蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

胡桃に酒

2015年01月04日 | 本の感想
胡桃に酒(司馬遼太郎 文芸春秋(短編集11))

ある民放ラジオの土曜日夕方の番組で、司馬さんの短編を朗読するものがある。
時々、車の中で聞くのだが、実に魅力的な物語のように聞こえ、いつも続きが聞きたくなるが、毎週聞けるとも限らないので、元の小説を探して読むことになる。本作もその一つ。

ただ、かなり前に本作を収載した短編集(「故郷忘れじがたく候う」だったか?)を読んだことがあって、読むのは2回目。ほどよく内容を忘れていて楽しく読めた。

司馬さんの小説も後期になってくると、歴史評論みたいなになってくるが、本作はそういったい書かれているにもかかわらず、物語としてもとても面白い。

本作の主人公は、細川ガラシャ(お玉)。
夫の細川忠興とは戦国一の美女美男夫婦と言われるが、それゆえにか忠興は妻に寄り付く男がいないかと心配のあまり、ほぼ妻を軟禁状態にして男性との接触を禁じたという。

本作は、忠興の悋気の凄まじさ、そしてその犠牲となったガラシャに悲劇をテーマとしているが、裏返して見ると、忠興の妻一筋(だったかどうか史実は調べていないが)の激しい純愛を描いたものともいえる。

忠興は武人として非常に高い能力があった半面、名人級の茶人であり、デザインの才に恵まれて多くの武具を自ら企画・制作したというほどの文化人・芸術家でもあった。
そんな彼を、妻とちょっと目があっただけの庭師を殺したり、妻の居室を爆薬で囲みこんだり、といった狂気ともいえる状態に追い込んでしまうほど魅力的な妻とはどんな人だったのか。
この点では、本作はやや食い足りない印象もあった。かつてのようなフィクションも織り込んだ作風ならそこまで踏み込めたのだろうが、いかんせん、巨匠と呼ばれる立場になった司馬さんとしては、史実を大きく逸脱するような物語にはしにくかったのかもしれない。

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