蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

走れ外科医

2023年05月26日 | 本の感想

走れ外科医(中山祐次郎 幻冬舎文庫)

雨野隆治は、研修医時代から東京下町の牛ノ町病院で消化器の外科医として勤務を続け、5年目になり、ひと通りの診察が手術をこなせるようになった。21歳の末期癌患者(向日葵)が救急に運ばれてくる。葵は雨野に好意を抱き、死ぬまでに富士山に登頂したいと言い出す。

雨野は、恋人のはるかを連れて鹿児島に帰郷する。雨野の指導役の佐藤は、アメリカへの赴任が決まった恋人から、結婚してアメリカで暮らそうと頼み込まれるが・・・という話。

雨野がかつて指導した研修医の凛子が、牛ノ町病院に外科医と勤務することになる。凛子は自治体の首長の娘で恵まれた家庭に育ち、人当たりがよく、コミュニケーション能力が抜群。仕事にも熱心でかつ優秀という、現実にはいそうにないタイプで、多分、著者にとっても理想の後輩を想像して描いたのでないかと思う。読んでいる方ですら「こんな部下や後輩がいてほしい」と思うくらいだった。佐藤の恋人と絡みそうな伏線があったけど、そういうのはやめてもらいたい。

末期癌患者を連れて富士山に登頂するというのは、実際には難しいそうで、まさか実話があったわけではないと思うが、描写はリアルでありながら、物語としてもよくできていて感心してしまった。本シリーズも3冊目ということで著者の小説テク?も洗練されてきたのかも。とても読みやすくて、途中でやめるのが難しい。

厄介な患者の例として、議員、社長、学校の先生が挙げられているが、もっとややこしいのが医者が患者になった場合、というのが笑えた。玄人の客ほど面倒くさいものはない、というのはどの業界でも共通だなあ。

 


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