蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

オリーブの実るころ

2023年06月17日 | 本の感想

オリーブの実るころ(中島京子 講談社)

夫婦や家族の微妙な心もようを描いた短編集。

「家猫」は、身勝手な夫とその母は、自分たちの行動の自己中心性に全く気づいていない、という話。

「ローゼンブルクで恋をして」は、妻を亡くして1人暮らしを始めた父親が、「終活をする」といって出掛けていた先は、女性候補の選挙事務所だった、という話。息子夫婦と付かず離れずの距離感を保ち、小さなアパートで暮らす父親の風景がいい。

「川端康成が死んだ日」は、円満な家族だったはずなのに、ある日突然浮気相手の元に走って連絡が途絶えた母が(長い年月を経て)亡くなった、という連絡が入る、という話。

「ガリップ」は、夫に懐いて住み着いてしまった白鳥の話。白鳥が30年以上長生きするというのは本当だろうかと検索したら、この話にはモデルとなった実話があったことがわかった(実話の方の白鳥の名前と同じタイトルにしたのは、変に剽窃の疑いをかけられない用心?)。この話が一番面白かった。夫と仲良しの白鳥は明らかに妻に対抗心を抱いていて、でもまさかそのことで夫に文句を言うこともできず・・・という妻の心持ちが面白く描かれている。

表題作は、北海道の大きな漁師の後継だった男には心に決めた人がいたが、親掛かりで別の女性と結婚させられてしまう、という話。男は様々な策を巡らせるが、あまり上出来とは言えないものばかりで、結果も思わしくなかった。しかし男はひょんなきっかけから思い人の消息を知る。

「春成と冴子とファンさん」は、デキ婚を決意したハツが相手(宙生)の父(春成)と母(冴子)に会いに行く、という話。春成(透析患者なのに手を尽くして方々を旅している)と冴子(年取ってから知り合ったファンさん(女性)をパートナーにしてリゾート地で暮らす)のキャラがとてもいい。


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