蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ガソリン生活

2016年07月18日 | 本の感想
ガソリン生活(伊坂幸太郎 朝日文庫)

望月家のマイカーは緑色のデミオ。人間は気づいていないが、車は知能を持ち車同士でおしゃべりや情報流通をすることもできる。緑デミオを普段は隣家のカローラ(通称:ザッパ)と雑談をして過ごしている。
望月家では、長女が交際相手の男の交友関係で悩み、次男は小学校でいじめにあっていた。ある日ドライブ中の望月家は地元に住むカリスマ的女優を偶然デミオに乗せるが・・・という話。

車が人間みたいに話すという絵本みたいな設定は案外素敵で、車同士の会話場面が本書で一番楽しめるところだった。特に隣家の年老いた?カローラ:ザッパは、その持ち主の校長先生(この先生が長年の不良生徒の補導経験から、やたらとケンカ?に強い)ともども魅力的なキャラだった。

私は車の運転がヘタだし、それゆえあまり運転が好きでないので週に1回買い物に使う程度なのだが、本書を読んで「ああ、わが愛車も全くかまってくれない持ち主に愛想をすかして、駐車場で隣にとまっているフォレスターに愚痴を言っているんだろうなあ」なんて思ってしまった。

自動車の自動運転は、技術的にはほぼ完成しているらしいし、近い将来AIを搭載した車も登場しそうなので、人間が知らないところで車同士が意思疎通しているなんて未来は一概に荒唐無稽とは言えないのかもしれない。というか、すでにコミュニケーションが成立してたりして・・・なので、本書でも登場するキングの「クリスティーン」みたいに、立腹?した自動車が人間に襲い掛かる、なんてこともありえるかもしれない。

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ビッグデータ・ベースボール

2016年07月18日 | 本の感想
ビッグデータ・ベースボール(トラヴィス・ソーチック 角川書店)

2013年のシーズン、それまで20年以上シーズン負け越しを続けていたピッツバーグパイレーツは、過去のデータ分析から得た情報を重視した戦術を採用し、さほどの戦力補強もなしに所属地区2位になりプレーオフに進出した・・・という話。

パイレーツが採用した主な戦術は、
①大胆な守備シフト
②投手に(シフトを生かすために)ゴロを打たせる投球をさせる。
③ピッチフレーミングを重視(フレーミングのうまい捕手をFAで取る)

①、②は、MLBのTV中継を見ていると、左の強打者の時に内野手全員がセカンドよりも右側に寄っている、なんてシーンを時折見かけますのであまり驚かないのですが、③は初耳でした。
ピッチフレーミングとは、本当はボールなのにキャッチャーがミットをうまく動かして捕球し、ストライクに見せかける技術のこと。TVでもよく見かけますが、そもそも素人が見てミットが動いて見えるようではダメなようです。
そんなもの大した影響ないだろ、なんて思ったのですが、数値化してみると、とても大きな効果があるそうです。パイレーツは独自の分析でフレーミングがうまい(しかし打率等が悪くて全体としての評価が低い)キャッチャーをピックアップしてFAで獲得し2013年の好成績につなげたそうです。

本書でもしばしば指摘されているように、データを見せられても現場の感覚に合わない作戦は、よっぽどの覚悟がないとなかなか(継続的には)採用されません。
例えば、「ノーアウトランナー一塁での送りバントは最悪の戦術」というのがデータから明らからしいのですが、日本では(プロ野球でも)まだ当然の戦術(というか昔に比べて送りバントって増えているような気がします)ですし、見ているファンの視点でも「へたに打たせてダブルプレー、なんて場面だけは見たくない」なんて(私なんかは)思ってしまいます。

これは野球に限ったことではなくて、それまでの常識を一変させるような統計的事実を受け入れるのは、実生活でもビジネスでもとても難しく、このあたりの意思決定方法をどのように変えていくのか、というのがいわゆるビッグデータ時代の大きな課題なのでしょう。

投球や打球の軌道等を精密にデータ収集する機器は(アメリカで)既に開発されているそうで、日本の野球界でもいつの日か「ビッグデータベースボール」が見られるかもしれませんが、少なくともアメリカに比べて受入れに要する時間は相当に長くなってしまいそうです。

余談ですが、ピッチフレーミングなんて(一見、重箱のスミとしか思えないような)所までデータを収集して分析しているのですから、審判のジャッジの癖や傾向の分析はいの一番にやっていると思うのですが、(ホームタウンデシジョンの傾向については言及がありましたが)そういう話題は登場しませんでした。
これは、球団としても「ジャッジを分析してそのウラをかくようにしている」なんてことは公言しにくところなんでしょうな。
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新徴組

2016年07月18日 | 本の感想
新徴組(佐藤賢一 新潮社)

清河八郎に連れられて京都に行ったものの、何もしないうちに江戸に戻った浪士たちによって結成され(そのまま京都に居ついた人が作ったのが新選組)庄内藩預りとなって江戸の治安維持にあたったのが新徴組。新選組とは知名度が違いすぎて、私も本書を読んで初めてその存在を知りました。

新徴組は、戊辰戦争のきっかけとなった薩摩藩邸焼き打ち事件を起こした後、庄内藩の指揮下で戊辰戦争を戦いますが、日本海側での戦闘では近代化された庄内藩は負け知らずでした。そのためか(あるいは豪商本間家の献金のせいか)戦後は異例の寛容な処分で済んだそうです。

庄内藩の重臣の酒井吉之丞が新徴組や藩兵に西洋風の教練(やたらと行進させる)をほどこすシーン、沖田林太郎(総司の義兄で新徴組の幹部)が三段突きで示現流の達人を倒すシーンが印象に残りました。

昔読んだ「双頭の鷲」があまりにも良かったので、佐藤さんの著作はけっこう読んでいるのですが、どうも「双頭の鷲」ほどには盛り上がらないのですよねえ。
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殺人者たちの午後

2016年07月18日 | 本の感想
殺人者たちの午後(トニー・パーカー  沢木耕太郎訳 新潮文庫)

沢木さんの新刊は(翻訳書も含め)たいてい読んでいるのですが、本書は、単行本が出た時は気づいていませんでした。今回文庫にはいって書店でみかけて買いました。

イギリスでは殺人罪が確定すると(殺した人数や情状に関係なく)すべて終身刑になるそうです。終身刑といっても罪状や刑務所での態度により収監期間が決まります。社会に戻しても問題ないと判断されれば(厳格な保護観察付きですが)釈放され、普通の生活ができるとのこと。

本書はそうした殺人の経験がある人たちに生い立ちや犯行状況、刑務所やそこを出てからの暮らしぶりなどをインタビューしたもので、かなり重い内容ですが、やはり訳がいいのか、非常に読みやすい印象でした。

たまたまインタビューされた人がそうだったのかもしれませんが、ほとんどの人は両親に愛された経験がなく、貧しい生い立ちで、動機らしい動機を持たずに衝動的に殺人を犯してしまっています。

だから死刑がないイギリスのような制度がいい、とまで言うつもりはありませんが、矯正プロセスは日本よりかなり充実しているような気がしました。
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