蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

巨鯨の海

2015年02月21日 | 本の感想
巨鯨の海(伊東潤 光文社)

「城を噛ませた男」に所収の「鯨の来る城」がとても良かったので、本書も読んでみたのだが、「鯨の来る城」を上回る出来だった。

紀州の太地は古くから捕鯨を生業とする地だが、江戸初期に鯨を網にかけて捕獲する方法を開発して漁獲量を劇的に増大させ殷賑を極める。明治初期にはアメリカの乱獲がたたって衰え、「大脊美流れ」と呼ばれる海難事故でとどめをさされた。本書は、捕鯨の利益で事実上の自治権を持っていた江戸期の太地の独特の風習と倫理、そこに生きる人々を題材とした短編集。

捕鯨を見物しにいった子供たちが港にもどれなくなって漂流する「物言わぬ海」、「大脊美流れ」を描いた「弥惣平の鐘」が非常に良かった。
ともに難破をテーマにして、テンポよく緊迫感を高めていくので、ページを繰る手が止まらなかった。ただ、結末が少々尻切れトンボ気味なのが残念。特に「物言わぬ海」の最後の部分は余分だったと思う。
ミステリ的味付けの「恨み鯨」、「比丘尼殺し」も面白く、レベルが高い作品集だった。


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