む人をみたのは後にも先にもこの時だけだったが、なんともうまそうに飲んでいるので、一度味をしめたらやめられんのだろうな、とも思った。

本書の中で主人公が解説するランチやランチ酒のうまさについては、なんだか井之頭五郎の独白を聞いているようではあったが、確実にランチ酒が飲みたくなる内容であった。

まだらボケっぽいお婆さんと園芸用品などを物色しにドライブするエピソードがよかった。
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ミッドウエイ

2021年04月17日 | 映画の感想
ミッドウエイ

米軍パイロットのディック・ベスト(実在の人物らしい)を主人公に、真珠湾~ミッドウエイの海戦を描く。

太平洋戦争の序盤では、アメリカの魚雷の信頼性は非常に低くて、命中しても不発のことが多かった。このため、艦載機による攻撃でも(命中した時には致命的なインパクトがある雷撃はあえて避けて)爆撃を重視したという。
ミッドウエイでも、日本の空母は急降下爆撃機にやられていて、爆弾なら命中しても航行不能にはなかなか至らないのだが、運悪く艦載機の爆弾などを誘爆させてしまい致命傷となってしまった。

本作では、魚雷の信頼性が低いことを示す場面を挿入するなど、思ったより丁寧な(失礼)作りになっていて好感が持てた。

映像から強く感じられたことは「急降下爆撃で爆弾を命中させるのは思ったより難しそうだ」ということだった。
艦隊上空に護衛戦闘機がいない状況で空母艦隊上空まで進入に成功すれば、急降下爆撃で命中させるのは簡単なんだろうと(まさにミッドウエイの結果などをみて)思っていたのだが、本作では、空母上空まで無傷で進入したとしても、対空砲火をかいくぐって空母の甲板(上空から見ると本当に小さな目標でしかない)に爆弾を落とすのは神業的所業だなあ、と実感できた。

エンドロールによるとディック・ベストは1日で2回の空母爆撃に成功した唯一のパイロットらしい(1回空母に帰投して、すぐ再出撃してまた命中させたというのがすごい)。
彼がいなければ、ミッドウエイの結果、ひいては大戦の行方すら怪しくなっていたかもしれないんだなあ。(ディック・ベストは、ミッドウエイの時に肺をやられて以降は戦闘に参加していないそうである)
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