蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

創るセンス 工作の思想

2010年03月16日 | 本の感想
創るセンス 工作の思想(森博嗣 集英社新書)

子供のころから、何かしらの工作を続けてきた著者が、もの作り(創造)こそが人生であるという主張を述べたエッセイ。

なぜもの作りをするのか? 著者の答えは「工作の神様」に褒められること、だとする。
工作の神様とは、自分自身のことで、手抜きをしていないか、出来栄えを評価しているのか、は、結局作っている本人が一番わかるからだという。

これは、つまり自己満足こそが究極の評価、あるいは幸せであるということだと思う。(「自己満足」というワーディングは一切出てこないが)

私も、50年近く生きてきて、やっと最近、本当に自己満足できることこそが幸福であると思えるようになった。(単に誰も褒めてくれないためかもしれないが)

他人から褒められたり、良い評価を得られた(例えば出世して高い地位を得た)としても、その場はうれしくても、後から考えるとどこかむなしい。
他者からの評価というのは、どこまでも相対評価なので際限がない。例えばサラリーマンが努力を重ねて社長になって(他者からの評価を得て)も、もっと大きな会社の社長がうらやましくなるだけのような気がする。日本で最高の勲章を得たとしても、今度はノーベル賞がほしくなるとか。

しかし、心底自己満足ができたとすれば、それは絶対的な評価なので大きな幸福感を得られるはずだ。困難を極めた仕事がやっと(それが成功でも失敗でも)終結を迎えた時の安堵と、おれはよくがんばった(誰も褒めてくれないけど)という思いほど幸せに近いものはないと思う。

そして、自己満足の別の名前は、プライドという。

「どんな物体であっても、計算どおりにものが出来上がることは奇跡だといって良い。これをまず肝に銘じてほしい。もし期待どおりに機能するものが作れるとしたら、それは、あらゆるばらつきを考慮した設計がなされているからにすぎない。そして、そのばらつきは、作ることの繰り返し、その試行錯誤からわかってくるものだ」(P47)

→あらゆるばらつきを・・・というところが、「なるほど」という感じ。


「「技術のセンス」がどんなものかを説明して行きたい。時系列に箇条書きにすると、こんな感じになる。
①上手くいかないのが普通、という悲観
②トラブルの原因を特定するための試行
③現場にあるものを利用する応用力
④最適化を追求する観察眼」(P100)

→特に①において、トラブルに対する簡単で万能な対策は、「時間的に余裕」を見ておくこと、という主張に強く共感できた。

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