蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

指の骨

2017年11月19日 | 本の感想
指の骨(高橋弘希 新潮文庫)

南方の島の戦闘で銃弾をあびた主人公は野戦病院に収容される。病院ではマラリアなどで多くの患者が死亡していくものの、戦場にあるとは思えないほど静謐な時が流れていく。しかし、米軍が間近に迫っていることがわかり、移動できる患者たちは部隊との合流をめざし歩き始めるが・・・という話。

戦争中、日本軍では戦死した兵士の指先を切り落として骨にしたものを遺品としていたそうである(本書で描かれていることで、本当かどうかはわからない)。
指先を切り落とした後、そのままでは腐敗していまうので、燃やして骨にしたそうなのだが、補給が絶えた部隊でこれをやったことがカニバリに発展するきっかけになった、というエピソードも本書に登場するのだが、こちらはおそらく著者の想像に基づくものだろう。

著者は戦争体験は全くないそうだが、病院や戦場の描写は(そこそこ戦記物を読んでいるつもりの私にとっても)特に違和感はなかった。
しかし、本書は単に舞台に戦場を選択したに過ぎず、戦争の悲惨さを描こうとしたというよりは、自分の力ではどうしようもない運命に翻弄される人生の滑稽さと、それでも生きていることの輝かしさをテーマとしているのかと思えた。

原住民とカタコト?の現地語で交流する主人公の同僚や絵が非常にうまい入院患者を描いた場面が特に良かった。

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